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11杯目.旅の思い出は永遠に(前編)
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朝だ、朝がやってきた。
外はまだ薄暗いが、アラームの音より先に目が覚める。
レンタカーも、財布も荷物も準備万端。
昨晩のうちに用意を済ましていた。
いつも以上に歯を磨き、昨日初めて買ったマウスウォッシュで口の中を整える。
決してキスをする準備ではない。
二人だけの車内だ、ずっと緊張するに決まってる。
ヘアセットをしていくが…上手くいかない。
一度シャワーで洗い流して、やり直す。
2回目はまだ上手く出来た気がする。
時計を確認し、そろそろ家を出る時間だと気づく。
急いで荷物をまとめて外に出る。
コインパーキングに止めていたので、清算する。
そして車に乗り込み、駅前へと向かう。
予定時間の30分前には到着できそうだ。
前は遅刻したので、今回は先に着こうと思った。
だが、その思惑は外れる事になる。
本城さんが駅前で待っていたのだ。
揺れる白いワンピースに、青いデニムジャケットを羽織り、スマホを片手に待っていたのだ。
いつの日も、その姿を見ると心を締め付けられる。
僕の方が大人なのに、学生時代に戻されるような。
学生のはずの本城さんは、大人っぽく感じる。
僕なんかよりずっと。
車を側に寄せて外に出る。
「本城さん、おはよう。早いですね」
「こちらこそ、おはようございます」
少しだけ肌寒く感じる季節、本城さんの声は…僕の心温めてくれる、染みわたるように優しく。
「さっ、乗って」
僕は、助手席の扉を開けて向かい入れる。
車内に乗り込むと、一気に華やかな気持ちになる。
横に座る事は、今までに何度かあったが、また違った緊張感が押し寄せてくる。
「それでは、出発しんこーう!!」
元気な明るい声が社内に響き渡る。
アクセルを踏み、鎌倉へと向け走り出した。
日帰りの、本城さんの為の旅行へと。
高速に乗る手前、ドライブスルーのできるMoonLucksへと立ち寄り、コーヒーを二つ注文して受け取る。
車内で飲んでいると、不思議と笑みが溢れる。
「私たちってブラックコーヒー飲んでるんですね」
「そうだね、あの喫茶店に行ってからだよ、僕は」
「私もです、なんかコーヒーを飲むと真田さんの事を思い出すようにもなってるんです」
「確かに、色々思い出す事もあるからね」
「あっ!私が財布忘れた事思い出したでしょ!…いいですよ、この前だって財布落としてお金無くしたんですから、おあいこですからーっ」
「ははっ、あの時はご馳走様でした」
「いえいえ、こちらこそご馳走様でした」
車内に笑い声が響きわたる。
本城さんとの甘い思い出には、苦いコーヒーが丁度いいのかもしれない、そう想って飲むコーヒーは、苦さもあるがとても美味しく感じる。
高速道路のバーをくぐり、鎌倉に向け走り続ける。
今は快晴のようだ、降水確率は50%だった。
せっかくの旅行なのだ、晴れの方がいい。
本城さんも窓の外を眺め同じ気持ちらしい。
「ねぇねぇ!開けてもいい?」
そう言って、助手席のウィンドウを開ける。
「風が気持ちいいね~、晴れてよかった!せっかくの旅行だもんね!」
当たり前のことだとしても、同じ気持ちだと分かればこんなにも心が嬉しくなる。
楽しい時間は過ぎるのが早い、まだ始まったばかりなのに、終わりがあると思うと少し寂しくなる。
途中、休憩を挟みパーキングエリアにも寄る。
サービスエリアがないと知ったのは、ここに寄ってからだった。
「サービスエリアも楽しみにしたんですけどね」
「いいじゃん、行こうよ!お土産コーナーに寄るだけでも楽しいよ?」
僕は腕を引かれ、お店の中に入っていく。
確かに店内は楽しかった。
一人では楽しくないだろう、本城さんといる時間が楽しいと感じるのだ。
「ねぇねぇ!もう、お土産とかかっちゃう?」
「まだ早いと思いますよ」
「えぇー?そっかなー?」
「鎌倉がメインでしょう、さっ行きましょ」
「はーい」
再び運転を再開する。
