《瞑想小説 狩人》

瞑想

文字の大きさ
上 下
456 / 512
美姫の場合

美姫の場合⑰

しおりを挟む

:::::::::::::::::::

 口を広げられたまま口腔内に蛇の群れが這入ってくるのを感じます。一人ゝ独特な舌先の動きをなさるのです。脳内を散歩する小人も縄かけをされたようですね。『いいんじゃないの』『開放された気分でしょ』。『何から』『貴女の根幹から』『何から』『人並みの常識からよ』『何から』『新聞紙面の記載文句からよ』『何から』『金利情報の真実からよ』『何から』『柵(しがらみ)からよ。何時もその中に居たじゃない。下らないわ。下らないわ。情けないわよ。』

 そんなこと…ない。私は必死で脳内の小人に抵抗するよう試みました。でもね。でもね。這い回る毒牙蛇の勢いは増すばかり。嗚呼。遠山さん。遠山さん。比喩的で御免なさい。舌先なんて直接的な表現は慣れなくて。でも。でも。でも。慣れなきゃいけないのかもしれませんね。もう一度。御免なさい。いけない美姫を鞭で打ち据えてくださいまし。同執筆者もそれを望んでいるとのこと。賢明な貴方なら深部の意味を攫ってくださいますでしょう。

 鋏で切断された高級な和服が残骸と化していきます。肩が露になれば其処を目指す指先が在る。「其処に山があるから登る」と語った登山家について少々。自己肯定感が随分低い人だったのだろうと想像します。他人の為に駆け上がる山脈を知らないのだから。他人の命と自分の命を天秤にかけてバランスを取りつつ駆け上がる時の心拍数を知らないのだから。前述したブルース・ハープの奏者。同一人物。結局のところそれを楽しめるかどうかが肝心だと仰っていましたよ。牧歌的な夏休みなんて彼に言わせれば紛い物に過ぎませんね。多分。多分。多分ですが。

『飲みな』『早く』『そして速く』『残さずな』。ごくり。私は注ぎ込まれた夜露(よつゆ)を飲み込みます。嗚呼/嗚呼/嗚呼。きちんと全部飲み込んだ証拠を差し出せと顎を上方に持ち上げられます。顎関節(がくかんせつ)と胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとっきん)の悲鳴は微塵も意識して頂けないのですね。卵型に解錠された私の唇内にペンライトを照らさないでください。飲みました。飲みました。全部。皆様の欲望液は舌根を通過しもう見分できる場所にはいない。胃内(いない)以外には居ないのです。許して。御願い。

雇われの速記者
咥え煙草の乱獲者
今宵の演舞は落下傘

落ちゆく先は地獄道
先行き不安,其れは未知
天童夜半に潮は満ち
照らす天窓/貴方は何処

最初で最後の学び舎/羽子板
真偽の涙と言葉/『ただいま』
帰る場所は陰場/生板
令和の獣/集う月夜に

高層回廊(こうそうかいろう)
かえるみちなし
闘争本能(とうそうほんのう)
発露の験(しるし)
逃走経路(とうそうけいろ)
かえるみちなし
望楼勤務(ぼうろうきんむ)の
目が光る故(ゆへ)

灼熱の招待/情報の正体
マイナス尺度に慈悲喜捨を
無意識の僧階/君はどうだい
後悔への航海/老獪と無知は
似て非なるぞ氣をつけたまへ

熱射回廊を渡り切れぬ右足/あわれ
陳列棚を笑いきれぬ左足/同情の同上
浚われた情報は口径50の雌金具の中
同口径の雄金具が張り付いており
空気の入る隙間もなし
機密の入る隙間もなし

