《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

美姫の場合㉙

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 …まるでサンドウィッチみたい。私は思いました。快楽に漂う肉(バンズ)と其れに抗おうとする心に挟まれている。さながらフィッシュサンド。さながら鋼鉄の酸度。皮膚は否応なしに吸収します。悪魔の液体を。

『いや…いや…ああ…ああ…あ』口噤の空間に液体が垂れてゆきます。私の着物はすっかり濡れたネズミのやうになっていました。森羅万象のうちでも最も効果的な媚薬により摘み挙げられてしまったのです。心と身体の裏腹加減が恨めしい。身体はすっかり火照ってしまいます。火照色(ほてりいろ)は萌葱色(もえぎいろ)に弄ばれつつ初秋の名月を見て歌う。


『いろづきや
 かなでてかなし
 おんなさが』


 悲哀の歌を。


 被災の詩(うた)を。


 死海の謡(うた)を。


『…うう…っ』まるで精進修行みたい。私は思いました。感度増す肉体にどれだけ耐えられるかといふ遊戯。新興教団に損なわれた精神を現実に結びつける胆力が試される遊戯。乳首が…。乳首が…。疼きます。疼きます。其れに委ねるだけの遊戯。

 卯月を待つ弥生の風物詩。悲哀の物語。胸元山脈はミリメートルを越えやうとしています。センチメートルを求めている。そして/そして。先を見たいと謳っている。


『昂ぶってきたな』


 言わないで。言わないでください。


『未だ下半身にも
 到達していないのだが。な。』


 言わないで。云わないで。


『もう一度噛んでやるよ。
 楽しみだろう。』


 そんなこと。望んでいません。心は。


『旦那さんが見たら
 どう思うだろうな。』


 駄目。駄目。駄目。撮らないでください。記録しないでください。拡大しないでください。拡散しないでください。拡散防止条約の裾野に此の身を置かせてください。

 御主人様はとても上機嫌なようです。私の仕草を/吐息を/変容をつぶさに御覧になっておられました。其の従者たる彼等4人は巧みな連携で私の上半身を上座から再度揺さぶります。

 愛撫(あいぶ)といえぬ哀撫(あいぶ)。相撫(あいぶ)にならぬ隘部(あいぶ)を細部で開始します。具体的な光景は覚えておりませぬ。只/身体が。只/身体は。覚えているみたいですね。耳朶を数回/啜られただけで到達してしまったのを後日送信されてきた動画で見ました。嗚呼。見せられましたと言ったほう正確でしょうか。当時の私は濡れた束子(たわし)。そんなにも昂らされていたのですね。そんなにも高揚していたのですね。満月と新月を知らない蝶々みたい。

『ぎり』『ぎり』『ぎり』絞らるる縄目が運ぶ淡めの色彩。『きり』『きり』『きり』恋とは異なる色の松明。はち切れそうな欲情の浴場に埋められれば身動きがとれない。『がり』『がり』『がり』そんな卑猥な音とともに噛まれた乳頭一臂(にゅうとういっぴ)が八面六臂(はちめんろっぴ)で五臓六腑(ごぞうろっぷ)を四面楚歌(しめんそか)とし三度笠(さんどがさ)の二番煎(にばんせんじ)に一意専心。

『嗚呼』『嗚呼』『嗚呼』氣分は点滅を忘れた誘導灯みたいです。

『駄目』『駄目』『駄目』容易に弓になる身体は彼の禅名人の具風みたい。余りにも達する自分。驚愕の京楽は優しいだけの男性では与えられないのね。そんな氣がする。そんな氣がするわ。

 『葉/葉/葉』切ない声と吐息が背骨を震動させるのが理解る。程なく過去に経験のない絶頂が訪れる序曲が弾かれる。きっと其れを弾いているのは本日早朝の貴方でしょう。きっと其れを弾いているのは赤銅肌の貴方でしょう。撮らないで。載せないで。前書きにされてしまうと照れてしまいます。消してくださいね。なるべく早く。今度はもう少し魅惑的(セクシー)な姿勢で御寵愛くださいね。

『…!』『…!』『…!』絶頂(オーガズム)表現(エクスプレッション)。羞恥(エンバラスト)表情(エクスプレッション)。その繰り返し往復作業を見分する貴方には苦目のエスプレッソを。貴女には密の蜜が塗りつけられた陰目的のテーブル・セットを。

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