鎌倉まではもう少しだ、目的の場所が近づいてきた。
気のせいだろうか、潮の香りが漂う。
「ねぇねぇ!海だよ!鎌倉だよ!!」
高速を降りてしばらく、目の前には海が広がった。
天気も良く、僕たちを歓迎しているようだ。
「来たんだね~車で、鎌倉に…」
「はい、楽しみですね!」
「うん!待ち望んだんだもん!海行こうよ!」
「もう少しで駐車場に着くと思うので、まだ我慢していてくださいね」
ハンドルをきり、海沿いを走っていく。
潮の香りと夏の残りを感じさせながら、風が優しく吹き抜ける。
僕は駐車場を見つけ、車を止める。
長距離ドライブに疲れたのか、降りて背伸びをする。
「んー……きもちいいー!」
「潮の香りがしますね、涼しく過ごしやすいです」
「ねっ、早く行こうよ!」
「本城さん、待ってください!」
僕は本城さんの隣を歩き、海へと向かう。
涼しくなったたとは言え、少し夏の暑さが残る。
目の前に広がる青い海、後ろを向けば秋の紅葉が色めき始めている。
隣の本城さんは、瞳を輝かせていた。
「海綺麗だねー」
「はい、とっても綺麗です」
「これは良い絵日記が描けそう」
「えっ?何か行きましたか?」
風の音で少し聞き取れなかった。
「ううん、向こうまで行ってみようよ!早く!」
「は、はい、待ってください」
浜辺へと走り始めていた。
それを、追いかけるように走っていく。
砂浜に足を取られながらも、波の側に寄る。
波の来ない間際で海を眺めている。
「何回も言ったけど、綺麗だね…」
「うん、綺麗ですね…」
「海ってさ~綺麗だけど、怖くもあるよね…」
「溺れた経験とかが、あるんですか?」
「ううん、特にないんだけどさ。静かじゃん?海の上も下も、どこまで行っても果てしない静けさが、怖いなって思うんだよ」
「静かなのは嫌いですか?」
「独りになる静けさは嫌い、世界で取り残されたような、誰にも見向きもされないような」
「それは、私も感じることありますよ…」
「似た者同士だね、私たち」
「本城さんも感じるのですか?」
「ん?私?私はずっと独りだよ…」
「それって、私が側にいててもですか?」
「ううん、そういう事じゃないの。違うんだ…」
それ以上は聞くのが怖くなった。
徐々に冷たく凍り始めた、彼女の表情を見れない。
以前、話していたような“氷の華”が頭をよぎる。
「いこっか!まだまだ行きたいところあるんだ!」
「そ、そうですね…次はどこ行きましょうか?」
「お昼まで周辺を散策しようよ!」
「では、あちらの方にいきましょう」
「は~い」
それから僕は、海沿いを歩きながら散策をする。
色々な話しをする。学校の事や、友人関係の事など。
「前にも話をしたけどね、学校に馴染めていないのかな?周りからの誘いや、話しが合わないと感じる」
「例えば?」
「お洒落な喫茶店とか、カラオケとか…流行りの物とかかな~、どれも興味がないんだ」
「では、本城さんの好きな物を教えてください」
「え?」
「僕が知りたいのです」
「う~ん…そう言われると、初めて聞かれたかも。いつも“これいいよ”、“こうしたらいいよ”ばっかりだったから…」
「相手の好きなものを知らないと、話しは弾まなくなりますからね」
自分の言葉に違和感を覚える。
本城さんに対しては自然に出た言葉だ。
思い返すと会社の人や、営業先の人など、こちらから好きなものを聞いた事があっただろうか。
いつも自分の意見や気持ち…考えを一方的に。
「私はね、あの喫茶店が好きだな、コーヒーも…」
「僕も好きになりました」
「ねっ?いいよねあそこ…落ち着くの」
「雰囲気や香り、時間など、何もかもがいいですね」
「時間ってなに?」
「流れる時間です、ゆったりと包むように流れる」
「わかるかも、一人で入ってもあの喫茶店の一部になっているような感じがして、孤独を感じないの」
「そういえば、コーヒーは苦手ででは?」
「好きになったんだよ、最近」
「それも一緒ですね」
お互いの好きなものが一致する。
それだけで、話しはこんなにも弾むのかと感じる。
「そうえば、絵を描くのも好きでは?」
「うん!好きだよ!」
「普段から絵を描いてるんですか?喫茶店でも描いてるって言ってましたよね?」