横臥せよ人生

我等同じく渡り鳥

反芻せよ半生

後悔はないだろうか

死の枕は今/傍らに佇んでいる

翁(おきな)の皺(しわ)に
悲しみの歌を

『あの頃は楽しかった』なんて

悲しいこと言うんじゃねえよ

『あとは任せたぞ。この場所も。』

悲しいこと言うんじゃねえよ

『馬鹿め。説教してやる。良く聞けよ。耳掃除をする双児を呼んでくる。シベリア生まれの殺し屋を連れてくる。山の師匠を連れてくる。ラージャ・ヨーガの師匠を連れてくる。栄養学の師匠を連れてくる。世界で一番美しい女も連れてくる。今だよ。今だよ。今が人生で一番若い日じゃないのか。そうだろ。物凄く下手くそな説教かもしれんが。死んだ魚のような目をするんじゃねえ。情けないぞ。生きてるんだろ。先ずは血圧の薬をやめろ。支配されるな。支配する側に回れ。簡単な事だ。毎日勉強するんだ。毎日変化するんだ。傍楽(はたらく)ことを楽しもうぜ。まだ動くんだろ。指先も。足先も。ほら。口だって達者にな。それで充分じゃねえか。笑えよ。取り敢えず俺の手を握ってみろ。もっと強く。もっと。もっと強くだ。親指と人差し指をくっつけておけよ。氣の逃げどころだからな。怖いか。30以上も年下の俺の存在が怖いか。舌先は上に向けておけ。もっと上だ。もっと中だ。そんな事も知らんのか。無知のまま死んでいくのか。肛門と性器の間が緩んでる。駄目だ。それじゃ駄目だ。瞑想も教えてやる。零から∞まで全部。多分勘違いしているだろうがインファイトの殴り合いに近いもんでもあるんだぜ。』

じんせいは
いかにいきるかそれでなく

いかにしぬるか
さがすたびなり

 そんな一幕があったとかなかったとか。奇特な人も居るものね。私は奴隷身分。攫われた情報は私を形成する全部であって一部でもある。『…あ…あ…あ!』初めての痛みを感じたのは甘噛みの右耳朶(みぎみみたぶ)。同様かそれ以上に激しく噛まれた左耳朶(ひだりみみたぶ)。仲良くしてね。同じ身体の形成品じゃあない。どっちが偉いとかそんなことない筈なの。

 『動くな』『動くなよ』『もう一度だ』『飲め』そんなことを申されましても。どうにも…身体が…勝手に…動いて…しまう…のを…止められ…ませ、ん。左も右も理解らなくなってきます。こんな感覚が在るのを初めて知る夜。脳内の小人はすっかり酔ってしまっているようです。恍惚の表情で。

:::::::::::::::::::
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話

mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。 クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。 友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。

家の猫がポーションとってきた。

熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。 ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。 瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。 始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。

自衛官、異世界に墜落する

フレカレディカ
ファンタジー
ある日、航空自衛隊特殊任務部隊所属の元陸上自衛隊特殊作戦部隊所属の『暁神楽(あかつきかぐら)』が、乗っていた輸送機にどこからか飛んできたミサイルが当たり墜落してしまった。だが、墜落した先は異世界だった!暁はそこから新しくできた仲間と共に生活していくこととなった・・・ 現代軍隊×異世界ファンタジー!!! ※この作品は、長年デスクワークの私が現役の頃の記憶をひねり、思い出して趣味で制作しております。至らない点などがございましたら、教えて頂ければ嬉しいです。

お尻を叩かれたあと、○○もお仕置きされちゃう女の子のお話

まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*) 鏡の前でお尻を叩かれながらイかされたあと、ベッドに運ばれた女の子が、イかせて欲しいと泣いちゃうぐらい優しく触られて。それならと、自分でローターに○○を押し付けさせられるお話しです。

転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。 神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。 職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。 神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。 街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。 薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。

料理人がいく!

八神
ファンタジー
ある世界に天才料理人がいた。 ↓ 神にその腕を認められる。 ↓ なんやかんや異世界に飛ばされた。 ↓ ソコはレベルやステータスがあり、HPやMPが見える世界。 ↓ ソコの食材を使った料理を極めんとする事10年。 ↓ 主人公の住んでる山が戦場になる。 ↓ 物語が始まった。

処理中です...