《瞑想小説 狩人》

瞑想

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美姫の場合

美姫の場合⑮

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 『不束者ですが』そう言った事を思い出します。契約指輪(エンゲージリング)はもう不要だろうと御主人様が言うのです。なので呼び出しの際だけ外すことにしています。夫の前では何時も着けています。妙な勘ぐりを入れられたくないのです。夫のことは勿論,好きですし伴侶として過不足がないどころか/私が足を引っ張っていないか。人生の御荷物になっていないか。そんな心配をするのが常で御座います。

 新婚旅行は人並みから少し外れた「中の上」といったところでしょうか。初めての海外旅行。特に印象に残っているのはマルタ島です。中世の歴史に触れられたことが嬉しかった。近場には軍艦島と化した小国が在りました。男性は戦(いくさ)を忘れて生きることはできないようですね。何時の時代も。そんな事をふと思い出しました。そして。そして…闘争本能の発露は結晶化し具現化しこの部屋を包んでいます。今日は帰れないようですね。銀髪の来訪者は緊縛縄を解索(かいさく)してはくれませんでした。家を空けるのは初めて。心配。心配。とても心配です。

 寒さが染みてきます。此の身体に。塗られた薬品が染みてきます。此の身体に。『…嗚呼…嗚呼…嗚呼…』私の吐息。鳥のやうなさえずりを受け取る異種の嘴(くちばし)は何処に在るのでしょう。『…嗚呼…嗚呼…嗚呼…』漏れるのは折衝に失敗した列島の刻み目。世界には双子魂(そうじこん)が必ず居るとのこと。量子力学で習った気がするのです。意識は光よりも早く伝達されるとのこと。納得できるような。できないような。

 時間が過ぎるのが遅く感じます。光が入らない部屋に閉じ籠もっているせいでしょう。閉じ込められているといった方が正確ですね。申し訳ありません。過去の交際相手と,時間感覚の不一致でお別れしたのを思い出します。彼は待つのが嫌な人だった。二元論では「人間の生きる意味は待機。死という豪華客船のチケットを得る為に功徳を積むものである。」と言われます。別離の理由としては充分だと私は考えますが皆様の意見を伺えずに此処まで生きてきました。

 教えてください。誰か。教えてください。誰か。人は何の為に生きるのでしょうか。一切皆苦とは正に現在の私の状況でありましょう。諸行無常なりとは私達夫婦のことでありましょう。涅槃寂静なんて信じられない。信じたくない。秘部の裂創は今日中に治癒するのでしょうが,胸中の車輪に刺さったままの心理的刻み目は消えそうにありません。

 肉体折衝の不均衡。男性と女性は永遠に理解り会えない。今は確信的にそう思えます。私事の独白となりますがお付き合い願えますか。つまらない話ですがお付き合い願えますか。叙情的に処女を失ったのは齢(よわい)20を越えてから。初めて付き合ったのは随分年上の国家公務員の男性。とても優しい方でした。優しく挿れてくださいました。次の日はとても,とても✕3,痛かったけれど気遣いのある行為だったと思います。同男性との別離の理由は聞かないでください。余りにも恥ずかしい記載となります故。何卒,御容赦を。今なら…。今なら…。そうですね。今なら…性癖は様々であり/それぞれが奇特に尖った突端を持つものと理解できるのですが。

 音楽ですか?人並みのものを聞きます。日本のものも好きですし海外のものも好きです。楽器は篠笛(しのぶえ)とピアノと和琴を嗜(たしな)みます。あくまでも嗜み程度ですが。スロートヴィブラートを大学で習いました。歌声に自在にかけることも出来ます。意外ですか。ヴィブラートは幾つも種類があるの。腹圧でかけるもの/喉でかけるもの/顎(あご)でかけるもの。音感を少し下げて掬(すく)い上げるような意識で骨を震動させるのです。恥ずかしいから歌いたくないのだけれど。皆様が御求めならば「Fly Me To The Moon」なんて如何でしょう。目を細めて歌います。頭(こうべ)を垂れた仕草で歌います。

 知り合いにブルース・ハープの奏者が居ます。今は技術を練磨しつつも封印しているそうですけど。世界的に有名な人なんですよ。彼が傍らに居ればきっと素敵な演奏になるかと存じます。「仕事と芸術の領域を分けることが大切なんだ。」そう彼は言っていました。「受動的にならず能動的に芸術を突き詰めていくべきだ。資本主義社会では基本音階も違うから…無理だな。」そう言っていました。

 彼のヴィブラートは本当に素敵です。本当に。思い出すと今でも鳥肌が立つの。呼吸と呼吸の隙間の息継ぎ。その息継ぎの仕草が私の魂を揺さぶったの。今でも。今でも…その記憶は新鮮なまま。右脳も左脳も間脳も振動を覚えているんでしょうね。ありありと想起することができます。不思議ですね。不思議ですね。

 多分/私の初恋はその人だと思います。一瞬は永遠になることがあると知りました。永遠は一瞬の連続。その呼吸の隙間に入ってみたいと思いました。私だけのものにしたいとも思いました。叶わぬ恋。それでも構わないし,構わなかった,今もそう思います。恋する気持ちを頂いただけで満足なんです。芸術の為だけに生きる人。私にはそぐわない人。私は女ですのでもっと現実的なんでしょう。仔細申し上げることは叶いませんが/彼は小説を記載する事を副事としているようです。「訓練用」と「審判用」の2系統に分割しているのだとか何とか。

 時間が過ぎるのが遅く感じます。今夜の訪れは新たな円幕の袖広げ。煙幕と炎膜が混在する狂宴。真実(ファクト)の指揮棒(タクト)を振るのは誰なのでしょうか。誰か教えてください。ねえ。ねえ。ねえ。

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