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第25話 騎士隊と国王

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 エリックが目覚めた事で元気を取り戻したカレンは、朝食をモリモリ食べるとヘイリーに元気よく言った。

「エリックに聖女の加護を授けて来るわよ!」

「フフッ。ええ、食事もたくさん食べられて、昨日とは比べ物にならないくらい顔色も良いですからね。エリック王子が目覚めた事が良薬になりましたね」

 とヘイリーは優しく言う。

 カレンは照れ臭く笑うと、エリックの部屋をノックして開けた。

「エリック王子、おはようございます!」

 ちょうど、エリックも朝食が終わった所だったようだ。

「ああ、カレン、おはよう。朝から元気だな。どうした?」

「加護を授けに来たんです。まだ、全然、本調子じゃないでしょう?」

 と言って、エリックの腕に触れる。

 ジョアンナ王妃には、まだエリックが目覚めた事は黙っていた。元気なエリックの姿を見せて驚かせる作戦だ。

 カレンが聖女の加護を授けていると、デヴォンがカレンを呼びに来た。

「カレン様、ジョアンナ王妃がお呼びです。見せたいものがあるとかで……、どうしますか?」

「良いわよ。行くわ」

 カレンは立ち上がると、エリックを強い瞳で見た。
 エリックもカレンを見ると力強く頷いてくれたので、カレンは一瞬微笑むとジョアンナ王妃の元へ向かった。

 ジョアンナ王妃はカレンを外へと呼び出していた。そこには整列する大勢の騎士がいた。

「見てください聖女様。この騎士隊を。ヴァーンと結婚すれば、この王国騎士隊も一緒に魔王討伐に同行するのです。これなら次は必ずや魔王を倒せますわ!さあ、エリックと離縁すると言いなさい!」

 カレンは騎士隊を一瞥した後、ジョアンナ王妃をしっかりと見据えた。

「私はエリックとは離縁しません。魔王討伐は彼と最後までやり遂げます」

「まだ、そんな事を言っているの!?エリックはまだ目覚めてもいないのに、そんな事が出来るわけないでしょう!!」

 すると、カレンの後ろからエリックが現れた。

「なんて事!?目を覚ましたの!?」

「ええ。昨日俺の枕元で騒いでくれたお陰で、起こされてしまいました」

 とエリックは得意気な顔で笑った。

 ジョアンナは悔しそうに唇を歪ませると言った。

「しかし聖女様!エリックと行くというのなら騎士隊は一緒には参りませんよ?それでもいいんですか?」

「ええ。構わないわ」

 カレンもエリックの真似をして得意気な顔で笑ってみる。

 するとジョアンナは歯をギリギリとさせて、今度はエリックに言った。

「エリック!あなたはそれで、いいの!?また、聖女を危険に晒す事になるし、今度こそ、死ぬかもしれないのよ!?それでも離縁しないというの!?」

「ジョアンナ王妃、俺はカレンと約束したんだ。必ず魔王を倒すと。だから、彼女と離縁するつもりはない」

 ジョアンナはその答えにフンッと鼻を鳴らす。

「あなた達だけで倒せるわけないでしょう。元に昨日まで瀕死の状態だったじゃない。まあ、いいわ。せっかく連れてきたけれど……。さあ、帰るわよ」

 とジョアンナは騎士隊に向けて言った。

 しかし、騎士隊は誰一人動かず、その場に佇んでいる。

「ちょっと、何してるのよ!?帰るって言ってるでしょ!?」

 すると、騎士隊の一人がハッキリとした声で言った。

「俺は、帰りません!このままエリック王子に同行します!」

「な、なんですって!?」

 すると、もう一人の騎士も

「俺も帰りません!」

 と言い出した。

「お前達!そんな事言っていいと思ってるの!?家族がどうなってもいいの!?家は爵位を剥奪されてもいいの!?」

 ジョアンナが詰め寄ると騎士は毅然とした態度で言った。

「魔獣や魔王が暴れまわっていて、もういつ家族が襲われるかも分かりませんから!」

 するともう一人の騎士も

「このままじゃ、先に魔王に国が滅ぼされます!国がなくなれば爵位も何もありませんから!」

 と言った。
 そして、そのまま騎士隊全員が一斉に声を上げる。

『我らは皆!エリック王子と聖女カレン様と共に!魔王討伐に同行します!!』

 それに怒りを顕にしたのは、ジョアンナは怒鳴った。

「エリックに同行するですって!?そんな事を言う者は全員クビよ!!王国騎士隊でもなんでも無いわ!!」

 すると、今まで静観していた国王が重い口を開いた。

「ジョアンナ、魔王討伐は希望制。これはお前とシーリー公爵の提案で、王国会議で決まった事だろう!!彼らが自分の意志でエリックに同行すると決めたのだ。それを覆す事は王妃であろうと断じて許さん!!」

 国王の迫力にジョアンナは口をワナワナさせて何も言う事が出来なくなった。

「エリック……」「ああ……」

 エリックとカレンは騎士隊や国王の言葉に感動していた。

「共に魔王を倒そう!!」

 エリックの声に『はい!!』という騎士隊の大きな声が響いたのだった。
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