ゲート・チェイン

瀬戸森羅

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プロローグ

エトロテス

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 僕は死んでしまったのだろうか。シノちゃんと一緒に実験椅子に座って、それから…。何があったんだろう。少なくともこんな奇妙な空間に来た覚えはない。やけに広く感じる青白いホール、そして目の前には一枚のパネルが浮かんでいる。
「な、なんだこれ?」
「RPGなんかに出てくるテキストウインドウ…みたいだね」
 その時、パネルに文字が浮かんだ。
[よ う こ そ ヴ ィ ジ タ ー]
「え、なにこれ?」
「歓迎してる…みたいだね」
[い き た い 世 界 を 教 え て ね ☆]
「…いきなり本題に到達できたね…」
「ケイ先輩のいるところ!」
「ちょ、シノちゃん勝手に!」
[error: ケ イ さ ん の 記 録 は あ り ま せ ん]
「え、どういうこと?だって確かにケイ先輩がいる世界は存在するはず…」
「ケイ先輩はとりあえず僕たちとは関われない世界にいるみたいだね…」
「じゃあ、実験的に、私たちがいた世界に帰らせて」
[な ん で ぃ 、 ひ や か し か よ]
[さ っ さ と か え ん な ぺ っ ぺ っ]
「なにこれ…感じ悪…。でも帰れって…」
「うん…戻れるのかな…」
[そ こ の と び ら に は い れ]
「とびら?あ、もしかしてあれかな?うん、確かに扉だ。じゃ、行くよ…?」
 扉を開いた。そこでまた僕たちの意識は途切れてしまった。
「う…ん、と、ここは…?研究所?戻ってこれたんだ!…え、じゃケイ先輩は一体どうして帰ってこれないんだろ…」
「多分なにか特別なゲートが開いちゃったんじゃない?もしくはゲートが歪んでるって言ってたから、それのせいかも…」
「…まあ、戻れる上に行きたい世界を選べるなんてすごく得じゃない!ケイ先輩については…今のところはわからないけど…」
「もう一回行ってみようか!今度は別の世界にも行ってみよう!」
「うーん、あんまり気乗りはしないけど、ケイ先輩を探す手がかりはもうそれしかないからねえ…。わかった、行こう」
そして僕たちはまた実験椅子を起動させた。
案の定例の場所。そしてパネルにあの文字が浮かんだ。
[よ う こ そ ヴ ィ ジ タ ー]
「…前と、同じだね…」
「プログラムなのかな…」
[い き た い 世 界 を 教 え て ね☆]
「ケイ先輩について教えて」
「だからそれは無駄だって、シノちゃん」
[………]
「沈黙まで書くのっ!?」
[あ ん た ら 、 ど こ ま で 知 っ て る ?]
「急にシリアスだわね…」
「とりあえずは、ケイ先輩についての記憶が消されてたせいでよくわかってないんだ。だからそれくらいだな」
[お し え て や ろ う]
[今 日 は 気 分 が い い]
「いちいちめんどくさいわねこいつ…」
「誰がめんどくさいって?」
「なっ!?」
「しゃ、喋った!?」
「ふんっ!!」
パネルの裏に扉があったようでその中から人…?が出てきた。
「誰!?」
「知りたいかい?教えてやってもいいぜ。だが、まずはお前らから名乗るのが筋ってもんだろ?」
「パネルじゃなくてもめんどくさいわね…」
「…なにか言ったかな?」
「…ふん」
「あっ!ぼ、僕の名前はマミって言うんだ。で、この子はシノちゃん。ね、これでいいでしょ?」
 我ながら、ナイスフォローだと思ったんだよね。
「まあいい。では今度はこちらが名乗る番だな」
「……」
「そうだな…、ただ名乗るのもどうかと思ってしまった。お前らにはすこしばかり付き合ってもらおうか。それを約束すれば教えてやるぞ?」
「な…話が違うじゃない!!」
「何を言うか。どちらにしろ名乗ったのはマミとやらのみではないか。貴様にはまだ私の名を知る権利はないぞ?」
「ぐぬぬ…」
「シノちゃん、ここは従っといた方が良さそうだよ…。もしかしたら僕たち消されちゃうかもしれないんだし…」
「くっ…そうね…。ムカつくけど…」
「観念したか…。では教えてやる。私の名は…」
「……」
「……」
「……」
「早くしなさ」
「エトロテス…ッ!!」
「エ…エトロテス!?それってケイ先輩が名付けた原理のはず…」
「そう…エトロテスの原理。もともとはケイ…彼が創り出した原理の名だった…。元来それは存在するものではなかったのだ。しかしケイは君たちのことを思い続け、ついにその時間跳躍、あるいは次元跳躍ともいえるこのジュディアリアゲートを創り出した。そこでこの私も生まれたということだな」
「じゃああなたはケイ先輩がいないと存在できなかったということ?」
「まぁ…そうだな」
「それならあたしたちがいなければ存在しなかったとも言えるわよね?」
「それも…そうだな」
「じゃああなたはあたしには逆らえないということじゃない?」
「何を言う…例え生みの親だろうとなんだろうと従わなければならないわけではないぞ」
「ケイ先輩はあたしたちのためにあなたを作ったのよ!だからあたしたちが使う権利がある!」
「えぇい横暴なやつだ…だがまぁいい。お前に借りがあることもまた事実なのだ…」
「借り?」
「ふん、教えるものか」
「シノちゃんの性格をよくわかっているね…!」
「あら、残念」
