Junkys in JunkyJunky Paradise

瀬戸森羅

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楽園入獄

リボンの誘惑

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 扉を開いた先は廊下になっていた。
 天井に照明は無く床の両側にぼんやりと紫色のネオンが走り奇妙に辺りを照らしていた。
 SFのゲームに出てくるような……そう、まるで宇宙船みたいな……そんな見た目だ。この状況が異常で無かったなら些かにもテンションが上がっていたかもしれないが暗がりから何が来るかわからないし、こうして歩き回ること自体が久々で余裕なんてなかった。
 どうやら僕の部屋は廊下の一番奥にあったらしく扉を開けてすぐ左は壁になっていた。
 そして廊下の先には僕が今開けたような扉と同じような扉がいくつも並んでいた。
「何人か……いるってことか」
 廊下を一直線に向かい合って並んだ扉は6つずつ。計12個の扉があった。そしてその先には一際大きな両開きの扉があった。
 ……よく見ると廊下に並んだ扉のひとつから何かが伸びている。
 ピンク色の帯。レースのついたそれはリボンのようだった。
 そこでまた選択肢が現れる。これを引くか引かないかの2択だ。
『リボンを引く』選択肢を選び僕はリボンを引っ張った。
「やぁっ……!」
 リボンをスルスルと抜いたが、同時に高い声が上がった。
「だ、誰っ?」
 僕が咄嗟に声を上げると扉越しに声が返ってきた。
「誰って……もう、失礼ね。人のリボン引っ張っておいてそれはないんじゃない?」
「それは確かに……ごめんなさい」
 僕が謝るとがちゃりと鍵の開く音がして扉が開かれる。
「ね、返して?」
 そう言いながらでてきたのは桃色の髪の少女だった。長い髪をツインテールにしているが歪な程に髪に装飾を付けていた。まち針やボタンなんかの裁縫道具を模した……模しただけだよな?そんなアクセサリーや果てはクマのぬいぐるみまるまるひとつ分がくっついている。
 もちろん服にも大量のリボンとぬいぐるみをつけていて、どうも僕が引っ張ってしまったのはそのうちのひとつだったらしい。
「あーあ、顔も見てない人にパンツ脱がされるなんて思わなかったなぁ」
 そう言いながら僕の手からリボンを取るとその子はスカートの中へリボンを持っていった。
「ちょ、ちょっと! 何やってんの!?」
 まさか僕が取ったのは……いやいや、そんな場所のリボンが廊下に伸びてるはずがないし!これはきっと僕をからかうための冗談……だよな?
「何ってここアタシの部屋だし。見ないでよえっち!」
 そう言いながらも別に隠す素振りもなくスカートの中で手を動かしている。
 幸いというかスカートのレースがかなり分厚いのでこちら側からは何も見えないのだが……。
「よっし完了!……あれ?まだいたの?キミも好きだねぇ」
 そう言いながらずいとこちらに近寄ってきた。
「へんたぁい♪」
 耳元でそう囁かれた。
「ちょっと待ってよ!別にそんなんじゃないから!」
「えー?ここまでじっと見ておいてそれはないんじゃない?」
「いやいや、廊下までそんなところのリボンが伸びてるはずがないし……」
「そんなところって?」
 わざとらしく彼女は聞き返してくるが答える訳にはいかない。
「……いやとにかく!君がそういうウソを吐くなら僕も警戒しないとならないと思っただけ。……なんでこんな場所にいるかもさっぱりわからないんだから。背中なんて見せられないよ」
「ふぅん……」
 ようやく彼女の顔つきが真面目になった。
「ま、わかるかそんなこと」
 そう言って彼女は僕の引っ張ったリボンをしゅるりと出した。
「それで?ここどこなの?」
 その質問をしたのは僕ではなく彼女の方だった。
「え?」
「何か知ってるんじゃないの?」
「いや……僕も目が覚めたらここにいて……」
