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本編
第9話 友情の熱い抱擁
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あれから、いつの間にか広場にいた他の子供達も混ざって、私は彼らにいろんな遊びを教わりながら広場を駆け回った。途中からはスクルも加わって、それはそれは大盛り上がり。
気づけば昼時になっていて、クインは、レストランに連れていってもらうのだと嬉しそうに帰っていった。
スクルと私は、へとへとになりながらベンチに座って、お互い顔を見合わせると、読書どころじゃなかったと笑い合う。
スクルにはそのまま少し遅めの昼食にまで付き合ってもらって、彼と別れる頃には、朝の落ち込みなどどこへ行ってしまったのだろうというくらい、明るい気持ちになっていた。
「あのままひとりで部屋にこもっていたら、ずっとくよくよしていたと思う……連れ出してくれてありがとう、スクル」
「思い切って声をかけてみてよかった。……そうだお姫様。ひとつ言っておきたい事が」
「え、ええ、何?」
「お姫様の相手が誰なのか、正式に結婚するまではくれぐれも秘密にしておいた方がいい」
真剣な表情で話すスクル。冗談や茶化すような内容ではなさそうだ。私は姿勢を正して彼に向き直る。
「一応、言わないようにはしているけれど……でもどうして?」
「フォールスが魔王城で働いていた頃、何とかあいつとお近づきになろうとしてくる女性が多くてね。その中のひとりにいたんですよ……パイラが」
「そ、そうなの?」
「もし彼女に知られたら、色々と面倒でしょう。根掘り葉掘り聞かれるだけならまだいいですが、色恋はひとを感情的にさせますからね……仕事をする上で支障があるかもしれません。知られないに越した事はない」
確かに、パイラさんに知られると、大変な事になりそうという予感はある。根掘り葉掘り聞かれるのを想像しただけでも、疲れてしまうようだった。
「わ、分かったわ……気をつけるようにする」
「ええ、頼みますよ。彼女、俺がフォールスと一緒にいる時もよく声をかけてきてましたからね。相当あいつを気に入ってたんだと思います。……でもまさか、俺の顔を全く覚えてないとは……きっと、フォールスの事しか目に入ってなかったんでしょうね」
そう言いながら肩をすくめるスクルに、私は何とも言えない気分になる。そんな私を、スクルは少し心配そうに覗き込んできた。
「お姫様……眉間に皺が寄ってますよ?どうしたんですか?」
「う、ううん。なんでもないわ。……とにかく、フォールスの名前は出さないように気をつけるわ。教えてくれてありがとう、スクル」
そうは言ったものの、本当は何でもなくなどなかった。なぜだか無性に、自分の大切なひとを蔑ろにされたように感じて、胸が苦しくなっていた。
私は、どうにかして彼を励まさないと、スクルの良さを言葉にしなければと、慌てて口を開いた。
「……スクル、あなたは本当に素敵なひとよ。私に言われても、あまり説得力はないと思うけど……あなたのいいところ……もっとみんなが気づいてくれるといいのに……」
うまく言葉にできない私に、スクルは驚いて、それから苦笑すると、私をそっと抱きしめてきた。
「お姫様……ありがとうございます。大丈夫、俺はそれくらいで傷ついたりしませんから。お姫様が分かってくれているだけで十分ですよ」
そう言いながら、私を励ますように、背中をそっと叩いてくるスクル。それだけで、さっきまでの嫌な感情が消えていく。単純だと自分でも思うが、それだけスクルに対して信頼を抱いている。
「ふふ……励ますつもりが、私の方が励まされてるわ……だめね私……」
「いいんですよお姫様。むしろこうして、お姫様を抱きしめるための口実ができて、俺はとても嬉しいんですよ」
そう言うスクルの体が、なぜか小刻みに震えている事に気づく。どうしたのかと彼の顔を見上げると、笑いを堪えきれない様子の彼と目が合った。その時だった。
「……いい加減にしろよスクル」
聞き覚えのある声。それと同時にスクルは、私への抱擁を解くと、私の肩をそっと掴んで、後ろを向かせた。
「……フォールス!」
そこには、心底嫌そうな顔をしたフォールスがいた。私は思わず彼の名前を呼ぶ。彼は腕を組んで、じとーっとした目でこちらを睨みつけている。
