《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

美姫の場合88⃝

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『ひ。ひ。ひ。いい気味だねえ。美姫。』
花火を上げろ・春風に負けぬ勢いで

『……』
美姫と呼ばれた人妻は応えない
応じる力がなくなっているのか
体力の限界値に居るのか
精神の臨界点に居るのか
屈辱に堪えられぬ口唇を更新できぬ
とあるSM小説の頁を開くのは悦(えつ)

『ひ。ひ。ひ。鼠ちゃんをもう一匹
 足してやるからね。楽しみだろう。』

『……』
ぐったりとした両手は東西に伸ばされる
緊結具から無限に放たれる鉄のかほり

童貞野郎に目隠しをして連れてこい
彼女に対して勃起する輩どもを見たい
彼女に対する加虐心の加速度が見たい
入場料は「情報」だ。お前達が胸元に。
隠している常識の裏側を見たい。

「正直になりなさい。
嘘をついてはいけないわ。
嘘つきは泥棒のはじまりよ。」

母親にそう教わって育ったのだろう
父親は勤勉より怠惰を好んだのだろう
そんなお前達に開放の場を与えてやる
身体に正直になりな・正直に・障子氣に
勃起は突起の愛撫を目指しているのだ
発起は猟虎の牙にして物語の主役
その認知なくして入場は叶わぬぞ

『……』

鼠がもう一匹

『……』

除され状(じょう)され
足され轢(ひ)かれ
首輪に紫陽花色の奴隷文様が綺麗
首輪に禁色(きんじき)の保冷文法が施され
彼女は言葉を失ってしまったのか
それとも言葉を忘れてしまったのか
あるひは言葉で表現できぬ程に
恥辱感で一杯の箱になってしまったのか

同じく鉄で出来た足枷は重厚で
手巻きの腕時計に似た形状をしている
襲いかかる鼠達の前足へBETしたいと
同足枷への荷重を加えたいと思わないか
俺はそう思うぜ・折角の人生じゃないか
WIN_WIN_WINといこうじゃあないか
『…だ…め…』そう云われてもな
君にとってその足枷は重すぎる・そうだろ

逆さまになってしまうやうな心情
塔婆を後生大事に拝む乳母の慕情
制度と性奴を模写する教場
其処には誰も居ない・解らないのか
其処には何もない・解らないのか
魂と心は概ね同一視で構わない
脳と一緒にするのが間違いの元

それは隙間に発生した小さなバグ
小さいが重大なミスを引き起こすバグ
魂が想起する瞬間にしか価値はなく
意識することでしか物事は動かない

赤鼠・橙鼠ときたら次は黄鼠
順番は決まっている・解るだろうか
宵越しの銭金を持たぬと口では言いつつ
虐め抜く老婆は生活防衛資金をたんまりと
溜め込んでいるのを感じるだろ

金の時計に仕掛けた時間の魔法
銀の蝋燭台に香りづけの施工を
銅の価値に同化していた男の唇から
「どうかしてるぜ・みんな」の一言

【私は…私は…】
脳内に戯言(たわごと)が響いている

【私は…。おもちゃ…。】
大脳辺縁系に戯言(ざれごと)が響いている

【私は…。ど…れ…】
右辺と左辺を繋ぐ橋には誰も居ない

【私は…。…ど。…れ。…い。】
ワンナイト・カーニバル
便箋と柳樽(やなぎだる)の睦み合い

【私は…。逃げられない。】
潜在意識まで鼠達が追ってくる

それぞれの足音が耳奥で重なり
世界の仕組みの深くまで背離込み
理解を越えた未来へと這入り込む
どうせ未来など誰にも予見できぬもの

予言めいたものに心・動かさず
予告めいたものに頭・悩まさず
身体の云うことを聞くのがいいのさ
物事は複雑に絡み合いつつも
本当は単純な構造の重なりに過ぎん

「フラクタル」俺の好きな概念のひとつ
君の悶え声で・城壁を破壊してくれ
尻穴(アナル)にまで鼠を挿れてやるから
直腸から小腸を貫通する恐怖の屏風の先に
どんな虎が吠えるのか見にいこうぜ
そそるだろ。

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