3 / 39
1章:仕置人たち
第3話 とある不良少年(2)
しおりを挟む
切っ掛けは、そいつが毎日弁当を作ってもらってることだった。
俺は毎日200円程度のパンひとつなのに。
そいつは、毎日母親に弁当を作ってもらってる。
チビのくせに。
妬ましく感じて、そいつの仇名を「チビマザコン」にしてやったんだ。
そいつ、黙ってた。
怒らないのがムカついたから、軽くぶん殴ってやった。
それでも何もしない。
金を出せと言ってやった。
別に小遣いが足りてないわけじゃなかったが、ちょっと興味あったんだ。
こいつ、どこまで俺に従うのかな?と。
じゃあ有り金出してきやがったよ。
思わず笑ってしまった。どんだけヘタレなのよ。
毎日毎日有り金奪って、ある日、そいつの財布が空になった。
聞くと、もう貯金も何も無いんだ、とか。
俺は言ったね
「明日までに財布をいっぱいにして来い。そうしないと叩きのめすぞ」
そしたらさ
そいつ、ビルから飛び降りて、死にやがったのよ。
さすがに、問題になった。
俺は学校に居られなくなって、転校した。
そのときに、俺に興味がないと思ってた母ちゃんが、チビマザコンの母親から俺を守ってくれて。
嬉しくて、胸がいっぱいになった。
俺は愛されていたんだ、ってやっと分かったんだ。
「……心当たりがあったか? まぁ、どうでもいいけど」
目の前のヘルメットは、心底興味なさそうにそう言ってきた。
そして立ち上がり、スタスタと近くのフェンスに近寄って。
手に持ってた、俺のスマホを、ブン! と振るった。
すると。
俺のスマホが、日本刀に化けたんだ。
どうやったのか全く分からない。
俺のスマホを何かに捧げて、代わりに日本刀ひとつと瞬時に交換したみたいだった。
そして、ヘルメットはその刀を振るった。
フェンスが斬られ、大きな穴が開いた。
そして、言ってきた。
「さぁ、ここから飛び降りろ。それで僕の仕事は完遂する」
……冗談じゃない!嫌だ!!
俺は逃げようと身を起こした。
幸い、昇降口が今は無人だ!逃げられる!!
だけど。
ドスッ!!
俺のふくらはぎに、何かが突き刺さった。
「ぎゃあああああああ!!!」
痛みにのたうち回る。
のたうち回りながら、見た。
ふくらはぎに、忍者の投げる十字の手裏剣が刺さっていた。
「……手裏剣はまだあるぞ。今『創った』からな」
フェンスの穴の傍で立ったまま手裏剣でお手玉しながら、そいつは淡々と言った。
そいつはさらに続ける。
「お前が知らないだけで、この世にはこういう超能力を持ってるヤツがちょくちょく居る……僕はその1人なんだな」
そいつの意図は良く分からなかったけど……
おそらく……
弾切れを期待しても無駄だ。
これを俺にワカらせるためだったのだろうか?
極めて事務的な口調で、そいつは
「まだ立てるよな?さっさと飛び降りろ。ここは7階建てビルの屋上だが、絶対に死ぬと決まったわけじゃない」
何の感情も無い声で
「運が良ければ助かるよ。まぁ、一生車椅子は避けられんだろうけど」
……そいつの言い方に、俺は震えた。
脅しじゃなく、事実を言ってるだけだ。それが肌で分かってしまったから。
嫌だ……嫌だ……!
「……悪かったと思ってる……羨ましかったんだ……だから……許して!!」
「僕に言われても。お客さんが判断したことだしな。まぁ、諦めて飛び降りてくれ」
……話が通じない!
嫌だ……助けて……母ちゃん……!!
俺は泣いていた。恐怖で。
気が付いたら嗚咽を漏らして泣いていたんだ。
でも、あいつは何も感じないようだった。
「……まだ手裏剣が足りないのか?」
ドスッ!
「あぎいいい!!!」
手裏剣が、俺の頬に突き刺さった。
苦しむ俺に、そいつは続けた。
「……そこで失血死するまで、手裏剣を浴びたいのか? それならそれでもいいが、僕はできればお客さんの要望は叶えたいんだがな?」
フゥ、とため息をつきつつ
「……いいか? そこにいる限り、お前は死ぬまで手裏剣を身体に浴び続けることになるんだが、飛び降りればワンチャン、超低確率だが生き残る目があるんだぞ?」
やれやれ、といった感じで、そいつは言い放った。
「どっちの選択肢が賢いのか、そんなことも分からないくらい、頭悪いのかね? お前?」
ひゅうううううう、という音がやけに大きく聞き取れた。
風が吹いているんだ。
怖かった。
足を引きずりながら、ヘルメットが開けた穴から、フェンスの外に出て。
屋上の縁に立ち、下を見下ろす。
30~40メートルはあるのだろうか?
そんな気がした。足の震えが止まらない。
涙も止まらない。
ここから飛び降りて、生き残る未来が想像できない。
踏み出せば、確実に死ぬ。
でも。
そうしなかったら、もっと確実に、「殺される」
この、ヘルメットに。
だからもう、やるしかないんだ……
チビマザコンのやつが勝手に死んだせいで、こんな目に遭うなんて……!
なんで……なんでだよ……!!?
怖くてたまらなかった。だから、叫んで、自分を奮い立たせた。
「うおおおおおおおおおおお!!」
声が尽きるほど叫んで、身を投げ出した。
重力が、無くなる。
落ちながら、思い出した。
母ちゃんが、全く構ってくれなかった人生を。
ずっと愛されてないと思ってた。
でも、そうじゃなかったとやっとわかったのに。
「母ちゃん……」
これから、だったのに。
ぐんぐん、アスファルトが……迫って……
ドチャ!!!