「さぁそれでは本題に入ろうか。ケイのことについてだろ?」
「あぁ、そうそう!僕たち記憶がなくなってたみたいで!」
「そもそもケイ先輩って誰?って感じなのよね」
「まぁそうだろうな。彼はお前たちの記憶だけから消えたわけではなくお前たちの世界のあらゆる生命の記憶から消えているのだから」
「規模が大きいわね…」
「何しろ世界に干渉するチカラだからな。それほどまでに大きなチカラだということだ」
「でもなんでケイ先輩がそんな目にあうんですか?」
「そのチカラを作り出してしまったことで、彼の次元が昇格してしまったのだ」
「次元が昇格?」
「そう。今や彼の存在はどこにでもあるしどこにもないのだ」
「じゃあケイ先輩自体がそのゲートになった…ということ?」
「平たく言えばそうなるな」
「それで?あたしたちはそんな高次元の存在に対して何ができるというの?」
「お前たちがケイの概念化をなかったことにしなければならない」
「は?」
「そうしなければ開かれたジュディアリアゲートにより生じた元の世界に対する次元的歪曲によりお前たちが来た世界は消滅するだろう」
「世界が消滅……って…はぁ!?何言ってんの!?」
「まさかケイ先輩が言っていた『世界を救ってくれ』っていうのは、このこと?」
「その通り。もしジュディアリアゲートを閉じることが出来なければこの世界は消滅する…というか、混沌に巻き込まれることになるだろう」
「それって?」
「過去、現在、未来はもちろん、あり得なかったはずの過去、現在、未来の全てがあらゆる時間にばら撒かれることになる。人はそれを認識することはできず自我を保つこともできないだろう」
「ええっと…?」
「要するに、何もかもがごちゃ混ぜになってしまうってことでしょ?今いるあたしたちも例外なく様々な時間、場所に散らばって"現在"を永遠に繰り返し続けるということね」
「………んん?」
「…例えば今あたしたちはこうして話しているでしょう?でもそれは数分後には"過去"になるはずなの。でもこの数分間が"現在"として切り取られて全く同じやり取りをし続けるの。更にそれがあらゆる場所に貼り付けられる…つまりはこことは別の場所で何度もこのやり取りが繰り返されるの。」
「だがそれを自認することもできず、更に数分後、数分前のあらゆるお前たちも同じようにばら撒かれるのだからもはや混沌と言う他はない。それを観測するものがいるとすればどす黒いコラージュのように見えるだろうよ」
「……わ、わかった。とにかく大変なことになるんだね」
「わかればいいのよ」
「それで、具体的には何をすればいいの?」
「ゲートを辿っていけばいい。ここはそのポータルとなる場所だ。お前たちをゲートに繋がることが出来る」
 エトロテスがそう言うと手を上にあげた。
「ふんっ!」
 エトロテスが拳を握ると目の前に和風の門が現れた。鳥居に近いかもしれない。
「これが…ジュディアリアゲート…?」
「そうだ。このゲートひとつでひとつの世界と繋がる。お前たちの世界にもひとつのジュディアリアゲートがあるということだ」
「ちなみにそのゲートは?」
「あれ」
 エトロテスが僕たちの後ろを指さす。そこには先程僕たちを元の世界に返した扉があった。
「でもこのゲートは今出したのと違うのね」
「そりゃあそうだ。お前たちだって一人一人違う顔だろう?ゲートも同じだ。これがひとりの人間のようなもの。要するに、お前たちはジュディアリアゲートの腸内細菌みたいなもんだ。このバクテリアめ!」
「いきなりなによ…」
「腸内細菌が頑張っても宿主の身体を作り替えるのは難しいだろ?その上別の身体を作り替えるのはさらに難しい。お前たちはそういう次元にいるのだよ」
「んー…例えが嫌だけど…」
「そうなるとすごく大変なことじゃない?」
「だから、私がいる。このエトロテス様がな!」
「で?何してくれるの?」
「細菌を別の身体に送ってやるのだ」
「だから細菌で喩えるのやめてくれる?あたしたちが病原菌みたいじゃない」
「まぁ、役割としてはそんなものだ」
「それで!ゲートを辿るってのはなんなのよ!」
「歪みの原因となる要素をゲートの中で探し出して改変するのだ」
「改変?」
「そう。お前たちにはゲートの中で使える特別なチカラを授ける。それを駆使してゲートの歪みを正すのだ」
「チカラって?」
「それはまた説明する。ひとまずそのゲートに入れ」
「ちょ、そんな計画性もなくいくの!?」
「説明するより実際にやる方がいいだろう」
「まぁ…うん」
「では行け!そのゲートをくぐるのだ!」
 ジュディアリアゲートが妖しげにそびえ立つ。
「鳥居って…なんか怖い雰囲気あるよね」
「まあ、心霊みたいな印象が強いもんね…」
「今の状況を目の当たりにしたら心霊なんて言ってられないか…」
「さ、行け!はやく、行け!」
「あ~はいはい!ほら、マミちゃん!行くよ!」
 僕たちは揃ってゲートをくぐった。
 その瞬間唐突に地面が消えたような浮遊感に包まれる。
「うわぁっ!」
「お…落ちる…っ!」
 周りの景色もよくわからないくらい鮮やかに変化し続け、落下しているのか上昇しているのかもわからない。
「あっ!マミちゃん!」
「シノちゃんっ!」
 その渦のような流れの中で僕たちは離れ離れになってしまった。
 そうしてやがて意識さえも遠くへ行ってしまった。
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