君に春を届けたい。

ノウミ

文字の大きさ
上 下
6 / 20

episode 6

しおりを挟む
あれから一週間程経った。


毎日、流川さんと顔を合わせる日々が続いていた。


部活終わりのこの公園で。

平日は、暗い中でも足を運んでいた。

小説を読めなくても気分転換になる、との事だった。


短い時間だけど会話をするようにもなった。

小説が好きで、特にミステリーが好きだと。

自分で考察して、裏切られた時がたまらないと語る。


そんな会話を交わすことがいつの間にか、僕の日常になりつつあった。


「明日はレギュラーの発表でしたよね?」

「はい、そうなんです…心配で心配で…」

「水雲さんなら大丈夫です、毎日努力しましたから」

「ありがとうございます」


流川さんにそう言われると、根拠はないが本当に大丈夫な気がしてくる。

元気を与えるその言葉は、咲き始めた桜のように、明日を楽しみにさせてくれる。


「明日も会えたら、いい報告をします」

「はい、ぜひ楽しみにしております」


そう言って挨拶を交わす。


いつも通り、流川さんが先に帰る。


僕は暗くなるまで練習を続けた。


明日への不安が少しでも消えるように。

流川さんに良い報告が出来るように。


そう思いながら打ち続けたボールは、今までで一番綺麗な放物線を描き、音もなくネットに入る。


人のいなくなった公園で、ボールが地面に弾む音だけが響き渡る。


枝に実り始めた蕾に、気づくことはない。

まだ、何の花が咲くかは分からないから。

すぐそばに、明日への希望の花は咲いていた。

その花に紛れるように、そっと蕾を隠しながら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

処理中です...