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第23話 絶滅したんだ、世界を護るために……②

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「それにしても珍妙な店だな。杉田はこういう店によく来るのか?」

 物珍しそうに、中村が店内を見回す。

「へ? そ、そんなわけねーだろぉ。『みく☆ミラ』コラボだから仕方なく予約しただけだってぇの。じゃなかったら、こんな店俺が来るわけがねえだろうが」

 と話している俺たちの席へ、

「はぁ~い。おにぃちゃんたち、お待たせぇ~☆ ご注文の『くろみの黒色惑星☆カルボナーラ』と『くろみの練乳まみれチョコバナナ』だよぉ~♪」

 甲高い甘え声のメイドさんが、注文の料理を手に現れる。
 メイドさんの胸には、『キララ・ヤマト』と書かれた星形のネームが輝いていた。

「あ、さとりおにぃちゃん♪ また来てくれたんだ。えへへ、キララ嬉しいな☆」
「ぶっ!?」

 メイドさんの言葉に、ドリンクが鼻から噴き出る。

「げほ、ごほ、ちょ、キララ…………さん? きょ、今日はそういうのはちょっと――」
「――ちょっと奥さん、今の聞きました?」
「――ええ、こんな店に来るわけないとか、さっき偉そうに言ってたクセに……」

 わざとらしく井戸端会議を始めるオノディンと中村。

「お前らコソコソ言うの止めろ! 全部聞こえてんだよ!」

 いや、分かってた、この可能性は分かってたけれども! 
 でもキララさん、いつもこの日はシフト入ってないじゃん。何で今日に限って変則シフトなんだよ!

「もう、智おにぃちゃん。喧嘩はダメだよぉ~」

 俺の怒りを優しく諭しながらも、キララさんは慣れた手つきで料理をテーブルに並べていく。
「そういえば、さっき『くろみの練乳まみれチョコバナナ』のお話してたよね? えへへ、確かにコレ凄い名前だよね~」

 キララさんが恥ずかしそうに笑う。

「あーさっきの話、聞こえてました? すいません、うるさくしちゃって……」
「あはっ、すいませんって……どうしたの智おにぃちゃん? 敬語なんてらしくないぞ☆ いつもみたいに『キララにゃ~ん』って呼んでいいんだよぉ~♪」

 最高の笑顔で爆弾を投下してくるキララにゃん。

「ちょっとぉ! アンタ接客業なんだから少しは空気読めよ!」
「あ、そうだ智おにぃちゃん。今日でスタンプカード30ポイント貯まるよね? 後でツーショットチェキ撮ろうね♪ 約束通り、スクール水着とランドセルとブルマも用意してあるんだぞ☆」
「いや、ちょっと、僕には何の話だか……」
「え~何言ってるのお兄ちゃん☆ スク水ランドセルブルマ――略して〝スクールランブル〟は至高にして究極のメニュー、とか言ってたでしょ~♪」
「やめろぉっ! アンタそれもう絶対わざとやってるよねっ!?」
「えへへ~。智おにぃちゃんがお友だち連れて来るなんて珍しいからぁ、キララちょっと意地悪しちゃった♪」

 俺の必死のツッコミもどこ吹く風と、キララにゃんは、口元に人差し指を当てながら、最高に可愛い笑顔でとぼけて見せる。

「『ちょっと意地悪』で、人の世間体メチャクチャにすんの止めてもらえます!?」
「えっと~~~~てへぺろ?」

 実年齢がバレそうな誤魔化し方だった。

「それと言っておくけど、中村コイツはダチなんかじゃなくて――」

 そう言いかけた俺の肩を、キララにゃんがガシッと掴む。

「へ?」

 ちょ? 強!? キララにゃん握力強!

「――――友達じゃない……? ねぇ、おにぃちゃん。そこんとこ、お姉さんに詳しく聞かせてくれるかな?」

 逃げられないように肩を組んできたキララにゃんが、俺の耳元で低く囁いた。

「声低っ!?」

 何? 何なの? ちょ、誰、この人誰!?
 甲斐甲斐しくて可愛らしい俺のキララにゃんはどこ行った???

「さっきからね……お店すっごく忙しいのに。皆、気になって気になって気になって仕方ないの……。しごt……ご奉仕に集中出来ないの。あなた達のこと、ちらちら見ちゃうのよ……」
「ちょ……キララにゃん……? な、何を……」
「しらばっくれんじゃないわよ……。イケメン眼鏡とワイルド系の男子高校生二人が、仲良くぬいぐるみ持ってメイド喫茶デートって……軽率なのよ! その行いがどれだけ軽率で罪深いか……」

 目が、目が血走ってるよキララにゃん!

「しかも今度はぬいぐるみ使って、二人で腹話術で遊び始めるし! 殺す気!? 私たちにとってその行いは、破滅の呪文に等しい殺傷力を秘めているのよ!」

 俺の頬を鷲掴みにして顔を近づけて来るキララにゃん。その瞳には、狂気が宿っていた。

「ちょ、ちょ、ちょぉーーー。ちが、違う、デートじゃないから! ダチじゃないとは言ったけれども! BL的なアレでもないからぁ!!!」

 キララにゃんの迫力に、必死に言い訳を口にする。と――

「――チッ」
「――紛らわしい……」
「――期待してたのに……」

 小声だが確かなブーイングが、店内の至る所から耳に届く。
 それと同時に、キララにゃんがバレリーナの様にくるりと回転し、席から離れる。

「なぁ~んだ♪ ごめんね、おにぃちゃん。キララ勘違いしちゃった☆」

 さっきの姿は幻覚だったのではと疑うほどに、一瞬にして素敵なメイドさんに戻ったキララにゃんは、口元を両手で隠し『えへへ~』と笑い、

「じゃ、おにぃちゃん達、今日はいっぱい楽しんで行ってね☆」

 そのまま店の奥へと消えていくのだった。

「―――――――――」

 泣いてもいいかな……。
 やっぱり、メイドも三次元なんや。
 期待したらアカンかったんや。
 魂の抜け殻となる俺。あまりの事態に思考回路が関西弁になっている。

「く……くく。どうしたんだ智おにぃちゃん? か……顔色が悪い……ぞ」

 中村が机に突っ伏して、苦しそうに腹を押さえていた。

「ぷー、くくく……。さ、智おにぃちゃん元気出しなよ。キ……キララにゃんが、ブ、ブ、ブルマとスク水とランドセルで、しゃ……写真撮ってくれるって…………い、言ってたじゃないか……」

 オノディンも、バシバシとテーブルを叩きながらプルプルと震えている。

「てめえら、人の不幸を笑ってんじゃねぇよ! マジで泣くぞコラ!」
「あ、キララにゃん。こちらの智おにぃちゃんに『血染めのイチゴミルク』追加、よろしく」
「てめぇ、中村! マジぶっ殺す、表出ろやぁ!」
 
 最悪だ。抱き枕カバーに続き、こんな秘密まで中村に知られるなんて……。
 頭を抱える俺の横で、中村とオノディンはもう耐えきれないとばかりに大爆笑しているのだった。
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