俺は毎日200円程度のパンひとつなのに。
そいつは、毎日母親に弁当を作ってもらってる。
チビのくせに。
妬ましく感じて、そいつの仇名を「チビマザコン」にしてやったんだ。
そいつ、黙ってた。
怒らないのがムカついたから、軽くぶん殴ってやった。
それでも何もしない。
金を出せと言ってやった。
別に小遣いが足りてないわけじゃなかったが、ちょっと興味あったんだ。
こいつ、どこまで俺に従うのかな?と。
じゃあ有り金出してきやがったよ。
思わず笑ってしまった。どんだけヘタレなのよ。
毎日毎日有り金奪って、ある日、そいつの財布が空になった。
聞くと、もう貯金も何も無いんだ、とか。
俺は言ったね
「明日までに財布をいっぱいにして来い。そうしないと叩きのめすぞ」
そしたらさ
そいつ、ビルから飛び降りて、死にやがったのよ。
さすがに、問題になった。
俺は学校に居られなくなって、転校した。
そのときに、俺に興味がないと思ってた母ちゃんが、チビマザコンの母親から俺を守ってくれて。
嬉しくて、胸がいっぱいになった。
俺は愛されていたんだ、ってやっと分かったんだ。
「……心当たりがあったか? まぁ、どうでもいいけど」
目の前のヘルメットは、心底興味なさそうにそう言ってきた。
そして立ち上がり、スタスタと近くのフェンスに近寄って。
手に持ってた、俺のスマホを、ブン! と振るった。
すると。
俺のスマホが、日本刀に化けたんだ。
どうやったのか全く分からない。
俺のスマホを何かに捧げて、代わりに日本刀ひとつと瞬時に交換したみたいだった。
そして、ヘルメットはその刀を振るった。
フェンスが斬られ、大きな穴が開いた。
そして、言ってきた。
「さぁ、ここから飛び降りろ。それで僕の仕事は完遂する」
……冗談じゃない!嫌だ!!
俺は逃げようと身を起こした。
幸い、昇降口が今は無人だ!逃げられる!!
だけど。
ドスッ!!
俺のふくらはぎに、何かが突き刺さった。
「ぎゃあああああああ!!!」
痛みにのたうち回る。
のたうち回りながら、見た。
ふくらはぎに、忍者の投げる十字の手裏剣が刺さっていた。
「……手裏剣はまだあるぞ。今『創った』からな」
フェンスの穴の傍で立ったまま手裏剣でお手玉しながら、そいつは淡々と言った。
そいつはさらに続ける。
「お前が知らないだけで、この世にはこういう超能力を持ってるヤツがちょくちょく居る……僕はその1人なんだな」
そいつの意図は良く分からなかったけど……
おそらく……
弾切れを期待しても無駄だ。
これを俺にワカらせるためだったのだろうか?
極めて事務的な口調で、そいつは
「まだ立てるよな?さっさと飛び降りろ。ここは7階建てビルの屋上だが、絶対に死ぬと決まったわけじゃない」
何の感情も無い声で
「運が良ければ助かるよ。まぁ、一生車椅子は避けられんだろうけど」
……そいつの言い方に、俺は震えた。
脅しじゃなく、事実を言ってるだけだ。それが肌で分かってしまったから。
嫌だ……嫌だ……!
「……悪かったと思ってる……羨ましかったんだ……だから……許して!!」
「僕に言われても。お客さんが判断したことだしな。まぁ、諦めて飛び降りてくれ」
……話が通じない!
嫌だ……助けて……母ちゃん……!!
俺は泣いていた。恐怖で。
気が付いたら嗚咽を漏らして泣いていたんだ。
でも、あいつは何も感じないようだった。
「……まだ手裏剣が足りないのか?」
ドスッ!
「あぎいいい!!!」
手裏剣が、俺の頬に突き刺さった。
苦しむ俺に、そいつは続けた。
「……そこで失血死するまで、手裏剣を浴びたいのか? それならそれでもいいが、僕はできればお客さんの要望は叶えたいんだがな?」
フゥ、とため息をつきつつ
「……いいか? そこにいる限り、お前は死ぬまで手裏剣を身体に浴び続けることになるんだが、飛び降りればワンチャン、超低確率だが生き残る目があるんだぞ?」
やれやれ、といった感じで、そいつは言い放った。
「どっちの選択肢が賢いのか、そんなことも分からないくらい、頭悪いのかね? お前?」
ひゅうううううう、という音がやけに大きく聞き取れた。
風が吹いているんだ。
怖かった。
足を引きずりながら、ヘルメットが開けた穴から、フェンスの外に出て。
屋上の縁に立ち、下を見下ろす。
30~40メートルはあるのだろうか?
そんな気がした。足の震えが止まらない。
涙も止まらない。
ここから飛び降りて、生き残る未来が想像できない。
踏み出せば、確実に死ぬ。
でも。
そうしなかったら、もっと確実に、「殺される」
この、ヘルメットに。
だからもう、やるしかないんだ……
チビマザコンのやつが勝手に死んだせいで、こんな目に遭うなんて……!
なんで……なんでだよ……!!?
怖くてたまらなかった。だから、叫んで、自分を奮い立たせた。
「うおおおおおおおおおおお!!」
声が尽きるほど叫んで、身を投げ出した。
重力が、無くなる。
落ちながら、思い出した。
母ちゃんが、全く構ってくれなかった人生を。
ずっと愛されてないと思ってた。
でも、そうじゃなかったとやっとわかったのに。
「母ちゃん……」
これから、だったのに。
ぐんぐん、アスファルトが……迫って……
ドチャ!!!
2
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる