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本編
第39話 また会う日まで *
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あの後、私達は何度も体を重ねた。記憶は酷く曖昧で、ただひたすら彼が与えてくれる快楽に溺れた事だけが強烈に、その余韻はまだ体の奥に残っている。
閉じた瞼越しに光を感じて、私は重く感じるそれをゆっくりと開く。
「ん……あさ……?」
最後の記憶では、閉まっていたはずの厚手のカーテンが開かれ、レースのカーテンから太陽の光が差している。
「おはようアステ」
ベッドの端に腰掛けて座るフォールスが、私に朝の挨拶をして、唇を重ねてくる。
「おはよう……フォールス」
鼻先を触れ合わせたまま離れないフォールスに、私も挨拶を返す。
「まだ眠そうだね……もう少し寝ててもいいよ?」
「ん……でも……そろそろお腹の虫が鳴りそう……」
私は以前、自分のお腹の音で目が覚めた事があったのだ。フォールスもそれを思い出したのか、途端に笑い出す。
「あはは!そりゃ大変だ!じゃあ早く朝食をとらないと」
そう言うとフォールスは、私の体を横抱きにして浴室まで運んでしまう。初めて彼に抱かれた次の日も、同じ事をされたのを思い出す。
でもあの日と違い、フォールスは私を浴室におろした後、そのまま浴室の扉を閉めてしまう。
「一緒に入った方が早い」
「そ、それはそうだけど……」
でも、汗を流すだけだと思っていた私は、フォールスにまんまと言いくるめられて、彼のものでいとも容易く貫かれてしまった。
「あ……!こんなに……したら……も……倒れそう……」
「じゃあ……倒れる前に終わらせないと」
「んっ!!あ!あ!んんっ……!」
強い突き上げに、視界が何度も白くちかちか輝く。そして、今までの分が溢れ出す前に、フォールスの唸るような声と共にさらに注がれてしまった。
「はは……するつもりじゃなかったのに……」
床にへたり込む私に、フォールスは詫びるように何度も軽く口付けして、苦笑混じりに言う。
「ふ……普通は……二、三回程度って……本で見たのに……」
「君、そんな事調べてたの?でも僕だって、こんなのは初めてだよ」
その瞬間、私のお腹から、ぐううう……という聞き覚えのある音が響いて、フォールスと私は顔を見合わせた。そして彼は笑い、私は恥ずかしさに顔が赤くなる。
「ははは!アステのお腹が怒り出した」
「もう……やだ……」
――
朝食を済ませて、少し宿でのんびりと過ごしてから、私達は宿を出た。一番最後の予定……今までお世話になったひとたちに、結婚の報告をしに向かった。
最初は、私の絵の先生をしてくれているエディさん。彼は、フォールスの顔を見るなり絶叫した。
「ちょ……ちょっとお!!!やっぱりあの噂本当だったんじゃない!!!」
フォールスはそんなエディさんに狼狽えながら、どういう事?という顔で私を見る。
「あのね……あなたとの噂が流れた時、エディさんには相手があなたじゃないって思われるような説明をしたの」
そして私はエディさんに頭を下げる。
「ごめんなさいエディさん……あの時はどうしても秘密にしておきたかったんです」
「もう……いいわよ。あなたにも、色々と事情があったんでしょ?こうして報告の約束を守ってくれたんだから……それでいいわ」
そう言うとエディさんは、フォールスの間近に迫り、しげしげと顔を見る。
「しっかし……本当に綺麗な顔。作り物みたいだわ。ねえあなた、絵のモデルやらない?お礼はたっぷり弾むわよ!ねえ、アステからも頼んでちょうだい!?」
「ええと……フォールス、駄目……よね?」
エディさんの言葉に触発されたのか、私も、少し描いてみたいと思ったのだ。フォールスを。
でも、フォールスの表情はあからさまに拒否を表している。
「いくらアステの頼みでも……モデルはちょっと」
「あらそう…………残念。ま、気が向いたらいつでも言ってちょうだい」
そして、次に挨拶に行ったのは、フラスさん。お祝いの言葉の後、彼女はこう続けた。
「いいことアステさん。女だからって家事を全てやってはダメ。あなたも働いてるのだから、フォールス君にもきちんと分担させるのよ?もし、家事は女の仕事だと言って押し付けてくるようなら、すぐにわたくしに相談なさい。その時はフォールス君をしっかり教育するわ」
私は、一緒に暮らしてからの具体的なイメージを考えていなかったので、フラスさんのアドバイスに目が覚めるようだった。
「は……はい!わかりました!」
