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番外編
あなたの欲しいもの(中編)
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叔父に頼まれたのをきっかけに始めた奉仕活動。今でも私は、時間があれば参加している。そんな中、私は子供達の中に初めて見る子供の姿を見つけたのだった。
「ねえ、クイン。あの子達は?」
私はクインという、かつて孤児院にいて今は子供のいない夫婦に引き取られた少年に聞く。彼は孤児院を出た今でも、友達と遊ぶために顔を出していて、私の手伝いも率先してしてくれる、とても心の優しい子だ。
「ああ、あのふたり?最近、兄妹揃って孤児院に引き取られたらしいよ。両親が事故で亡くなって、身寄りがなかったんだって」
「……そう」
まだ、他の子供達の輪の中に入れていないのか、兄妹はふたりきりで居心地が悪そうにしている。
「ねえクイン……こういう時、どうしてあげたらいいと思う?」
「アステちゃん、お勉強できるのに、そんな事も分からないの?」
「そうね……私、お勉強しかしてこなかったから、お友達とどうやって仲良くしたらいいか、まだよく分からないの」
「結婚までできたのに、お友達と仲良くなるのはできないの?」
「そ……それは」
私の夫であるフォールスは、思い返せば、彼から積極的に関わりを持とうとしてくれていた。私はそれに甘えて受け身でいたから、私の力で結婚できたわけでもなんでもないのだ。
「結婚できたのは、夫が頑張ってくれたから……でも今は違うでしょう?私から頑張ってお友達にならないといけないんだもの」
「そっかあ……じゃあ、友達の事は僕がアステちゃんの先生になってあげる!それでね、こういう時はやっぱり……」
そう言うとクインは、兄妹の方へと私の手を引いていき、元気いっぱいに声をかけた。
「ねえふたりとも、あそぼ!」
それが、兄のロジ、妹のルビーと、私の初めての出会いだった。
――
「それで、浮かない顔してるってわけか」
その日の夜。フォールスはベッドの中で、私の頭を撫でながら、少し困った様子で言った。
あの後、妹のルビーとはだいぶ打ち解けられたけれど、兄のロジには警戒されたまま。最低限の会話だけしかできず、彼からは誰の事も信用しないというような様子が、痛いくらい伝わってきていた。踏み込めば余計に警戒されると思い、私にはそれ以上何もできなかった。
「それくらいの年の子供は、一筋縄じゃいかないと思うよ」
「あなたもそうだったの?」
「そうだよ。精神的に未熟なのに知恵もついてきて、家や親の事で悩んで、でもそれをどうにかする経験も力もないから、もどかしくて苦しくて……」
「そう……」
「そういう君はどうだったの?」
「私?私は……勉強していればそういう悩みも考えなくて済むと思って……」
「想像通りだ」
「でしょう?」
なるべく主張せず、母の意に沿うように。子供の頃の私はずっとそうしてきた。余計な事を考えないでいられる方法が、勉強だった。
「おとなになっても、想像できるような未来を歩んでいるんだと思っていたのに……フォールスと出会ってから、想像もしていなかった道が拓けたわ。とても不思議」
「嫌だった?」
「いいえ……あなたと一緒にいられない未来なんて……考えたくもない」
フォールスが、私をぎゅっと抱きしめてくれる。
「考えなくていいよ。僕はちゃんと、君の一番側にいる」
「そうね……ふふ……あったかい……」
フォールスの腕に包まれて、体も心も暖かくなる。その心地よさに安心して、眠気が訪れる。
そんな私の様子に気づいたのか、フォールスは優しく笑って、私の額に口付けをくれる。
「今日は疲れただろ……早くおやすみ」
「いいの……?寝てしまって……」
「いいよ。ゆっくり休んで」
「ありがとう……おやすみなさい……フォールス」
私は手探りでフォールスの手に触れ、そしてそっと指を絡めて握ると、彼が優しく握り返してくれる。それだけで、私は大きな安心感に包まれ、そして眠りについた。
――
「アステちゃん!急にごめんね!」