「あ、言ったね。うん今日も写真を撮って、家に帰ったら描きたいなって思うの」
「それでさっきから風景の写真を沢山?」
「うん、絵を描いてる時は何も考えなくていいから」
「絵の事に集中できるからとか?」
「そっ、嫌な事とか考えなくていいから」
僕は、絵を描くのに興味はないが、本城さんの好きなものを聞いてると思うと、不思議と嬉しくなる。
そうか、相手の好きなものを聞いて相手の事を知る。
そうして会話が弾む事が、楽しいと感じるのか。
「そうえば、この前の絵とても綺麗でしたよ」
「上手って言わないんだね、ありがとう」
「ええ、綺麗だと感じました」
「あれって私の事なんだけど、綺麗?」
「え、あっ!あの、もちろん綺麗です。絵も」
「なにそれ、ふふっ…煮え切らないな~」
「そ、それより!将来は絵を描く仕事に?」
「なりたいけど、なれないや……」
「なぜですか?」
「親が許してくれないからね…自由じゃないから」
「いい大学に行きなさいってやつですよね?」
「うん、だから勉強の時間を割かないといけない」
「大学に入ってからは絵も描けるのでは?」
少しだけ溜めてから、口を開く。
言いたくないけど、抗えない状況を。
「多分、親が許さない。」
「それは…」
ここで言葉を止める。
これ以上は踏み込んではいけない、ここから先に踏み込むのは僕がしていい事ではない。
そう感じた僕は、それ以上何も言わない。
「ん?なにか言った?」
「いえ、辛いですね、好きな事が出来ないのは」
「でも今日は、私の好きな事をしているの、あなたのおかげでね」
「なら、もっと好きな事をしましょう!」
「その前にお腹空いたね、思えば朝も食べてない」
「あ、本当ですね昼前ですし丁度いいですね」
「ねぇ?ねぇ?なに食べる?」
「実は調べてあります…古民家レストランなどいかがでしょうか?」
「なにそれ!?」
瞳を輝かせながら、期待の眼差しを向ける。
この日のために色々調べてあるのだ。
抜かりなく、本城さんを楽しませる為に。
楽しむ姿を見るだけで、僕も楽しくなるから。
まだまだ1日は終わらない。
もっともっと楽しませようと心に決める。
彼女の表情がが凍りつかぬように。
外はまだ薄暗いが、アラームの音より先に目が覚める。
レンタカーも、財布も荷物も準備万端。
昨晩のうちに用意を済ましていた。
いつも以上に歯を磨き、昨日初めて買ったマウスウォッシュで口の中を整える。
決してキスをする準備ではない。
二人だけの車内だ、ずっと緊張するに決まってる。
ヘアセットをしていくが…上手くいかない。
一度シャワーで洗い流して、やり直す。
2回目はまだ上手く出来た気がする。
時計を確認し、そろそろ家を出る時間だと気づく。
急いで荷物をまとめて外に出る。
コインパーキングに止めていたので、清算する。
そして車に乗り込み、駅前へと向かう。
予定時間の30分前には到着できそうだ。
前は遅刻したので、今回は先に着こうと思った。
だが、その思惑は外れる事になる。
本城さんが駅前で待っていたのだ。
揺れる白いワンピースに、青いデニムジャケットを羽織り、スマホを片手に待っていたのだ。
いつの日も、その姿を見ると心を締め付けられる。
僕の方が大人なのに、学生時代に戻されるような。
学生のはずの本城さんは、大人っぽく感じる。
僕なんかよりずっと。
車を側に寄せて外に出る。
「本城さん、おはよう。早いですね」
「こちらこそ、おはようございます」
少しだけ肌寒く感じる季節、本城さんの声は…僕の心温めてくれる、染みわたるように優しく。
「さっ、乗って」
僕は、助手席の扉を開けて向かい入れる。
車内に乗り込むと、一気に華やかな気持ちになる。
横に座る事は、今までに何度かあったが、また違った緊張感が押し寄せてくる。
「それでは、出発しんこーう!!」
元気な明るい声が社内に響き渡る。
アクセルを踏み、鎌倉へと向け走り出した。
日帰りの、本城さんの為の旅行へと。
高速に乗る手前、ドライブスルーのできるMoonLucksへと立ち寄り、コーヒーを二つ注文して受け取る。
車内で飲んでいると、不思議と笑みが溢れる。
「私たちってブラックコーヒー飲んでるんですね」