「フラスさん!僕はそんな事しませんから!」
慌てふためくフォールスをよそに、フラスさんは続ける。
「もしどうしようもなくなったら、すぐ離婚を考える前に、通いのハウスキーパーを雇うのもおすすめよ。家の仕事が減って心の余裕ができれば、夫の多少の不満も気にならなくなるわ。よかったら紹介するから、いつでも言ってちょうだいね」
「あ、ありがとうございます!」
「僕……どれだけ信用がないんだ……」
――
今の時点で、結婚に関してやっておかなければいけなかった事は全て済ませる事ができた。そして、残りの時間は目的を決めず、ふたりきりの時間を過ごした。明日からまた少し、離れ離れの日が続くから。
私は仕事、そしてフォールスはお兄さんへの仕事の引き継ぎにと、それぞれ戻るのだ。
「アステはまた明日から仕事だろ?今日は早く休んだ方がいいよな……」
「そうね……。でもまたしばらく、あなたと離れ離れの生活だと思うと、離れ難い気持ちでいっぱい」
思わず抱きついてしまいたいのを、外だから必死で堪える。フォールスを見上げると、彼の表情も寂しそうに見えて、私の胸が苦しくなる。
「また次の君の休みには来るから、早く新居を決めよう」
「そうね……住む所が決まらないと、あなたも魔王城への復帰が遅くなるものね。私も、あなたがまたここに来るまでにできるだけ探しておくわ」
「うん……頼んだ」
私は、必死で笑顔でいようとするのに、気持ちと裏腹に涙が止まらなくて、顔を両手で覆う。
「ごめんなさい……笑顔で……お別れしようって思ったのに……」
フォールスの手のひらが、私の頭を優しく撫でる。
「そんな無理に作った笑顔より、ありのままの君の方がよっぽどいいよ。だって、僕と離れたくなくて泣いてくれてるんだろ?」
「そうよ……私、どうしようもないくらい、あなたがいないと駄目なの」
「僕だって同じだよ……ねえアステ。別れを悲しむより、またすぐ会えるのを楽しみにしていてほしい。指折り数えて、その日が来るのを」
私は、顔を上げる。そうだ。会えない事を悲しむより、会える日が近づくのを心待ちにする方がきっといい。
「そうね……。朝起きたら、あなたに会える日がまた一日近づいたって、そう考えるようにするわ。それだけで元気に一日を過ごせそう」
「うん、そうしてほしい。泣いてる君も好きだけど、笑ってる君も……とても素敵だよ」
そして私達は、軽く抱擁を交わし、そして次に会う日を心待ちにしながら、別れた。
閉じた瞼越しに光を感じて、私は重く感じるそれをゆっくりと開く。
「ん……あさ……?」
最後の記憶では、閉まっていたはずの厚手のカーテンが開かれ、レースのカーテンから太陽の光が差している。
「おはようアステ」
ベッドの端に腰掛けて座るフォールスが、私に朝の挨拶をして、唇を重ねてくる。
「おはよう……フォールス」
鼻先を触れ合わせたまま離れないフォールスに、私も挨拶を返す。
「まだ眠そうだね……もう少し寝ててもいいよ?」
「ん……でも……そろそろお腹の虫が鳴りそう……」
私は以前、自分のお腹の音で目が覚めた事があったのだ。フォールスもそれを思い出したのか、途端に笑い出す。
「あはは!そりゃ大変だ!じゃあ早く朝食をとらないと」
そう言うとフォールスは、私の体を横抱きにして浴室まで運んでしまう。初めて彼に抱かれた次の日も、同じ事をされたのを思い出す。
でもあの日と違い、フォールスは私を浴室におろした後、そのまま浴室の扉を閉めてしまう。
「一緒に入った方が早い」
「そ、それはそうだけど……」
でも、汗を流すだけだと思っていた私は、フォールスにまんまと言いくるめられて、彼のものでいとも容易く貫かれてしまった。
「あ……!こんなに……したら……も……倒れそう……」
「じゃあ……倒れる前に終わらせないと」
「んっ!!あ!あ!んんっ……!」
強い突き上げに、視界が何度も白くちかちか輝く。そして、今までの分が溢れ出す前に、フォールスの唸るような声と共にさらに注がれてしまった。
「はは……するつもりじゃなかったのに……」
床にへたり込む私に、フォールスは詫びるように何度も軽く口付けして、苦笑混じりに言う。
「ふ……普通は……二、三回程度って……本で見たのに……」
「君、そんな事調べてたの?でも僕だって、こんなのは初めてだよ」
その瞬間、私のお腹から、ぐううう……という聞き覚えのある音が響いて、フォールスと私は顔を見合わせた。そして彼は笑い、私は恥ずかしさに顔が赤くなる。
「ははは!アステのお腹が怒り出した」
「もう……やだ……」
――
