世界は終わるらしい

瀬戸森羅

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電波少女ゆゆ

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「ちゃぷちゃぷ」
 ご飯を食べ終えてしばらくくつろいでいると外から声が聞こえてきた。ベランダから身を乗り出してみると舟に乗った少女がいた。
「ゆゆ?」
「はろ~ん」
 こちらに気づいたようで長い髪を静かに揺らしながらこっちを見上げると、ゆっくりとその手をこちらに振る。
 ここらの家はベランダにあたる箇所が直接水路になっている。
 ベランダの下には自分用の舟を繋いであるので誰でも遠出することができるようになっているのである。
 彼女はゆゆ。私と同じように救助されて都市開発に参加したうちの1人だ。ただあの時合宿所にいた子ではなく別の場所から来た子なので知り合ったのはもう少し後なのだけれど。
「みゆちゃん。今日は出ないの?」
 ゆゆはとめてある私の舟に手を引っ掛けて自分の舟の動きをとめながら私に問いかける。
「今日は……そうだねぇ」
 悩んでみせるが当然やることなどない。無論私たちには労働の義務がないわけではないが常に仕事をする必要はない。ノルマさえ果たせば私たちはいつでも自由に行動して良いことになっている。
「みゆちゃん。今日はいそがしいの?」
 ゆゆがかわいらしく上目遣いをするものだから私には一切断る理由もなかった。
「いや!そんなことないよ!」
「やったぁ」
 ゆゆは頭の触覚をぷんぷんと揺らしながら喜ぶ。
「で?どこに行くの?」
 ゆゆの舟に乗り込み私が訊く。
「あてはないよ。ただ、ちゃぷちゃぷと」
 ……断れば良かったかな。
 そうして本当にゆゆは特に行くあてもなく舟を流れさせた。枝分かれする水路を言葉通りちゃぷちゃぷと進んでいく。
 この町は大きな坂になっている。上から下へとゆっくりと水路が流れていく。そして1番下まで行くと水門エレベーターがあり、それに乗ることでまた一番上に帰ってこられる。
 まぁだから舟に乗ると数時間は家に帰れない。別にそんな急いですることもないからいいんだけど……。
「こうしてると、なんだか平和だよね」
「はは、そうだね。平和……」
 本当に、不思議なものだ。世界はもう取り返しがつかないくらい壊れてしまったのに。仮初の楽園でぷかぷかと日向ぼっこなんて……。
「あ、みゆちゃん。今ヘンなこと考えたでしょ?」
「そ、そんなこと…」
「んーん!考えてた!」
 そう言ってゆゆは大きな瞳で私を見据える。時々考えていることを見透かされているような……そんな気がする。
「……うん。考えたよ」
「ほら!だからぁ、やっぱりミント味が1番いいんだって!」
「……そ、そうだよね」
 多分、気のせい。
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