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第21話 恋にさよならを
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仕事の鬼ことログは、フォールスからの連絡を待っていたが、何日待っても一向に来ないことに痺れを切らしていた。
仕事中に個人的な行動はできない、だったら……。ログが考えた方法は至って原始的だった。
「確保おおお!!!」
少し残業をしたフォールスが、帰り道を歩いていたときだった。道の脇の茂みから急に何かが飛び出し、気づいた時にはタックルされていた。
「ぐふぉっ!」
変な声を出し、倒れるフォールス。
殺される!と慌てて体を起こそうとしたフォールスは、タックル犯の顔を見て固まる。
「ログ……」
何枚もの葉が刺さり、乱れた髪のログが、逃がさないと言わんばかりにしがみついている。
実はログ、フラスさんに、フォールスが退勤したら連絡をくれるよう根回しをしていたのだ。帰り道は把握している……あとは待ち伏せするだけ、だったというわけだ。
唖然としているフォールス。その隙に、ログはすかさずロープを取り出し、フォールスを縛り上げた。
「絶対に逃がさないんだから!」
うまく縛れて、鼻息を荒くし大満足のログ。
以前、自分を襲った犯人を縛り上げたあと、逃げられてしまったのを明らかに根に持っている。
そして、それと同時に、フォールスにはとある記憶が蘇っていた。
ログを襲い、縄で縛られた暴漢たちを逃した時の記憶が。
だが、ログには口が裂けても言えない、今の彼にとっては、ログに関する後悔のひとつである。
「さてと……まあよくもわたしを避け続けてくれたね……」
仁王立ちする姿に迫力……はやや欠けるが、それでもフォールスはたじろぐ。
「……っこんなことして、一体何なんだよ」
「何なんだよはこっちのセリフだよ!」
「ぐっ……」
ログの怒りに圧倒されるフォールス。意図的に避けていた自覚は充分あるので、あまり強く出られない。
大人しくなったフォールスに、ログは真っ先に聞きたかったことを尋ねた。
「……魔王城、辞めるって、本当?」
「……うん、家を継ぐことになった」
聞く前に、もう知ってはいたことだったが、彼の口から直接聞きたくて、あえて聞いたのだ。
父親が亡くなり、次男のフォールスは家を継ぐ予定はなかったが、長男がどうしてもやりたい事があると言い、渋々フォールスが家を継ぐことにしたのだと、上司のハヤシに聞いたのだ。
ただ、ログはまだ聞くべきことがある。
「……で?それを言わないまま、わたしの前からいなくなろうとでも思ったの?」
そう問われ、フォールスの心はズキッと痛む。その通りだった。彼女の前でうまく振る舞える自信など、微塵もなかった。
「君に、合わせる顔がなくて……」
「……わたしを刺したのは、フォールスくんじゃないでしょ。なのになんで」
理解できない、と呆れたように言うログ。フォールスは思わず頭に血が上る。僕の気も知らないで……と。
「そんな……そんな風に……僕は何も悪くありませんなんて平気な顔して、君と話せるわけないだろう!
あの子が君を刺したのは、僕の言葉がきっかけになったのは、紛れもない事実じゃないか!なにより、すぐ側にいたのに、君を……君を守ることさえできなかった……そんな僕が、君と会うとかそんな資格……ないんだよ……」
叫んでいるかのように、フォールスは言う。誰にも言えず、心の中で渦巻いていた感情を、ログにぶつけた。
ログは、どう答えるべきか考え……なにかを決意したようだ。
ログは無言のままフォールスに近寄りその拳を振り上げ…………殴った!!!