「ふたりの姿が見えたから来てみたら……おいスクル、僕の姿が見えたから、わざとアステのこと抱きしめただろう?僕をおちょくるのもいい加減にしろよ!?」
「さて、何のことやら。俺は大切な親友を熱い抱擁で励ましていただけなんだが?」
その会話で、スクルが笑いを堪えていた理由が分かって、私は思わず吹き出してしまった。
「もう……そうやってすぐフォールスをからかうの、スクルの悪い癖ね」
「ははは。困った事に俺は、フォールスをおちょくるのが生きがいなもので」
「おいそこのふたり!何意気投合してるんだよ!」
そうやって怒るフォールスが、なぜか可愛く見えて、私はまた笑ってしまった。私を睨むフォールスに、私は慌てて両手で口を塞いだ。
「すまんフォールス。でもどうした、今日は仕事か?」
「話を変えるなよ……そうだ、仕事だよ。あともう一つ片付けたら今日はおしまいだ」
「そうか……じゃあ、その後はお姫様を独り占めってことか。ならこんなところで油売ってないで、さっさと片付けてこいよ」
まるで追い払うように、フォールスに向かって手をひらひらとさせるスクル。フォールスは悔しそうな顔をしている。
「くそ……何か納得いかない……。アステ!仕事をすぐ終わらせるから、部屋で待っててくれる?」
「ええ……分かったわ。でも慌てなくて大丈夫だから、しっかりお仕事片付けてきてね」
「じゃあ……俺もそろそろ退散するかな。お姫様、くれぐれもさっき言ったこと、お忘れなく」
「分かってる、ちゃんと気をつけるわ。スクル、今日は付き合ってくれて本当にありがとう」
そしてフォールスと私は、帰っていくスクルを見送る。
「ねえアステ、さっき言われた事って何?」
「あ……あのね……」
私は、スクルに言われた事をかいつまんで説明すると、フォールスは腕を組んで大きくため息をついた。
「……確かにスクルの言う通りだな。俺も気をつける。ごめんアステ……俺のせいで」
「そんな!フォールスは何も悪くないわ!私の事は気にしないで、ね?……ほら、まだ仕事、残っているんでしょう?」
「うん……片付けてすぐに部屋に行くから待ってて。……くそ、ここで抱きしめるのもダメだよな……じゃあ行ってくる!」
そう言ってフォールスは、足早に立ち去っていった。私は、彼の姿が見えなくなるまで見送って、それから自分の部屋へと戻ったのだった。
気づけば昼時になっていて、クインは、レストランに連れていってもらうのだと嬉しそうに帰っていった。
スクルと私は、へとへとになりながらベンチに座って、お互い顔を見合わせると、読書どころじゃなかったと笑い合う。
スクルにはそのまま少し遅めの昼食にまで付き合ってもらって、彼と別れる頃には、朝の落ち込みなどどこへ行ってしまったのだろうというくらい、明るい気持ちになっていた。
「あのままひとりで部屋にこもっていたら、ずっとくよくよしていたと思う……連れ出してくれてありがとう、スクル」
「思い切って声をかけてみてよかった。……そうだお姫様。ひとつ言っておきたい事が」
「え、ええ、何?」
「お姫様の相手が誰なのか、正式に結婚するまではくれぐれも秘密にしておいた方がいい」
真剣な表情で話すスクル。冗談や茶化すような内容ではなさそうだ。私は姿勢を正して彼に向き直る。
「一応、言わないようにはしているけれど……でもどうして?」
「フォールスが魔王城で働いていた頃、何とかあいつとお近づきになろうとしてくる女性が多くてね。その中のひとりにいたんですよ……パイラが」
「そ、そうなの?」
「もし彼女に知られたら、色々と面倒でしょう。根掘り葉掘り聞かれるだけならまだいいですが、色恋はひとを感情的にさせますからね……仕事をする上で支障があるかもしれません。知られないに越した事はない」
確かに、パイラさんに知られると、大変な事になりそうという予感はある。根掘り葉掘り聞かれるのを想像しただけでも、疲れてしまうようだった。
「わ、分かったわ……気をつけるようにする」
「ええ、頼みますよ。彼女、俺がフォールスと一緒にいる時もよく声をかけてきてましたからね。相当あいつを気に入ってたんだと思います。……でもまさか、俺の顔を全く覚えてないとは……きっと、フォールスの事しか目に入ってなかったんでしょうね」
そう言いながら肩をすくめるスクルに、私は何とも言えない気分になる。そんな私を、スクルは少し心配そうに覗き込んできた。
