2 / 5
電波少女ゆゆ
しおりを挟む
「ちゃぷちゃぷ」
ご飯を食べ終えてしばらくくつろいでいると外から声が聞こえてきた。ベランダから身を乗り出してみると舟に乗った少女がいた。
「ゆゆ?」
「はろ~ん」
こちらに気づいたようで長い髪を静かに揺らしながらこっちを見上げると、ゆっくりとその手をこちらに振る。
ここらの家はベランダにあたる箇所が直接水路になっている。
ベランダの下には自分用の舟を繋いであるので誰でも遠出することができるようになっているのである。
彼女はゆゆ。私と同じように救助されて都市開発に参加したうちの1人だ。ただあの時合宿所にいた子ではなく別の場所から来た子なので知り合ったのはもう少し後なのだけれど。
「みゆちゃん。今日は出ないの?」
ゆゆはとめてある私の舟に手を引っ掛けて自分の舟の動きをとめながら私に問いかける。
「今日は……そうだねぇ」
悩んでみせるが当然やることなどない。無論私たちには労働の義務がないわけではないが常に仕事をする必要はない。ノルマさえ果たせば私たちはいつでも自由に行動して良いことになっている。
「みゆちゃん。今日はいそがしいの?」
ゆゆがかわいらしく上目遣いをするものだから私には一切断る理由もなかった。
「いや!そんなことないよ!」
「やったぁ」
ゆゆは頭の触覚をぷんぷんと揺らしながら喜ぶ。
「で?どこに行くの?」
ゆゆの舟に乗り込み私が訊く。
「あてはないよ。ただ、ちゃぷちゃぷと」
……断れば良かったかな。
そうして本当にゆゆは特に行くあてもなく舟を流れさせた。枝分かれする水路を言葉通りちゃぷちゃぷと進んでいく。
この町は大きな坂になっている。上から下へとゆっくりと水路が流れていく。そして1番下まで行くと水門エレベーターがあり、それに乗ることでまた一番上に帰ってこられる。
まぁだから舟に乗ると数時間は家に帰れない。別にそんな急いですることもないからいいんだけど……。
「こうしてると、なんだか平和だよね」
「はは、そうだね。平和……」
本当に、不思議なものだ。世界はもう取り返しがつかないくらい壊れてしまったのに。仮初の楽園でぷかぷかと日向ぼっこなんて……。
「あ、みゆちゃん。今ヘンなこと考えたでしょ?」
「そ、そんなこと…」
「んーん!考えてた!」
そう言ってゆゆは大きな瞳で私を見据える。時々考えていることを見透かされているような……そんな気がする。
「……うん。考えたよ」
「ほら!だからぁ、やっぱりミント味が1番いいんだって!」
「……そ、そうだよね」
多分、気のせい。
ご飯を食べ終えてしばらくくつろいでいると外から声が聞こえてきた。ベランダから身を乗り出してみると舟に乗った少女がいた。
「ゆゆ?」
「はろ~ん」
こちらに気づいたようで長い髪を静かに揺らしながらこっちを見上げると、ゆっくりとその手をこちらに振る。
ここらの家はベランダにあたる箇所が直接水路になっている。
ベランダの下には自分用の舟を繋いであるので誰でも遠出することができるようになっているのである。
彼女はゆゆ。私と同じように救助されて都市開発に参加したうちの1人だ。ただあの時合宿所にいた子ではなく別の場所から来た子なので知り合ったのはもう少し後なのだけれど。
「みゆちゃん。今日は出ないの?」
ゆゆはとめてある私の舟に手を引っ掛けて自分の舟の動きをとめながら私に問いかける。
「今日は……そうだねぇ」
悩んでみせるが当然やることなどない。無論私たちには労働の義務がないわけではないが常に仕事をする必要はない。ノルマさえ果たせば私たちはいつでも自由に行動して良いことになっている。
「みゆちゃん。今日はいそがしいの?」
ゆゆがかわいらしく上目遣いをするものだから私には一切断る理由もなかった。
「いや!そんなことないよ!」
「やったぁ」
ゆゆは頭の触覚をぷんぷんと揺らしながら喜ぶ。
「で?どこに行くの?」
ゆゆの舟に乗り込み私が訊く。
「あてはないよ。ただ、ちゃぷちゃぷと」
……断れば良かったかな。
そうして本当にゆゆは特に行くあてもなく舟を流れさせた。枝分かれする水路を言葉通りちゃぷちゃぷと進んでいく。
この町は大きな坂になっている。上から下へとゆっくりと水路が流れていく。そして1番下まで行くと水門エレベーターがあり、それに乗ることでまた一番上に帰ってこられる。
まぁだから舟に乗ると数時間は家に帰れない。別にそんな急いですることもないからいいんだけど……。
「こうしてると、なんだか平和だよね」
「はは、そうだね。平和……」
本当に、不思議なものだ。世界はもう取り返しがつかないくらい壊れてしまったのに。仮初の楽園でぷかぷかと日向ぼっこなんて……。
「あ、みゆちゃん。今ヘンなこと考えたでしょ?」
「そ、そんなこと…」
「んーん!考えてた!」
そう言ってゆゆは大きな瞳で私を見据える。時々考えていることを見透かされているような……そんな気がする。
「……うん。考えたよ」
「ほら!だからぁ、やっぱりミント味が1番いいんだって!」
「……そ、そうだよね」
多分、気のせい。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる