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卒業式まで、あと3日
偶然と運命
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家に着く頃にはもうすっかり日も落ちていた。
「ただいまぁ」
「おかえりなさい。あんた午前終わりだったんじゃないの?」
居間の戸を開けて間もなくお母さんが私に問う。
「あぁ……友達と遊んでた」
「友達?あぁ、恵子ちゃん?」
「ん~?ん~まぁ……」
「あら違うの」
おっと、動揺するな……。
「と、友達」
「ふ~ん。……男の子かぁ」
その言葉を聞くなり私は一瞬飛び跳ねてしまう。
「ちっ、違うしっ!」
「はは、わかりやす」
「もうっ!いいじゃん別に!」
そう言うと私はブレザーを勢いよく脱ぎその風圧で攻撃を試みた。
「わっ!雑に扱わないの!まだ2日使うんだから」
2日。その言葉を聞いたら、また少しだけ気が滅入ってきた。
「……ん」
「どうかした?」
「……お母さんは、お父さんとどうやって出会ったの?」
「あら何、急に」
お母さんはちょっと恥ずかしそうに頬に手をやったが、私の切羽詰まったような想いに気づいたのか咳払いして話し始めた。
「お母さんね、お父さんとは同じ学校だったけどあんまり話したことなかったのよ」
「え……じゃあなんで?」
「まぁまぁ、それでね。高校まではほんとにほとんど接点がなかったわけ。おんなじクラスではあったけどあんまり話さなかったっていうか」
「うん。そういう人いる」
「それでそのまんま卒業。アルバムの寄せ書きだって書いてもらってないわ」
「それじゃあおしまいじゃない」
話が見えてこないので私は思わず口を挟む。
「そんなことないわ。学校を卒業してもいなくなる訳じゃないんだから。接点も何も無かった私たちだけど、高校卒業してからばったり出会ったの」
「そんな偶然ある?」
「うぅん、だからそれは偶然じゃなくて……運命だったとか?」
「はいはい」
クネクネしながらそう言うお母さんを適当にあしらいながら話の続きを促す。
「それでね、私が新卒で入社した会社で働き出した時なんだけど、要領悪かったから私叱られてばっかりでねぇ……。毎日泣きそうになりながら仕事してたの。うちの上司も言い方がキツくて、もうやだなぁって思いながらお説教を受けてた、その時。たまたまうちの会社に取引に来てた人がこっちに来てこう言ったの!」
お母さんは鼻息荒くビシりと指を突き立てる。
「あの、御手洗はどちらでしょうか?」
「……は?」
お母さんは確かに言い切った。
「いやいや!もっとかっこいいこと言うかと思った!」
「言葉は確かにかっこよくもなんともないわよ。でもこの時、お父さんお説教を横から遮って私に訊いてきたの。それで勢いを削がれた上司は説教を切り上げて私に案内するように言ったの」
「ふぅん」
「廊下で2人になった時に、迷惑だったかもしれませんが、ほっとけなかったんですって言ってくれたのがとても嬉しかったな」
そう言って遠くを見つめるような顔をするお母さんは確かにその日のお父さんに思いを馳せているようだった。
「それでね!その時はまだクラスメイトだったことすら知らなかったんだけど~!後日同窓会で顔を合わせた時にお互いにあーっ!て叫んでね!ふふ!」
楽しそう。実に楽しそうに話す。
お母さんは、本当にお父さんのことが好きなんだ。
「……いいね」
「でしょ!」
お母さんは手をぱんと叩いて嬉しそうな顔をする。
「お母さん」
「ん?」
「私、好きな人がいるの」
思い切って打ち明けてみようと思った。人を愛することをよく知っているお母さんなら、きっと答えてくれるはずだ。
「そうだと思った。それで?想いは伝えるの?」
「……まだわかんない」
「そっか。……ね、さっきの話の通りにね、卒業はお別れじゃないのよ。運命っていうのはどこかで必ず繋がっていて、結局は巡り会うものだと思うの。それが偶然かって言われたら、そうとも言えるかもしれないけど、でもそう信じた方がロマンチックじゃない。でもね、忘れちゃダメよ。運命っていうのは物語なの。ページをめくらなくちゃ始まらない」
「なにそれ……」
「運命だから待ってるだけで結ばれる?勝手に好きになってもらえる?そうじゃないのよ」
「じゃあ告白しろってこと?」
私がそう問うとお母さんは肩をすくめる。
「……さぁね」
「はぁ!?」
ここまで言っておいて結局答えは教えてくれないらしい。
「それもまたあなたの物語。だってお母さんは知らないもの。関係性も無いのに告白しても成功はしないしお互い想い合っているのに告白しなくても成功しないわ。でもだからこそ、告白だけが答えじゃないってこと。この先いくらでもチャンスはあるんだから!」
愛の伝道師は言ってることがわかりにくくっていけない。結局しない方がいいの?した方がいいの?
「つまりなに?」
まどろっこしいお母さんの言い方に段々と気が立ってしまう。
「焦りすぎってこと。卒業式までが期限じゃないのよぉ」
そう言ってお母さんは手を頭の上でひらひらとさせながら去ってしまう。
「もうっ!なんなの!」
益々自分の中でどうしたら良いのかわからなくなってしまい、その日は結局布団の中にまでずっとモヤモヤとした気分を引きずり込んで眠るのだった。
「ただいまぁ」
「おかえりなさい。あんた午前終わりだったんじゃないの?」
居間の戸を開けて間もなくお母さんが私に問う。
「あぁ……友達と遊んでた」
「友達?あぁ、恵子ちゃん?」
「ん~?ん~まぁ……」
「あら違うの」
おっと、動揺するな……。
「と、友達」
「ふ~ん。……男の子かぁ」
その言葉を聞くなり私は一瞬飛び跳ねてしまう。
「ちっ、違うしっ!」
「はは、わかりやす」
「もうっ!いいじゃん別に!」
そう言うと私はブレザーを勢いよく脱ぎその風圧で攻撃を試みた。
「わっ!雑に扱わないの!まだ2日使うんだから」
2日。その言葉を聞いたら、また少しだけ気が滅入ってきた。
「……ん」
「どうかした?」
「……お母さんは、お父さんとどうやって出会ったの?」
「あら何、急に」
お母さんはちょっと恥ずかしそうに頬に手をやったが、私の切羽詰まったような想いに気づいたのか咳払いして話し始めた。
「お母さんね、お父さんとは同じ学校だったけどあんまり話したことなかったのよ」
「え……じゃあなんで?」
「まぁまぁ、それでね。高校まではほんとにほとんど接点がなかったわけ。おんなじクラスではあったけどあんまり話さなかったっていうか」
「うん。そういう人いる」
「それでそのまんま卒業。アルバムの寄せ書きだって書いてもらってないわ」
「それじゃあおしまいじゃない」
話が見えてこないので私は思わず口を挟む。
「そんなことないわ。学校を卒業してもいなくなる訳じゃないんだから。接点も何も無かった私たちだけど、高校卒業してからばったり出会ったの」
「そんな偶然ある?」
「うぅん、だからそれは偶然じゃなくて……運命だったとか?」
「はいはい」
クネクネしながらそう言うお母さんを適当にあしらいながら話の続きを促す。
「それでね、私が新卒で入社した会社で働き出した時なんだけど、要領悪かったから私叱られてばっかりでねぇ……。毎日泣きそうになりながら仕事してたの。うちの上司も言い方がキツくて、もうやだなぁって思いながらお説教を受けてた、その時。たまたまうちの会社に取引に来てた人がこっちに来てこう言ったの!」
お母さんは鼻息荒くビシりと指を突き立てる。
「あの、御手洗はどちらでしょうか?」
「……は?」
お母さんは確かに言い切った。
「いやいや!もっとかっこいいこと言うかと思った!」
「言葉は確かにかっこよくもなんともないわよ。でもこの時、お父さんお説教を横から遮って私に訊いてきたの。それで勢いを削がれた上司は説教を切り上げて私に案内するように言ったの」
「ふぅん」
「廊下で2人になった時に、迷惑だったかもしれませんが、ほっとけなかったんですって言ってくれたのがとても嬉しかったな」
そう言って遠くを見つめるような顔をするお母さんは確かにその日のお父さんに思いを馳せているようだった。
「それでね!その時はまだクラスメイトだったことすら知らなかったんだけど~!後日同窓会で顔を合わせた時にお互いにあーっ!て叫んでね!ふふ!」
楽しそう。実に楽しそうに話す。
お母さんは、本当にお父さんのことが好きなんだ。
「……いいね」
「でしょ!」
お母さんは手をぱんと叩いて嬉しそうな顔をする。
「お母さん」
「ん?」
「私、好きな人がいるの」
思い切って打ち明けてみようと思った。人を愛することをよく知っているお母さんなら、きっと答えてくれるはずだ。
「そうだと思った。それで?想いは伝えるの?」
「……まだわかんない」
「そっか。……ね、さっきの話の通りにね、卒業はお別れじゃないのよ。運命っていうのはどこかで必ず繋がっていて、結局は巡り会うものだと思うの。それが偶然かって言われたら、そうとも言えるかもしれないけど、でもそう信じた方がロマンチックじゃない。でもね、忘れちゃダメよ。運命っていうのは物語なの。ページをめくらなくちゃ始まらない」
「なにそれ……」
「運命だから待ってるだけで結ばれる?勝手に好きになってもらえる?そうじゃないのよ」
「じゃあ告白しろってこと?」
私がそう問うとお母さんは肩をすくめる。
「……さぁね」
「はぁ!?」
ここまで言っておいて結局答えは教えてくれないらしい。
「それもまたあなたの物語。だってお母さんは知らないもの。関係性も無いのに告白しても成功はしないしお互い想い合っているのに告白しなくても成功しないわ。でもだからこそ、告白だけが答えじゃないってこと。この先いくらでもチャンスはあるんだから!」
愛の伝道師は言ってることがわかりにくくっていけない。結局しない方がいいの?した方がいいの?
「つまりなに?」
まどろっこしいお母さんの言い方に段々と気が立ってしまう。
「焦りすぎってこと。卒業式までが期限じゃないのよぉ」
そう言ってお母さんは手を頭の上でひらひらとさせながら去ってしまう。
「もうっ!なんなの!」
益々自分の中でどうしたら良いのかわからなくなってしまい、その日は結局布団の中にまでずっとモヤモヤとした気分を引きずり込んで眠るのだった。
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