あの兄妹と会ってから3ヶ月ほど経ったある日。急用だと言って、クインが仕事場まで訪ねてきたのだ。
「大丈夫よ。どうしたの?」
「あのねアステちゃん。ロジの事、おぼえてる?」
「ええ、おぼえてるわ。彼がどうかしたの?」
「僕、アステちゃんがいない間に、ロジとすごく仲良くなったんだ。それでね……」
焦りと困惑の表情でクインが話したのは、驚きの内容だった。
「ロジの事を引き取りたいっていう貴族がいるらしくて、ほら、僕の時みたいに、お試しで何度か家に泊まりに行ったんだって。そしたらロジ……その貴族のおじさんに……」
言い淀むクイン。私は彼の背中に手を添えると、そっとさすった。
「話しづらい事なら、無理に言わなくてもいいのよ?」
「ううん……言わなきゃいけない事だから、聞いてほしい。あのね……変なとこ触られたって……ロジが」
それだけで私は、青ざめてしまう。でも、クインはもっとショックを受けているのが分かる。……私がしっかりしなければ。
「そうだったのね。話してくれてありがとう。でも、どうして私に教えてくれたの?孤児院の先生には?」
そう聞くと、クインは首を横に振る。
「ロジ……誰にも言わないでって……妹の学費を用意してもらうためだから我慢するんだって……すごく辛そうだった」
「妹の……学費?」
「うん。自分と違って妹は頭が良くて勉強できるのに、親が死んじゃって学校に通えなくなったから、何とかしてまた通わせてあげたいんだって……だから」
なんて妹思いの兄なのだろう。でも、その純粋な思いが、欲望を満たすために利用されようとしている。
「……ねえアステちゃん、アステちゃんなら何とかできるいい方法思いつくよね?頭すごくいいんだもの。お願い、このままじゃロジがかわいそうだよ……」
泣きそうな顔で縋り付いてくるクイン。でも、私はこんな状況を打開できるような勉強はしてきていない。でも、目の前の小さな男の子が、友達との約束を破ってまで、私を頼ってくれたのだ。それに応えられなくてどうする。
「クイン……少し考える時間をちょうだい。私、あなたに嘘をつけないから、絶対に大丈夫って言えないけれど、何とかなる方法を死ぬ気で考えるから。それまでお願い……ロジの事、支えてあげてくれる?」
「うん……分かった!僕も頑張るから!ありがとう、アステちゃん!」
「ねえ、クイン。あの子達は?」
私はクインという、かつて孤児院にいて今は子供のいない夫婦に引き取られた少年に聞く。彼は孤児院を出た今でも、友達と遊ぶために顔を出していて、私の手伝いも率先してしてくれる、とても心の優しい子だ。
「ああ、あのふたり?最近、兄妹揃って孤児院に引き取られたらしいよ。両親が事故で亡くなって、身寄りがなかったんだって」
「……そう」
まだ、他の子供達の輪の中に入れていないのか、兄妹はふたりきりで居心地が悪そうにしている。
「ねえクイン……こういう時、どうしてあげたらいいと思う?」
「アステちゃん、お勉強できるのに、そんな事も分からないの?」
「そうね……私、お勉強しかしてこなかったから、お友達とどうやって仲良くしたらいいか、まだよく分からないの」
「結婚までできたのに、お友達と仲良くなるのはできないの?」
「そ……それは」
私の夫であるフォールスは、思い返せば、彼から積極的に関わりを持とうとしてくれていた。私はそれに甘えて受け身でいたから、私の力で結婚できたわけでもなんでもないのだ。
「結婚できたのは、夫が頑張ってくれたから……でも今は違うでしょう?私から頑張ってお友達にならないといけないんだもの」
「そっかあ……じゃあ、友達の事は僕がアステちゃんの先生になってあげる!それでね、こういう時はやっぱり……」
そう言うとクインは、兄妹の方へと私の手を引いていき、元気いっぱいに声をかけた。
「ねえふたりとも、あそぼ!」
それが、兄のロジ、妹のルビーと、私の初めての出会いだった。
――
「それで、浮かない顔してるってわけか」
その日の夜。フォールスはベッドの中で、私の頭を撫でながら、少し困った様子で言った。