「鉄拳制裁!これでおあいこ!分かった!?」
だが、ログの一撃は、大したダメージを与えられていない。なんだかんだ、本気で殴れるほど、ログはフォールスに憎しみを持てていないのだ。
ただ、物理的にはそれほどでも、フォールスの精神へは多大なるダメージを与えたようだ。
しばらく呆然としていたフォールスは、突然、肩を震わせて笑い出した。
「ログ……君って人は……ふ……ふふっ……すごいなぁ……あはっ……」
笑いながらも、フォールスの瞳からは涙が次々と流れる。泣き笑いで顔がぐちゃぐちゃだ。でも、美形はそれでも美しい。
ログもつられて笑い、そして、腰に手を当てて言った。
「拳で語り合ったわたしたちは、熱い友情で結ばれたのだよ!」
訳が分からない。
もう、降参するしかない。そうフォールスは思った。
「そうだね……僕たちは、親友だ」
その言葉には、フォールスの中のあるひとつの気持ちへの、諦めも含まれていた。
そんな気持ちも知らず、ログは満足そうに笑った。
仕事中に個人的な行動はできない、だったら……。ログが考えた方法は至って原始的だった。
「確保おおお!!!」
少し残業をしたフォールスが、帰り道を歩いていたときだった。道の脇の茂みから急に何かが飛び出し、気づいた時にはタックルされていた。
「ぐふぉっ!」
変な声を出し、倒れるフォールス。
殺される!と慌てて体を起こそうとしたフォールスは、タックル犯の顔を見て固まる。
「ログ……」
何枚もの葉が刺さり、乱れた髪のログが、逃がさないと言わんばかりにしがみついている。
実はログ、フラスさんに、フォールスが退勤したら連絡をくれるよう根回しをしていたのだ。帰り道は把握している……あとは待ち伏せするだけ、だったというわけだ。
唖然としているフォールス。その隙に、ログはすかさずロープを取り出し、フォールスを縛り上げた。
「絶対に逃がさないんだから!」
うまく縛れて、鼻息を荒くし大満足のログ。
以前、自分を襲った犯人を縛り上げたあと、逃げられてしまったのを明らかに根に持っている。
そして、それと同時に、フォールスにはとある記憶が蘇っていた。
ログを襲い、縄で縛られた暴漢たちを逃した時の記憶が。
だが、ログには口が裂けても言えない、今の彼にとっては、ログに関する後悔のひとつである。
「さてと……まあよくもわたしを避け続けてくれたね……」
仁王立ちする姿に迫力……はやや欠けるが、それでもフォールスはたじろぐ。
「……っこんなことして、一体何なんだよ」
「何なんだよはこっちのセリフだよ!」
「ぐっ……」
ログの怒りに圧倒されるフォールス。意図的に避けていた自覚は充分あるので、あまり強く出られない。
大人しくなったフォールスに、ログは真っ先に聞きたかったことを尋ねた。
「……魔王城、辞めるって、本当?」
「……うん、家を継ぐことになった」
聞く前に、もう知ってはいたことだったが、彼の口から直接聞きたくて、あえて聞いたのだ。
父親が亡くなり、次男のフォールスは家を継ぐ予定はなかったが、長男がどうしてもやりたい事があると言い、渋々フォールスが家を継ぐことにしたのだと、上司のハヤシに聞いたのだ。
ただ、ログはまだ聞くべきことがある。
「……で?それを言わないまま、わたしの前からいなくなろうとでも思ったの?」
そう問われ、フォールスの心はズキッと痛む。その通りだった。彼女の前でうまく振る舞える自信など、微塵もなかった。
「君に、合わせる顔がなくて……」
「……わたしを刺したのは、フォールスくんじゃないでしょ。なのになんで」
理解できない、と呆れたように言うログ。フォールスは思わず頭に血が上る。僕の気も知らないで……と。
「そんな……そんな風に……僕は何も悪くありませんなんて平気な顔して、君と話せるわけないだろう!
あの子が君を刺したのは、僕の言葉がきっかけになったのは、紛れもない事実じゃないか!なにより、すぐ側にいたのに、君を……君を守ることさえできなかった……そんな僕が、君と会うとかそんな資格……ないんだよ……」
叫んでいるかのように、フォールスは言う。誰にも言えず、心の中で渦巻いていた感情を、ログにぶつけた。
ログは、どう答えるべきか考え……なにかを決意したようだ。
ログは無言のままフォールスに近寄りその拳を振り上げ…………殴った!!!
「鉄拳制裁!これでおあいこ!分かった!?」
だが、ログの一撃は、大したダメージを与えられていない。なんだかんだ、本気で殴れるほど、ログはフォールスに憎しみを持てていないのだ。
ただ、物理的にはそれほどでも、フォールスの精神へは多大なるダメージを与えたようだ。
しばらく呆然としていたフォールスは、突然、肩を震わせて笑い出した。
「ログ……君って人は……ふ……ふふっ……すごいなぁ……あはっ……」
笑いながらも、フォールスの瞳からは涙が次々と流れる。泣き笑いで顔がぐちゃぐちゃだ。でも、美形はそれでも美しい。
ログもつられて笑い、そして、腰に手を当てて言った。
「拳で語り合ったわたしたちは、熱い友情で結ばれたのだよ!」
訳が分からない。
もう、降参するしかない。そうフォールスは思った。
「そうだね……僕たちは、親友だ」
その言葉には、フォールスの中のあるひとつの気持ちへの、諦めも含まれていた。
そんな気持ちも知らず、ログは満足そうに笑った。
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