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運転手
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「雅紀は、女がいればもっといいと言って煽った。三人でヤろうとな。現在お前の親父の相手は櫻田しかいない。それは確認済みだった」
久世は驚きすぎて固まったまま、何も反応できない。
「それで俺と晶の親父たちと同じように、お前の親父と櫻田の写真を撮って、それを使って脅しをかけるつもりだった」
西園寺は吸っていた煙草をもみ消した。
「櫻田が妊娠していることは知らなかった。そこまでは調べられなかった」
久世が震える声で言った。
「雅紀は……」
「もうとっくに戻って来てもいいはずだ……むしろ櫻田と顔を合わせるのはまずい。晶たちが呼び出した時に櫻田が一緒に部屋へ戻るとは思わなかった。写真でしか知らない相手なら騙せるが、対面している相手には雅紀だと気づかれてしまう」
小林が自分の役割ができたとばかりに割って入った。
「それでは私が様子を伺って参ります。生田様がお困りのようでしたらお助けしたいと思います」
西園寺は小林に驚きの目を向けた。小林はそれに微笑を返して、足早に部屋を後にした。
「誰だ?」
「……俺の運転手だ」
久世の答えに西園寺は納得できないような顔をした。
「……雅紀のことを気に入っているらしい」
久世は笑える場合ではないが、運転手の好意すら引き寄せる生田の魅力を思い出して思わず笑みを浮かべた。
小林が戻ってきた。
「旦那様も、生田様もどなたもいらっしゃいませんでした。透様のお部屋にも参りましたが、そこにもいらっしゃいませんでした」
「どこへ行った?」西園寺が聞く。
「フロントへ問い合わせたところ、私が旦那様の運転手だと承知していたようでしたので教えていただけました。櫻田様が体調を崩されたそうで、病院へ向かわれたと」
「雅紀もか?」
「……そのようです。三人で出ていかれたようだとおっしゃっておられました」
「なんで雅紀も……」久世が呟くように言った。
西園寺は早速生田に連絡を取ろうとしたのか、スマホを耳に当てていたがすぐに離した。
「出ないな」
そう言ってスマホを操作し始めた。LINEかメールを打っているのだろう。
「西園寺様、病院は蓼科のようです。向かわれますか?」
西園寺は驚いた目で小林を見て、次に久世を見た。
久世は頷いた。
「晶も行くぞ」
西園寺は勢いよく動き出して個室へと向かった。
久世も部屋へ荷物を取りに行く。
久世が一緒についてきた小林に聞く。
「なぜ病院の場所を知っている」
「旦那様にお迎えを頼まれました」
「……小林は父と櫻田さんのことを知っていたか?」
「はい」
久世は呆れたような顔を小林に向けた。
「守秘義務でございます」
小林は顔色ひとつ変えずに答えた。
「雅紀には?」
「……お伝えしました」
久世は小林を睨みつけた。
病院へ着くと、久世父は小林の車に乗り込んで去って行った。それを隠れた場所から確認した面々は小林からの連絡を待った。瑞稀の容態や部屋番号を聞き出してもらう手筈だ。
しかしメールは来ない。運転中だからかと思ったが、その時停車中に送信したのか簡素なメールが届いた。
[首を突っ込むなとの仰せでお伺いできませんでした。申し訳ございません]
それならばと婚約者である久世に受付へ行ってもらう。
部屋には一人旦那さんが付いているはずだと言って婚約者であることを疑われたが、瑞稀に問い合わせてもらうと早く来てほしいと言われたため部屋番号を聞くことができた。
西園寺と晶は車で待つことにした。急な受診のため個室ではなく大部屋にいるらしいことがわかり、大勢で病室へは向かえないからだ。
「透さん! わざわざ来てくれたの? 嬉しい!」
そう言った瑞稀の横には生田が丸椅子に座っている。
「雅紀……」
「透さん! 元彼を追い出してよ。何度言っても帰らないの」
「ひどいな瑞稀。元彼は向こうだ。僕と結婚してくれるって言ったじゃないか」
生田が不安な様子で声を上げた。
久世はその生田を見てすぐに気がついた。何か必要があって演技をしているのだと。
久世は生田に話を合わせることにした。
「櫻田さん、わかりました。私とのことはなかったことにしてください」
そう言って大部屋のベッドを遮るカーテンを引いて出た。
「透さん!」
瑞稀がまだ久世を呼び続けているが、生田がそれをなだめるように声をかけている。
久世はそのまま西園寺たちのところへ戻った。
「雅紀は?」
久世が乗り込むが早いか西園寺が聞く。
「いた。何か案があるようだ」
そう言って見たままのことを伝えた。西園寺はそれで何かに気がついたようだ。
「雅紀に任せよう。金はある程度渡してあるから大丈夫だ。俺たちはこれ以上何もできない。東京へ帰るぞ」
久世は反論しようとしたが返す言葉が思いつかず、素直に従うことにした。
東京へ帰宅した頃には日は暮れて夜になっていた。
西園寺邸の離れで夕食をとっている久世たちのところへ小林がやってきた。
西園寺の招きを受けてダイニングへ来た小林は、久世に封書を手渡した。
「透様、こちらをお持ちしました。……私はクビになるかもしれません」
久世が中を見ると、瑞稀との婚姻届だった。
久世が驚きで言葉に詰まっている横で、西園寺が婚姻届を一瞥して小林に言った。
「お前は俺が雇ってやろう」
小林は西園寺の方へ身体を向けて頭を下げる。
「ありがとうございます」
そう言って西園寺の離れを辞去した。
晶は笑って言う。
「給料は高くしてやらないと」
「雅紀に払わせる」
西園寺はいつもの豪快な笑い声を上げた。
それから二週間、生田は帰ってこなかった。
久世は驚きすぎて固まったまま、何も反応できない。
「それで俺と晶の親父たちと同じように、お前の親父と櫻田の写真を撮って、それを使って脅しをかけるつもりだった」
西園寺は吸っていた煙草をもみ消した。
「櫻田が妊娠していることは知らなかった。そこまでは調べられなかった」
久世が震える声で言った。
「雅紀は……」
「もうとっくに戻って来てもいいはずだ……むしろ櫻田と顔を合わせるのはまずい。晶たちが呼び出した時に櫻田が一緒に部屋へ戻るとは思わなかった。写真でしか知らない相手なら騙せるが、対面している相手には雅紀だと気づかれてしまう」
小林が自分の役割ができたとばかりに割って入った。
「それでは私が様子を伺って参ります。生田様がお困りのようでしたらお助けしたいと思います」
西園寺は小林に驚きの目を向けた。小林はそれに微笑を返して、足早に部屋を後にした。
「誰だ?」
「……俺の運転手だ」
久世の答えに西園寺は納得できないような顔をした。
「……雅紀のことを気に入っているらしい」
久世は笑える場合ではないが、運転手の好意すら引き寄せる生田の魅力を思い出して思わず笑みを浮かべた。
小林が戻ってきた。
「旦那様も、生田様もどなたもいらっしゃいませんでした。透様のお部屋にも参りましたが、そこにもいらっしゃいませんでした」
「どこへ行った?」西園寺が聞く。
「フロントへ問い合わせたところ、私が旦那様の運転手だと承知していたようでしたので教えていただけました。櫻田様が体調を崩されたそうで、病院へ向かわれたと」
「雅紀もか?」
「……そのようです。三人で出ていかれたようだとおっしゃっておられました」
「なんで雅紀も……」久世が呟くように言った。
西園寺は早速生田に連絡を取ろうとしたのか、スマホを耳に当てていたがすぐに離した。
「出ないな」
そう言ってスマホを操作し始めた。LINEかメールを打っているのだろう。
「西園寺様、病院は蓼科のようです。向かわれますか?」
西園寺は驚いた目で小林を見て、次に久世を見た。
久世は頷いた。
「晶も行くぞ」
西園寺は勢いよく動き出して個室へと向かった。
久世も部屋へ荷物を取りに行く。
久世が一緒についてきた小林に聞く。
「なぜ病院の場所を知っている」
「旦那様にお迎えを頼まれました」
「……小林は父と櫻田さんのことを知っていたか?」
「はい」
久世は呆れたような顔を小林に向けた。
「守秘義務でございます」
小林は顔色ひとつ変えずに答えた。
「雅紀には?」
「……お伝えしました」
久世は小林を睨みつけた。
病院へ着くと、久世父は小林の車に乗り込んで去って行った。それを隠れた場所から確認した面々は小林からの連絡を待った。瑞稀の容態や部屋番号を聞き出してもらう手筈だ。
しかしメールは来ない。運転中だからかと思ったが、その時停車中に送信したのか簡素なメールが届いた。
[首を突っ込むなとの仰せでお伺いできませんでした。申し訳ございません]
それならばと婚約者である久世に受付へ行ってもらう。
部屋には一人旦那さんが付いているはずだと言って婚約者であることを疑われたが、瑞稀に問い合わせてもらうと早く来てほしいと言われたため部屋番号を聞くことができた。
西園寺と晶は車で待つことにした。急な受診のため個室ではなく大部屋にいるらしいことがわかり、大勢で病室へは向かえないからだ。
「透さん! わざわざ来てくれたの? 嬉しい!」
そう言った瑞稀の横には生田が丸椅子に座っている。
「雅紀……」
「透さん! 元彼を追い出してよ。何度言っても帰らないの」
「ひどいな瑞稀。元彼は向こうだ。僕と結婚してくれるって言ったじゃないか」
生田が不安な様子で声を上げた。
久世はその生田を見てすぐに気がついた。何か必要があって演技をしているのだと。
久世は生田に話を合わせることにした。
「櫻田さん、わかりました。私とのことはなかったことにしてください」
そう言って大部屋のベッドを遮るカーテンを引いて出た。
「透さん!」
瑞稀がまだ久世を呼び続けているが、生田がそれをなだめるように声をかけている。
久世はそのまま西園寺たちのところへ戻った。
「雅紀は?」
久世が乗り込むが早いか西園寺が聞く。
「いた。何か案があるようだ」
そう言って見たままのことを伝えた。西園寺はそれで何かに気がついたようだ。
「雅紀に任せよう。金はある程度渡してあるから大丈夫だ。俺たちはこれ以上何もできない。東京へ帰るぞ」
久世は反論しようとしたが返す言葉が思いつかず、素直に従うことにした。
東京へ帰宅した頃には日は暮れて夜になっていた。
西園寺邸の離れで夕食をとっている久世たちのところへ小林がやってきた。
西園寺の招きを受けてダイニングへ来た小林は、久世に封書を手渡した。
「透様、こちらをお持ちしました。……私はクビになるかもしれません」
久世が中を見ると、瑞稀との婚姻届だった。
久世が驚きで言葉に詰まっている横で、西園寺が婚姻届を一瞥して小林に言った。
「お前は俺が雇ってやろう」
小林は西園寺の方へ身体を向けて頭を下げる。
「ありがとうございます」
そう言って西園寺の離れを辞去した。
晶は笑って言う。
「給料は高くしてやらないと」
「雅紀に払わせる」
西園寺はいつもの豪快な笑い声を上げた。
それから二週間、生田は帰ってこなかった。
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