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第15話『交換条件』

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 クオンはテーブルの脇に練薬を置くと、スープに浸したパンを千切りながら言った。

「来るのはいいんだけど、朝はいないからな」
「どこに行ってるんだ?」
「薬草採取だよ。大体、この時間まで」

 井戸の脇に置いていた籠を思い出す。あれは薬草だったのか。レヴィンは納得した。

「明日も、この時間なら来てもいいか?」

 クオンはパンを口に入れかけた手を止めた。

「暇かよ。俺は毎日付き合ってやれるほど、暇じゃないんだけど」

 さすがに迷惑そうな声音だった。

 正直、レヴィンは屋敷にいてもすることがない。宮廷を追放されたといっても、生活費の支給はされている。食うには困らず、仕事もなかった。時間だけが膨大にある。クオンの言う通り、暇を持て余していた。なので、内心焦りながら、思いついたままを口にした。

「何か手伝えることをする。それじゃだめだろうか」

 クオンは宙を見て考えた。

「まあ……それならいいか」

 よかった、とレヴィンは口元を綻ばせた。

 朝から会えないのは残念だったが、食事のことも考えると昼過ぎからの方がいいかもしれない。

 レヴィンはスープをひとくち飲んだ。素朴で優しい味がする。わずかな薬味だけで作られているのがわかった。普段、刺激の強い香辛料をふんだんに使った料理に慣れていたレヴィンは、こういうのもいいなと思った。

 次にパンを千切って口に入れる。硬かったが、スープに浸されたところが柔らかくなっており、汁を吸ったパンは良い味を出していた。庶民の食事がどういうものかを知った。

 レヴィンはパンを咀嚼しながら、クオンの言葉を思い出した。

「さきほど、私のことを貴族と言ったが、その話はしただろうか」

 首を傾げたレヴィンに、クオンは残り少なくなったスープをすくった。

「そんなの、見ればわかるだろ」
「そういうものだろうか」
「あたりまえだろ。あんたらだって、俺らが庶民だって見ればわかるだろ。それと同じだ」

 言われてみれば、そうだ。着ているもの、話し方や立ち居振る舞いで判別できる。当然のことだったが、レヴィンは自分と彼との間に線を引かれたようで、物悲しい気持ちが湧いた。

 それきり、二人は黙々と食べ続けた。

 食事が終わると、何か役に立とうと思ったレヴィンは早速、手伝いを申し出た。

 クオンも人手があると薬草茶作りに集中できるので、ありがたいと言った。

「外に畑があるだろ。あれは薬草畑なんだけど、雑草抜いといてくれないか」
「わかった」
「俺はここにいるから、終わったら呼んでくれ」

 台所の手前にある部屋を見せてくれた。開け放した部屋の中は、乾いた葉や花びらが何種類と床に並べてあった。見たことのある香草もある。壁の棚にも並んでいて、香草店のように瓶や箱が置いてあった。

 クオンは床に並べた薬草を前に座り込んだ。レヴィンは言われた通り、外にある薬草畑に行った。均一に並んだ草が数種類、生えている。

 レヴィンは草をじっと見つめ、クオンのいる部屋に戻った。クオンからどうしたのか訊かれ、レヴィンは大まじめに言った。

「雑草がどれかわからない」

 クオンは口を開いて絶句し、黒髪をかきむしりながら立ち上がった。
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