「そうだね、あの喫茶店に行ってからだよ、僕は」
「私もです、なんかコーヒーを飲むと真田さんの事を思い出すようにもなってるんです」
「確かに、色々思い出す事もあるからね」
「あっ!私が財布忘れた事思い出したでしょ!…いいですよ、この前だって財布落としてお金無くしたんですから、おあいこですからーっ」
「ははっ、あの時はご馳走様でした」
「いえいえ、こちらこそご馳走様でした」
車内に笑い声が響きわたる。
本城さんとの甘い思い出には、苦いコーヒーが丁度いいのかもしれない、そう想って飲むコーヒーは、苦さもあるがとても美味しく感じる。
高速道路のバーをくぐり、鎌倉に向け走り続ける。
今は快晴のようだ、降水確率は50%だった。
せっかくの旅行なのだ、晴れの方がいい。
本城さんも窓の外を眺め同じ気持ちらしい。
「ねぇねぇ!開けてもいい?」
そう言って、助手席のウィンドウを開ける。
「風が気持ちいいね~、晴れてよかった!せっかくの旅行だもんね!」
当たり前のことだとしても、同じ気持ちだと分かればこんなにも心が嬉しくなる。
楽しい時間は過ぎるのが早い、まだ始まったばかりなのに、終わりがあると思うと少し寂しくなる。
途中、休憩を挟みパーキングエリアにも寄る。
サービスエリアがないと知ったのは、ここに寄ってからだった。
「サービスエリアも楽しみにしたんですけどね」
「いいじゃん、行こうよ!お土産コーナーに寄るだけでも楽しいよ?」
僕は腕を引かれ、お店の中に入っていく。
確かに店内は楽しかった。
一人では楽しくないだろう、本城さんといる時間が楽しいと感じるのだ。
「ねぇねぇ!もう、お土産とかかっちゃう?」
「まだ早いと思いますよ」
「えぇー?そっかなー?」
「鎌倉がメインでしょう、さっ行きましょ」
「はーい」
再び運転を再開する。
鎌倉まではもう少しだ、目的の場所が近づいてきた。
気のせいだろうか、潮の香りが漂う。
「ねぇねぇ!海だよ!鎌倉だよ!!」
高速を降りてしばらく、目の前には海が広がった。
天気も良く、僕たちを歓迎しているようだ。
「来たんだね~車で、鎌倉に…」
「はい、楽しみですね!」
「うん!待ち望んだんだもん!海行こうよ!」
「もう少しで駐車場に着くと思うので、まだ我慢していてくださいね」
ハンドルをきり、海沿いを走っていく。
潮の香りと夏の残りを感じさせながら、風が優しく吹き抜ける。
僕は駐車場を見つけ、車を止める。
長距離ドライブに疲れたのか、降りて背伸びをする。
「んー……きもちいいー!」
「潮の香りがしますね、涼しく過ごしやすいです」
「ねっ、早く行こうよ!」
「本城さん、待ってください!」
僕は本城さんの隣を歩き、海へと向かう。
涼しくなったたとは言え、少し夏の暑さが残る。
目の前に広がる青い海、後ろを向けば秋の紅葉が色めき始めている。
隣の本城さんは、瞳を輝かせていた。
「海綺麗だねー」
「はい、とっても綺麗です」
「これは良い絵日記が描けそう」
「えっ?何か行きましたか?」
風の音で少し聞き取れなかった。
「ううん、向こうまで行ってみようよ!早く!」
「は、はい、待ってください」
浜辺へと走り始めていた。
それを、追いかけるように走っていく。
砂浜に足を取られながらも、波の側に寄る。
波の来ない間際で海を眺めている。
「何回も言ったけど、綺麗だね…」
「うん、綺麗ですね…」
「海ってさ~綺麗だけど、怖くもあるよね…」
「溺れた経験とかが、あるんですか?」
「ううん、特にないんだけどさ。静かじゃん?海の上も下も、どこまで行っても果てしない静けさが、怖いなって思うんだよ」
「静かなのは嫌いですか?」
「独りになる静けさは嫌い、世界で取り残されたような、誰にも見向きもされないような」
「それは、私も感じることありますよ…」
「似た者同士だね、私たち」
「本城さんも感じるのですか?」
「ん?私?私はずっと独りだよ…」
「それって、私が側にいててもですか?」
「ううん、そういう事じゃないの。違うんだ…」
それ以上は聞くのが怖くなった。
徐々に冷たく凍り始めた、彼女の表情を見れない。
以前、話していたような“氷の華”が頭をよぎる。