朝食を済ませて、少し宿でのんびりと過ごしてから、私達は宿を出た。一番最後の予定……今までお世話になったひとたちに、結婚の報告をしに向かった。
最初は、私の絵の先生をしてくれているエディさん。彼は、フォールスの顔を見るなり絶叫した。
「ちょ……ちょっとお!!!やっぱりあの噂本当だったんじゃない!!!」
フォールスはそんなエディさんに狼狽えながら、どういう事?という顔で私を見る。
「あのね……あなたとの噂が流れた時、エディさんには相手があなたじゃないって思われるような説明をしたの」
そして私はエディさんに頭を下げる。
「ごめんなさいエディさん……あの時はどうしても秘密にしておきたかったんです」
「もう……いいわよ。あなたにも、色々と事情があったんでしょ?こうして報告の約束を守ってくれたんだから……それでいいわ」
そう言うとエディさんは、フォールスの間近に迫り、しげしげと顔を見る。
「しっかし……本当に綺麗な顔。作り物みたいだわ。ねえあなた、絵のモデルやらない?お礼はたっぷり弾むわよ!ねえ、アステからも頼んでちょうだい!?」
「ええと……フォールス、駄目……よね?」
エディさんの言葉に触発されたのか、私も、少し描いてみたいと思ったのだ。フォールスを。
でも、フォールスの表情はあからさまに拒否を表している。
「いくらアステの頼みでも……モデルはちょっと」
「あらそう…………残念。ま、気が向いたらいつでも言ってちょうだい」
そして、次に挨拶に行ったのは、フラスさん。お祝いの言葉の後、彼女はこう続けた。
「いいことアステさん。女だからって家事を全てやってはダメ。あなたも働いてるのだから、フォールス君にもきちんと分担させるのよ?もし、家事は女の仕事だと言って押し付けてくるようなら、すぐにわたくしに相談なさい。その時はフォールス君をしっかり教育するわ」
私は、一緒に暮らしてからの具体的なイメージを考えていなかったので、フラスさんのアドバイスに目が覚めるようだった。
「は……はい!わかりました!」
「フラスさん!僕はそんな事しませんから!」
慌てふためくフォールスをよそに、フラスさんは続ける。
「もしどうしようもなくなったら、すぐ離婚を考える前に、通いのハウスキーパーを雇うのもおすすめよ。家の仕事が減って心の余裕ができれば、夫の多少の不満も気にならなくなるわ。よかったら紹介するから、いつでも言ってちょうだいね」
「あ、ありがとうございます!」
「僕……どれだけ信用がないんだ……」
――
今の時点で、結婚に関してやっておかなければいけなかった事は全て済ませる事ができた。そして、残りの時間は目的を決めず、ふたりきりの時間を過ごした。明日からまた少し、離れ離れの日が続くから。
私は仕事、そしてフォールスはお兄さんへの仕事の引き継ぎにと、それぞれ戻るのだ。
「アステはまた明日から仕事だろ?今日は早く休んだ方がいいよな……」
「そうね……。でもまたしばらく、あなたと離れ離れの生活だと思うと、離れ難い気持ちでいっぱい」
思わず抱きついてしまいたいのを、外だから必死で堪える。フォールスを見上げると、彼の表情も寂しそうに見えて、私の胸が苦しくなる。
「また次の君の休みには来るから、早く新居を決めよう」
「そうね……住む所が決まらないと、あなたも魔王城への復帰が遅くなるものね。私も、あなたがまたここに来るまでにできるだけ探しておくわ」
「うん……頼んだ」
私は、必死で笑顔でいようとするのに、気持ちと裏腹に涙が止まらなくて、顔を両手で覆う。
「ごめんなさい……笑顔で……お別れしようって思ったのに……」
フォールスの手のひらが、私の頭を優しく撫でる。
「そんな無理に作った笑顔より、ありのままの君の方がよっぽどいいよ。だって、僕と離れたくなくて泣いてくれてるんだろ?」
「そうよ……私、どうしようもないくらい、あなたがいないと駄目なの」
「僕だって同じだよ……ねえアステ。別れを悲しむより、またすぐ会えるのを楽しみにしていてほしい。指折り数えて、その日が来るのを」
私は、顔を上げる。そうだ。会えない事を悲しむより、会える日が近づくのを心待ちにする方がきっといい。
「そうね……。朝起きたら、あなたに会える日がまた一日近づいたって、そう考えるようにするわ。それだけで元気に一日を過ごせそう」
「うん、そうしてほしい。泣いてる君も好きだけど、笑ってる君も……とても素敵だよ」
そして私達は、軽く抱擁を交わし、そして次に会う日を心待ちにしながら、別れた。
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