61 / 89
第61話『キラキラの服』
しおりを挟む
一週間後、クオンは服の採寸をするため、レヴィンの屋敷を訪れていた。
ここに来るのは二度目だが、一度目と同様ずいぶん場違いなところに来たと、クオンは思っていた。絨毯、絵画、陶器や壁にかかっている燭台。何もかもが豪華だった。
居心地は悪かったが、レヴィンもモーリスも歓迎してくれるので、顔には出さないように気をつける。
以前通された応接間は一階だったが、今日は二階の一室に通された。そこに仕立て屋がおり、採寸する前に服の生地の色を選んだ。
自分で選んでいいとのことだったので、藍色にした。
そのとき、モーリスに押し切られる形でレヴィンも一着作ることになった。
「俺の分は必要ないだろう。園遊会に出るわけじゃないんだ」
レヴィンは断ったが、モーリスは強い口調で反論した。
「いいえ! 品評会にはご婦人方が来られるのでしょう⁉ 華やかなレヴィン様をご覧になれば、ことあるごとに皆様参加されるに違いありません!」
つまり見た目で釣って、次につなげろ、ということか。
クオンは笑いながらモーリスに言った。
「レヴィンは客寄せってことですね」
「身も蓋もなく言えば、そういうことです」
モーリスは澄ました顔をした。彼も王子殿下に対してずいぶんな口を叩く。それが許されるのはレヴィンの人となりによるところが大きいのだろう。たまに王族だということを忘れてしまう。
モーリスの勢いに負けて、レヴィンは面倒そうに承諾した。
「わかった。任せるから、好きなように作れ」
かくして二か月の制作期間を経て、品評会の直前に二人の服が仕上がった。
季節は春になっていた。
品評会当日、レヴィンの屋敷でその服を着てみた。腕を通したとき、生地の肌触りに驚いた。さらさらしていて、しかも動きやすい。自分の身体に合わせて作られているせいか、着心地は抜群だった。
「よくお似合いです」
隣でにこにこ笑っているモーリスに、クオンは申し訳なく言った。
「こんなに良いものを本当にいただいていいんですか」
「当家からの贈り物です。ささやかではありますが……今後ともレヴィン様をよろしくお願いいたします」
主人のいないところで家令が頭を下げた。クオンは服の礼を言いつつ、戸惑っていると、自室で着替えていたレヴィンが部屋に入ってきた。
藍色の服を着たクオンを見て、レヴィンは目を細めた。
「ああ、とても良いな。似合っている」
だが、クオンはレヴィンを見て、目を見張った。
「おまえ、すごいキラッキラだな!」
レヴィンの服は白い生地に金の刺繍が入っていた。朱色の髪と秀麗な顔立ちと相まって、誰の目も惹くこと間違いなしだ。
クオンはレヴィンの着飾った姿を初めて見たが、ここまで映えるとは思わなかった。
王子様の威力に釘付けになっていたが、レヴィンは乾いた笑みを浮かべた。
「今日は客寄せだから」
レヴィンにとってはかなり不本意な服のようだった。
似合いすぎて、見惚れてしまうかっこよさだが、クオンは素直に言えず、遠回しなセリフほ吐いた。
「若い女の子いたら大変だな。一発で落ちるぞ」
「…………」
褒め言葉のつもりだったのだが、お気に召さなかったのか、レヴィンは顔をそらした。
「俺のことはいい。そろそろ出かけよう」
ぶっきらぼうにレヴィンが言うと、モーリスがフード付きの旅装束を持ってきた。このまま外を歩くにはいささか目立ちすぎるからと言った。
外に出てもレヴィンはフードを被らなかった。トレイの村に初めて一緒に行ってから、彼は髪を隠さないようになった。
レヴィンと出会ってからもう一年が過ぎていた。
ここに来るのは二度目だが、一度目と同様ずいぶん場違いなところに来たと、クオンは思っていた。絨毯、絵画、陶器や壁にかかっている燭台。何もかもが豪華だった。
居心地は悪かったが、レヴィンもモーリスも歓迎してくれるので、顔には出さないように気をつける。
以前通された応接間は一階だったが、今日は二階の一室に通された。そこに仕立て屋がおり、採寸する前に服の生地の色を選んだ。
自分で選んでいいとのことだったので、藍色にした。
そのとき、モーリスに押し切られる形でレヴィンも一着作ることになった。
「俺の分は必要ないだろう。園遊会に出るわけじゃないんだ」
レヴィンは断ったが、モーリスは強い口調で反論した。
「いいえ! 品評会にはご婦人方が来られるのでしょう⁉ 華やかなレヴィン様をご覧になれば、ことあるごとに皆様参加されるに違いありません!」
つまり見た目で釣って、次につなげろ、ということか。
クオンは笑いながらモーリスに言った。
「レヴィンは客寄せってことですね」
「身も蓋もなく言えば、そういうことです」
モーリスは澄ました顔をした。彼も王子殿下に対してずいぶんな口を叩く。それが許されるのはレヴィンの人となりによるところが大きいのだろう。たまに王族だということを忘れてしまう。
モーリスの勢いに負けて、レヴィンは面倒そうに承諾した。
「わかった。任せるから、好きなように作れ」
かくして二か月の制作期間を経て、品評会の直前に二人の服が仕上がった。
季節は春になっていた。
品評会当日、レヴィンの屋敷でその服を着てみた。腕を通したとき、生地の肌触りに驚いた。さらさらしていて、しかも動きやすい。自分の身体に合わせて作られているせいか、着心地は抜群だった。
「よくお似合いです」
隣でにこにこ笑っているモーリスに、クオンは申し訳なく言った。
「こんなに良いものを本当にいただいていいんですか」
「当家からの贈り物です。ささやかではありますが……今後ともレヴィン様をよろしくお願いいたします」
主人のいないところで家令が頭を下げた。クオンは服の礼を言いつつ、戸惑っていると、自室で着替えていたレヴィンが部屋に入ってきた。
藍色の服を着たクオンを見て、レヴィンは目を細めた。
「ああ、とても良いな。似合っている」
だが、クオンはレヴィンを見て、目を見張った。
「おまえ、すごいキラッキラだな!」
レヴィンの服は白い生地に金の刺繍が入っていた。朱色の髪と秀麗な顔立ちと相まって、誰の目も惹くこと間違いなしだ。
クオンはレヴィンの着飾った姿を初めて見たが、ここまで映えるとは思わなかった。
王子様の威力に釘付けになっていたが、レヴィンは乾いた笑みを浮かべた。
「今日は客寄せだから」
レヴィンにとってはかなり不本意な服のようだった。
似合いすぎて、見惚れてしまうかっこよさだが、クオンは素直に言えず、遠回しなセリフほ吐いた。
「若い女の子いたら大変だな。一発で落ちるぞ」
「…………」
褒め言葉のつもりだったのだが、お気に召さなかったのか、レヴィンは顔をそらした。
「俺のことはいい。そろそろ出かけよう」
ぶっきらぼうにレヴィンが言うと、モーリスがフード付きの旅装束を持ってきた。このまま外を歩くにはいささか目立ちすぎるからと言った。
外に出てもレヴィンはフードを被らなかった。トレイの村に初めて一緒に行ってから、彼は髪を隠さないようになった。
レヴィンと出会ってからもう一年が過ぎていた。
1
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。
そんな努力もついに報われる日が。
ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。
日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。
仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。
※HOTランキング1位ありがとうございます!
※ファンタジー7位ありがとうございます!
魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます
オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。
魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
実の弟が、運命の番だった。
いちの瀬
BL
「おれ、おっきくなったら、兄様と結婚する!」
ウィルとあの約束をしてから、
もう10年も経ってしまった。
約束は、もう3年も前に時効がきれている。
ウィルは、あの約束を覚えているだろうか?
覚えてるわけないか。
約束に縛られているのは、
僕だけだ。
ひたすら片思いの話です。
ハッピーエンドですが、エロ少なめなのでご注意ください
無理やり、暴力がちょこっとあります。苦手な方はご遠慮下さい
取り敢えず完結しましたが、気が向いたら番外編書きます。
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
【完結】魔法薬師の恋の行方
つくも茄子
BL
魔法薬研究所で働くノアは、ある日、恋人の父親である侯爵に呼び出された。何故か若い美人の女性も同席していた。「彼女は息子の子供を妊娠している。息子とは別れてくれ」という寝耳に水の展開に驚く。というより、何故そんな重要な話を親と浮気相手にされるのか?胎ました本人は何処だ?!この事にノアの家族も職場の同僚も大激怒。数日後に現れた恋人のライアンは「あの女とは結婚しない」と言うではないか。どうせ、男の自分には彼と家族になどなれない。ネガティブ思考に陥ったノアが自分の殻に閉じこもっている間に世間を巻き込んだ泥沼のスキャンダルが展開されていく。
勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します
華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」
国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。
ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。
その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。
だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。
城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。
この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる