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1章

12「予想外な彼女」~騎士団長視点~

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 出会って三日目だが、彼女はいつも予想外だ。


 騎士団長ニール・ヴィリアーズは俯きながら隣を歩く朔夜の様子を横目で確認しつつ、怒涛の数日間を思い出す。



 騎士にとって『異邦人』とは、配置早々に先輩騎士から「王族と並ぶ警護対象」「発見したらとりあえず上に報告」「他国に奪われたら騎士の恥」程度の引き継ぎを受けて一生関わらないままで終わることがほとんどだ。


 まさか自分が騎士団長の時に『異邦人』と出会うことになるとは思わなかった。  
 しかも国境警備中であり、城に到着するまで何かあったらと大変冷や冷やしたものである。


 騎士の大半は貴族として一定程度の教養を身につけているため、歴史を学ぶ中で『異邦人』の伝説を知っているものの、リースがいなかったら彼女を『異邦人』だとはすぐにわからなかっただろう。




 『異邦人』の伝説は後世の人間からすると眉唾物に感じてしまう。

 曰く、「何十人もの騎士が挑んでも敵わなかった最強の『異邦人』 」。曰く、「大陸随一の弱小国家を強大な帝国まで押し上げた天才の『異邦人』」。曰く、「其の者に惚れない女性はいなかったという魅惑の『異邦人』」。

 各分野で伝説を残した彼らの共通点とは、「見慣れぬ衣装を纏い、優れた知識を持つ」こと。
 確かにそのような特徴は彼女も持つ。
 所持品を確認したが素材が全くわからないような物がゴロゴロとあった。
 「一般人です」と彼女はよく言うけれども、見たこともない縫製の衣服は上級貴族のドレスよりも上等に見える。




 しかし、突然の出来事に混乱したりアデルバードに怯える彼女の姿は歴史書で語られる『異邦人』よりも「普通」に見える。


 「(まあよく気絶しなかったよな・・・)」

 冷酷冷徹な副団長の(手加減していたとは言え)殺気を浴びながらも返事をしていたと聞いて驚いた。
 アイツの尋問は俺でも受けたくない。
 機嫌を損ねていることもなく本当に良かった。最悪異邦人を怒らせたとして騎士団全員が処刑ということもあり得たのだから。


 彼女自身は丁重な扱いに慣れていないようだが、『異邦人』にはそれだけの権力が許される。
 腹黒宰相と名高いロレンツォ様があれほど気を遣うとは。

 中小国家である我が国にとって来訪した『異邦人』は何が何でも逃せない。
 騎士団は彼女を警護するのと同時に他国への逃亡を阻止しなくてはならない立場である。





 「(忙しくなるぞ)」
 騎士団長として警備の配置や人数を再検討する。

 大人しそうな様子から脱走することは無いにしても、絶望した彼女に自殺を許すこともできない
 生まれ育った環境から唐突に離され縁もゆかりも無い国に尽くすことを期待される彼女。

 せめてこの国を好きに思ってもらえればいいが。
 見知らぬ環境下で気丈に振る舞い、厳しい移動にも文句を零さない彼女はニールとしても好ましいと思う。


 「(あんなに白い顔をしながら一刻も早い到着を望むとは思わなかった)」
 真剣に覚悟を決めた目をした彼女を思い出し苦笑する。
 穏やかで慎み深いと思いきや荷運びを手伝おうとしていた等活動的な面もあって面白い。



 「(警護にはアインやレイモンドを配置するか)」
 彼女と比較的親しそうにしていると報告があがっている。
 可能な限り安心してもらいたい。
 しばらくは安全のためにも移動範囲を限定しなくてはいけないだろう。







 「あ、あの・・・」
 小さな声が耳に入る。
 話しかけられるとは思っておらず、どうしたのかと横を向くと真剣な表情した彼女と目が合う。



 「リース、さんでしょうか。『異邦人』に詳しいという。もし、お時間を頂けるならば、リースさんにお話を聞きたくて・・・・」



 ほら、彼女は本当に予想外だ。
 簡単に折れてしまいそうなのに、こちらを真っ直ぐに見つめる黒曜石のような瞳は強い意志の光がある。
 



 「すぐに呼びましょう」
 急がなくても大丈夫です!と慌てる彼女の様子を見ながら、ニールは喜び勇んで馳せ参じるであろうリースをどうやって落ち着かせるか思考を巡らせていた。




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