あの後、妹のルビーとはだいぶ打ち解けられたけれど、兄のロジには警戒されたまま。最低限の会話だけしかできず、彼からは誰の事も信用しないというような様子が、痛いくらい伝わってきていた。踏み込めば余計に警戒されると思い、私にはそれ以上何もできなかった。
「それくらいの年の子供は、一筋縄じゃいかないと思うよ」
「あなたもそうだったの?」
「そうだよ。精神的に未熟なのに知恵もついてきて、家や親の事で悩んで、でもそれをどうにかする経験も力もないから、もどかしくて苦しくて……」
「そう……」
「そういう君はどうだったの?」
「私?私は……勉強していればそういう悩みも考えなくて済むと思って……」
「想像通りだ」
「でしょう?」
なるべく主張せず、母の意に沿うように。子供の頃の私はずっとそうしてきた。余計な事を考えないでいられる方法が、勉強だった。
「おとなになっても、想像できるような未来を歩んでいるんだと思っていたのに……フォールスと出会ってから、想像もしていなかった道が拓けたわ。とても不思議」
「嫌だった?」
「いいえ……あなたと一緒にいられない未来なんて……考えたくもない」
フォールスが、私をぎゅっと抱きしめてくれる。
「考えなくていいよ。僕はちゃんと、君の一番側にいる」
「そうね……ふふ……あったかい……」
フォールスの腕に包まれて、体も心も暖かくなる。その心地よさに安心して、眠気が訪れる。
そんな私の様子に気づいたのか、フォールスは優しく笑って、私の額に口付けをくれる。
「今日は疲れただろ……早くおやすみ」
「いいの……?寝てしまって……」
「いいよ。ゆっくり休んで」
「ありがとう……おやすみなさい……フォールス」
私は手探りでフォールスの手に触れ、そしてそっと指を絡めて握ると、彼が優しく握り返してくれる。それだけで、私は大きな安心感に包まれ、そして眠りについた。
――
「アステちゃん!急にごめんね!」
あの兄妹と会ってから3ヶ月ほど経ったある日。急用だと言って、クインが仕事場まで訪ねてきたのだ。
「大丈夫よ。どうしたの?」
「あのねアステちゃん。ロジの事、おぼえてる?」
「ええ、おぼえてるわ。彼がどうかしたの?」
「僕、アステちゃんがいない間に、ロジとすごく仲良くなったんだ。それでね……」
焦りと困惑の表情でクインが話したのは、驚きの内容だった。
「ロジの事を引き取りたいっていう貴族がいるらしくて、ほら、僕の時みたいに、お試しで何度か家に泊まりに行ったんだって。そしたらロジ……その貴族のおじさんに……」
言い淀むクイン。私は彼の背中に手を添えると、そっとさすった。
「話しづらい事なら、無理に言わなくてもいいのよ?」
「ううん……言わなきゃいけない事だから、聞いてほしい。あのね……変なとこ触られたって……ロジが」
それだけで私は、青ざめてしまう。でも、クインはもっとショックを受けているのが分かる。……私がしっかりしなければ。
「そうだったのね。話してくれてありがとう。でも、どうして私に教えてくれたの?孤児院の先生には?」
そう聞くと、クインは首を横に振る。
「ロジ……誰にも言わないでって……妹の学費を用意してもらうためだから我慢するんだって……すごく辛そうだった」
「妹の……学費?」
「うん。自分と違って妹は頭が良くて勉強できるのに、親が死んじゃって学校に通えなくなったから、何とかしてまた通わせてあげたいんだって……だから」
なんて妹思いの兄なのだろう。でも、その純粋な思いが、欲望を満たすために利用されようとしている。
「……ねえアステちゃん、アステちゃんなら何とかできるいい方法思いつくよね?頭すごくいいんだもの。お願い、このままじゃロジがかわいそうだよ……」
泣きそうな顔で縋り付いてくるクイン。でも、私はこんな状況を打開できるような勉強はしてきていない。でも、目の前の小さな男の子が、友達との約束を破ってまで、私を頼ってくれたのだ。それに応えられなくてどうする。
「クイン……少し考える時間をちょうだい。私、あなたに嘘をつけないから、絶対に大丈夫って言えないけれど、何とかなる方法を死ぬ気で考えるから。それまでお願い……ロジの事、支えてあげてくれる?」
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