君に春を届けたい。

ノウミ

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episode 13

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零れ落ちていく涙に、流川さんは何も言わなかった。

ただただ、傍にいてくれる。

それだけの事が、どれだけ僕の心を救ってくれたか。

流川さんは気づきもしないのだろう。


「急にごめんんさい、つい」

「大丈夫だよ、一人で抱えるって辛いよね」

「流川さんも?」

「……うん、私の心臓ね、もうすぐ動かなくなるの」


聞きたくなかった、信じたくない。

そんなことを感じさせないほどに、元気に見えるから。

今日だって、公園まで歩いて来ていたじゃないか。


「そんな事って…」

「私ね桜が好きなんだ、名前も”桜”だし」


そう話す瞳は寂しげにしていた。

公園の木々を見ながら、諦めたかのように。


「桜を見ると、一年経ったなって感じるし」

「一年の始まりって感じもありまよね」

「うん、その桜がね……もう見れないの」

「えっ………」

「そこまでは、生きれないだろうって、酷いよね」


そう話しながら、笑っていた。

僕でもわかる、作り笑いだと。


僕に何がしてあげられるだろうか。

そんな事を考えることはおこがましくはないか。

一人で抱える辛さを知っている流川さんに、一体何が。


「そういえばさ……」


すると、突然、苦しそうに胸を押さえ始める。

僕は叫びながら呼びかける。

僕の声も空しく、流川さんが倒れこむ。

先ほどまで普通に話していたのに。


呼吸が明らかにおかしい、胸を押さえている。

僕は、急いで病院に向かう。

足の痛みなんて知った事か。

流川さんの痛みや、苦しみに比べたら。
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