「いこっか!まだまだ行きたいところあるんだ!」
「そ、そうですね…次はどこ行きましょうか?」
「お昼まで周辺を散策しようよ!」
「では、あちらの方にいきましょう」
「は~い」
それから僕は、海沿いを歩きながら散策をする。
色々な話しをする。学校の事や、友人関係の事など。
「前にも話をしたけどね、学校に馴染めていないのかな?周りからの誘いや、話しが合わないと感じる」
「例えば?」
「お洒落な喫茶店とか、カラオケとか…流行りの物とかかな~、どれも興味がないんだ」
「では、本城さんの好きな物を教えてください」
「え?」
「僕が知りたいのです」
「う~ん…そう言われると、初めて聞かれたかも。いつも“これいいよ”、“こうしたらいいよ”ばっかりだったから…」
「相手の好きなものを知らないと、話しは弾まなくなりますからね」
自分の言葉に違和感を覚える。
本城さんに対しては自然に出た言葉だ。
思い返すと会社の人や、営業先の人など、こちらから好きなものを聞いた事があっただろうか。
いつも自分の意見や気持ち…考えを一方的に。
「私はね、あの喫茶店が好きだな、コーヒーも…」
「僕も好きになりました」
「ねっ?いいよねあそこ…落ち着くの」
「雰囲気や香り、時間など、何もかもがいいですね」
「時間ってなに?」
「流れる時間です、ゆったりと包むように流れる」
「わかるかも、一人で入ってもあの喫茶店の一部になっているような感じがして、孤独を感じないの」
「そういえば、コーヒーは苦手ででは?」
「好きになったんだよ、最近」
「それも一緒ですね」
お互いの好きなものが一致する。
それだけで、話しはこんなにも弾むのかと感じる。
「そうえば、絵を描くのも好きでは?」
「うん!好きだよ!」
「普段から絵を描いてるんですか?喫茶店でも描いてるって言ってましたよね?」
「あ、言ったね。うん今日も写真を撮って、家に帰ったら描きたいなって思うの」
「それでさっきから風景の写真を沢山?」
「うん、絵を描いてる時は何も考えなくていいから」
「絵の事に集中できるからとか?」
「そっ、嫌な事とか考えなくていいから」
僕は、絵を描くのに興味はないが、本城さんの好きなものを聞いてると思うと、不思議と嬉しくなる。
そうか、相手の好きなものを聞いて相手の事を知る。
そうして会話が弾む事が、楽しいと感じるのか。
「そうえば、この前の絵とても綺麗でしたよ」
「上手って言わないんだね、ありがとう」
「ええ、綺麗だと感じました」
「あれって私の事なんだけど、綺麗?」
「え、あっ!あの、もちろん綺麗です。絵も」
「なにそれ、ふふっ…煮え切らないな~」
「そ、それより!将来は絵を描く仕事に?」
「なりたいけど、なれないや……」
「なぜですか?」
「親が許してくれないからね…自由じゃないから」
「いい大学に行きなさいってやつですよね?」
「うん、だから勉強の時間を割かないといけない」
「大学に入ってからは絵も描けるのでは?」
少しだけ溜めてから、口を開く。
言いたくないけど、抗えない状況を。
「多分、親が許さない。」
「それは…」
ここで言葉を止める。
これ以上は踏み込んではいけない、ここから先に踏み込むのは僕がしていい事ではない。
そう感じた僕は、それ以上何も言わない。
「ん?なにか言った?」
「いえ、辛いですね、好きな事が出来ないのは」
「でも今日は、私の好きな事をしているの、あなたのおかげでね」
「なら、もっと好きな事をしましょう!」
「その前にお腹空いたね、思えば朝も食べてない」
「あ、本当ですね昼前ですし丁度いいですね」
「ねぇ?ねぇ?なに食べる?」
「実は調べてあります…古民家レストランなどいかがでしょうか?」
「なにそれ!?」
瞳を輝かせながら、期待の眼差しを向ける。
この日のために色々調べてあるのだ。
抜かりなく、本城さんを楽しませる為に。
楽しむ姿を見るだけで、僕も楽しくなるから。
まだまだ1日は終わらない。
もっともっと楽しませようと心に決める。
彼女の表情がが凍りつかぬように。
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