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第23話『物々交換』

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 メアリーの声はよく響いた。クオンの薬草茶がほしい人は何人もいるようで、村人が集まってきた。そこにレヴィンという珍しい連れがいたので、女たちは大騒ぎだった。
 
 どこに住んでいるのか、歳はいくつなのか、結婚しているのか、レヴィンは質問攻めにあった。宮廷では経験したことのない民衆の勢いに、目が回りそうになる。
しかし、彼女たちは朱色の髪のことは何も言わなかった。王妃から凶兆だと言われ、国王の愛妾からも蔑まれたこの髪は、民衆には大した意味のないもののようだった。
 
 クオンは子供たちの次に女たちに囲まれているレヴィンをよそに、持って来た薬草茶を硬貨や農作物、干し肉等と交換していた。

「香草茶はないのかい」
「あるよ」

「熱さましの薬、飲みやすかったよ。子供も嫌がらずに飲んでくれた」
「よかった。今日も持ってるよ」

「教えてもらった香草茶の配合なんだけど、うまくできないのよ。クオンみたいな味にならなくて」
「さじ加減の問題かな。もっと簡単なのを教えようか」

 村人たちは次々にクオンに声をかけ、クオンも愛想よかった。レヴィンが出会ったときのような無愛想な顔など、この村の人たちは知らないに違いない。別人のように生き生きとしている。レヴィンは黒い瞳が輝いているのを好ましく思った。

 ひとしきり交換が終わり、最後のひとりが帰っていくと取引は終了だった。あんなに多く感じた焼き菓子もなくなっていた。子供たちのうれしそうな、はしゃいだ笑顔を見ていたら、どんどん渡していた。

 クオンは物々交換した品を自分の鞄に入れていたが、入りきらない農作物をレヴィンの鞄に押し込み始めた。

「いつもはこんなにもらわないんだけど」
 
 と、困ったような声を出しながら、うれしそうだった。
 農作物は鞄からはみ出していたが、なんとか入った。

 クオンがもう帰るというので、ふと口にした。

「ロッドの村には行かないのか?」

 クオンは、「ああ」と言った。

「あいつが取りに来るから、行く必要ないんだ」
「遠いのか?」
「この村からは反対方向だ。俺の家から半刻くらいだな」
「それなら行ってみたいのだが」

 レヴィンはロッドがどんな村に住んでいるのか見てみたかったのだが、クオンは黙考し、低い声で言った。

「あいつの村はよそ者を嫌うから、行かない方がいい」

 難しい顔をしたまま、続けた。

「どうしても行きたいなら、連れてってやるけど。そのときは俺も行くから、勝手に行くなよ」

 忠告するような声音だった。

 よそ者に対する風当たりがよほど強いのだろうか。クオンもロッドも良い顔をしない。
 村の事情は様々だ。あまり触れない方が良さそうだった。レヴィンは素直にうなずいた。

「わかった。どうしてもってわけじゃない。ロッドも似たようなことを言っていた。行かない方がいいのなら、行かない」

 レヴィンの言葉にクオンは黙って立ち上がった。

 水車が回る水音が背後から聞こえてきた。
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