Junkys in JunkyJunky Paradise

瀬戸森羅

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楽園入獄

部屋の外へ

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 選択肢。
 それはロールプレイングゲームでは欠かせない存在だ。
 進む道が決められているからこそプレイヤーの行動を制限する手段としてYESかNOの2つ、或いはその程度の少数のパターンに行先を絞ることができる。
 だが現実はそうじゃない。ひとつの行動に対しての答えはいくらでも分岐する。誰と話す?何を話す?目線はどこに向ける?仕草は?会話の内容は?それはYESかNOなんていう2択じゃないし明確に解があるというわけでもない。
 それが正解だったか、間違っていたのかわからないのだから自分の重ねてきたあらゆる行動が気になって気になって仕方ない。
 0か1か、それだけで世界が成り立っていてあらゆる行動も何もかもがそれに準ずるように存在してくれていればいいのに。
 そんなことばかり考えていたら、僕は世界の仕組みを変えてしまったらしい。
 僕の前には選択肢が現れるようになった。
 YESかNOだけの時もあれば、選択問題のように四択だったりそれ以上だったり。
 ただ、それ以外を考える必要はなくなった。
 僕は世界を攻略したのだ。
 他の誰も辿り着けていないグリッチを意図せず手に入れてしまったに違いない。
 僕はなんでもできる。
 僕が一番すごい。
 だから、だからもう、このブルーライトに満たされた部屋から出られたならば。


 …………なんだ。眠っていたのか。
 何も見えない程に暗い部屋で目を覚ます。昨日は……いつも通りにPCで夜通しゲームをしていた。空が白み出したのを憶えているからこの暗さじゃもう既に昼も夕方も超えて夜まで眠ってしまったに違いない。それもそれで好都合。再び夜通しゲームをして眠るだけだ。
 未だ寝惚けて目を閉じながら手探りで相棒のコンソールを求める。
 ……が、見当たらない。
 ベッドから蹴落としたか?
 いやそもそも、ベッドの上に手を走らせたもののシーツ以外に手が当たらなかった。
 あんなにごちゃごちゃに物を散らかした部屋で、だ。
 がばりと身を起こす。普段ならもうその時点で適当に干した衣服が頭に被さってもおかしくはないはずなのだが、何に当たることも無く勢いをつけたまま頭は空を切った。
 おかしい。僕の部屋だったらこんなに物が無いはずがない。
 思い切って目を開けてみると、暗闇に慣れた目に部屋の景色が飛び込んできた。
 何も無い。無機質なコンクリートの壁で囲まれた空間。僕の部屋じゃ、ない。
「なんだよここっ!」
 狭い室内に叫んだ声が反響する。
 しかしその声に応えは返ってこなかった。
 今までずっと部屋から出ずに暮らしてきた。
 ひたすらにゲームをし続けて、物好きな視聴者たちがお金をくれる。食べる物や新しいコンテンツは指先ひとつで手に入った。
 全てが完結する僕だけの城。僕だけの世界。……だったはずなのに。
 がらんどうで窓ひとつない。この簡素なベッドだけが置かれた部屋に独り。
 夢でも見ているかと思ったがそうじゃない。全てを失った喪失感とこれから自分の身に起こるかもしれないあらゆることを想像してしまい心臓がはち切れそうになる。
 ピロンっ!
 そんな中で聞き覚えのある音が響いた。
「せ……選択肢……っ!」
 僕が手に入れた最強の切り札。何か迷ったことがあれば僕の前に現れそうしてその道を示してくれる。僕はただその選択肢を選ぶだけでいい。
「よ、よかった……こいつだけは僕のもののままだ……」
 その選択肢はふたつ。部屋を出る、部屋を出ないの2択だった。
 薄暗い部屋だが目をこらすと扉があることが確認できた。
「部屋を……出る……」
 それは僕がもう幾年も拒み続けたことだった。
 だが今の状況では部屋の中で生活することもできないし何も進むことはできない。
 何より選択肢が言っている。選択肢は絶対で、究極で、完璧なんだ。今まで1度だって部屋を出る選択肢は出てこなかった。それが今こうして現れている。僕はただそれだけでも部屋を出るのに十分だと思うのだ。
「……い、行こう」
 そうして扉に手をかける。押しても引いても開かない。
 よく見ると内鍵がかかっていた。
「鍵……?」
 誰かが僕をここに入れて外から鍵をかけた。でも監禁が目的なら内鍵などつけることはないはずでは?
 また僕が悩み出すと選択肢が現れる。
『先へ進む』
 この一択のみ。わかったよ。それしか道は無いんだろうから。
 震える手足を抑えながら鍵を開け、ゆっくりと扉を開いた。
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