「じゃあ一緒ってことなのね」
 頭を抑えて嘆息すると彼女は僕を引っ張り部屋に入れた。
「ま、立ち話もなんだし、ね」
 がちゃりと扉を閉めると僕の部屋にあったのと同じ簡易ベッドに腰掛けるよう僕を促した。
「さて、じゃあ状況整理」
「う、うん」
 唐突に始まった議論にやや動揺したがひとまずは情報を共有した方が良さそうだ。
「まずはお互いに自己紹介しましょうよ。なんて呼んだらいいかもわかんないし」
「あ、そうだね……僕は牡丹。辻 牡丹」
「牡丹かぁ。……いい名前だね」
 そう言ってにんまりと彼女は笑う。
「アタシはポーラ。阿部 ポーラ」
「……ハーフ?」
「そ。まぁ別に他国語話せるわけじゃないんだけどねぇ」
「それで、ポーラさんは……」
「ポーラでいいよ。硬っ苦しいのやだから」
「わかったよ」
「それで?アタシに訊きたいことがあるの?」
「うん。リボンを部屋の外に出して、誰かを待っていたの?」
「まぁね。あんな場所にカワイイリボンがあったら目立つでしょ?それに惹かれた人がアタシの部屋にやって来て、その子を悩殺して都合の良い下僕にしちゃおうかなって思って」
 ポーラは妖しく笑った。
「そ……そうなんだ」
「ま、一番引っかかりそうな子に効かなかったしもう試さないけどね」
 カワイく頬を膨らませて僕を見る。
 そこにまた選択肢が現れる。もう一度試させるというものだ。ここで現れるということは重要なことに違いないからなんとしても試させなくてはいけない。
「いやでも、どうだろう。僕は別に女の子に興味がある訳じゃないからそこまでだったけど、女の子に興味のある子だったら引っかかるかもしれないよ?」
「えー?キミがそんなこと言う?どう見てもドーテーだし」
 めちゃくちゃ失礼なことをさらっと言うなぁ……。
「別にそんなのどっちだっていいでしょ!とにかくやってみようよ」
「あ、ごまかした~」
「はいはい!」
 初対面のくせに嫌な揶揄いをしてくる彼女にやや苛立ちながらも今はとにかく選択肢に従うことを優先したい。
 先程のようにリボンをドアの外に垂らさせてから部屋の中へ入った。
「さて、かかるか……」
 言うが早いかリボンが引っ張られた。
「うわわっ!」
「はやっ!」
「牡丹は部屋の隅っこで見えないようにちっちゃくなってて……!」
 ポーラにそう言われたので僕はドアを開けてすぐには見えない部屋のドア側の隅に小さくなって見守ることにした。
「だぁれ?このリボンを引っ張ったのは?」
「ひ、人?」
 ポーラが声をかけるとドアの外からは何者かの声が聞こえてきた。
「ちょっとぉ、どこのリボン取ってるのよ。ね、返して?」
 そう言ってポーラはドアを開けた。
「わ、わわ……なんだべあんた……」
 やけに訛った感じの声だ。声色から察するに男の子のようだ。
「あら……ふふ、ねぇ、お姉さんのリボン返して?」
 どうやらポーラも余裕を感じたようでノリノリで誘惑を始めた。
「あ、あう……」
「ほらはやくぅ」
「は、はい」
「ふふ」
 そしてリボンを受け取るとポーラは僕にしたようにスカートの中にリボンを入れ始めた。
「なななーっ!」
 声の主はもはや気が気でないようだ。……まぁ、そりゃそうだよな。
「な、なにやってるべ!そっだらことしたらえらいこっちゃずらぁ!」
 ……どこの出身だよ……。
「じゃあほら、こっちおいで?」
 ポーラがその子の方に手を伸ばした。
「うわはーっ!」
「ちょ、ちょっと?」
 大きな声がしたかと思ったら急に静かになった。
「えっと……どうなった?」
「それが……」
 僕が尋ねるとポーラは扉の向こうから質素な格好をした小柄な男の子を引きずってきた。
「倒れちゃったの?」
「まさかここまで効果があるとは……」
 男の子はぐったりとしたままそれから十数分の間目覚めることはなかった。
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