「お姫様……眉間に皺が寄ってますよ?どうしたんですか?」
「う、ううん。なんでもないわ。……とにかく、フォールスの名前は出さないように気をつけるわ。教えてくれてありがとう、スクル」
そうは言ったものの、本当は何でもなくなどなかった。なぜだか無性に、自分の大切なひとを蔑ろにされたように感じて、胸が苦しくなっていた。
私は、どうにかして彼を励まさないと、スクルの良さを言葉にしなければと、慌てて口を開いた。
「……スクル、あなたは本当に素敵なひとよ。私に言われても、あまり説得力はないと思うけど……あなたのいいところ……もっとみんなが気づいてくれるといいのに……」
うまく言葉にできない私に、スクルは驚いて、それから苦笑すると、私をそっと抱きしめてきた。
「お姫様……ありがとうございます。大丈夫、俺はそれくらいで傷ついたりしませんから。お姫様が分かってくれているだけで十分ですよ」
そう言いながら、私を励ますように、背中をそっと叩いてくるスクル。それだけで、さっきまでの嫌な感情が消えていく。単純だと自分でも思うが、それだけスクルに対して信頼を抱いている。
「ふふ……励ますつもりが、私の方が励まされてるわ……だめね私……」
「いいんですよお姫様。むしろこうして、お姫様を抱きしめるための口実ができて、俺はとても嬉しいんですよ」
そう言うスクルの体が、なぜか小刻みに震えている事に気づく。どうしたのかと彼の顔を見上げると、笑いを堪えきれない様子の彼と目が合った。その時だった。
「……いい加減にしろよスクル」
聞き覚えのある声。それと同時にスクルは、私への抱擁を解くと、私の肩をそっと掴んで、後ろを向かせた。
「……フォールス!」
そこには、心底嫌そうな顔をしたフォールスがいた。私は思わず彼の名前を呼ぶ。彼は腕を組んで、じとーっとした目でこちらを睨みつけている。
「ふたりの姿が見えたから来てみたら……おいスクル、僕の姿が見えたから、わざとアステのこと抱きしめただろう?僕をおちょくるのもいい加減にしろよ!?」
「さて、何のことやら。俺は大切な親友を熱い抱擁で励ましていただけなんだが?」
その会話で、スクルが笑いを堪えていた理由が分かって、私は思わず吹き出してしまった。
「もう……そうやってすぐフォールスをからかうの、スクルの悪い癖ね」
「ははは。困った事に俺は、フォールスをおちょくるのが生きがいなもので」
「おいそこのふたり!何意気投合してるんだよ!」
そうやって怒るフォールスが、なぜか可愛く見えて、私はまた笑ってしまった。私を睨むフォールスに、私は慌てて両手で口を塞いだ。
「すまんフォールス。でもどうした、今日は仕事か?」
「話を変えるなよ……そうだ、仕事だよ。あともう一つ片付けたら今日はおしまいだ」
「そうか……じゃあ、その後はお姫様を独り占めってことか。ならこんなところで油売ってないで、さっさと片付けてこいよ」
まるで追い払うように、フォールスに向かって手をひらひらとさせるスクル。フォールスは悔しそうな顔をしている。
「くそ……何か納得いかない……。アステ!仕事をすぐ終わらせるから、部屋で待っててくれる?」
「ええ……分かったわ。でも慌てなくて大丈夫だから、しっかりお仕事片付けてきてね」
「じゃあ……俺もそろそろ退散するかな。お姫様、くれぐれもさっき言ったこと、お忘れなく」
「分かってる、ちゃんと気をつけるわ。スクル、今日は付き合ってくれて本当にありがとう」
そしてフォールスと私は、帰っていくスクルを見送る。
「ねえアステ、さっき言われた事って何?」
「あ……あのね……」
私は、スクルに言われた事をかいつまんで説明すると、フォールスは腕を組んで大きくため息をついた。
「……確かにスクルの言う通りだな。俺も気をつける。ごめんアステ……俺のせいで」
「そんな!フォールスは何も悪くないわ!私の事は気にしないで、ね?……ほら、まだ仕事、残っているんでしょう?」
「うん……片付けてすぐに部屋に行くから待ってて。……くそ、ここで抱きしめるのもダメだよな……じゃあ行ってくる!」
そう言ってフォールスは、足早に立ち去っていった。私は、彼の姿が見えなくなるまで見送って、それから自分の部屋へと戻ったのだった。
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