《瞑想小説 狩人》

瞑想

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交差

鼓膜

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 禍根と遺恨と打痕に喘ぐ娘。刑罰の宴は継続して実施される。可愛らしい突端を持つ尖耳(とがみみ)を徘徊する蟲達の音頭は遥か東洋島国の祭事に似ている。『いや…や…や…っ』彼女の言葉に返答は一つ。『だろうな』という瞬間の即答だ。中耳から内耳を徘徊する蟲の群れは,もっと柔らかい彼女の果肉を求め奥へ/奥へ/もっと奥へと小さな洞窟内を嬉々として旅する。

 彼等は脳味噌の味を知っている。彼等は松果体の味を知っている。大脳皮質の味を知っている。白灰質の味を知っている。扁桃体の美味を知らずして死ねるかよ。下垂体にしても扁桃体にしてもそう。各部位にそれぞれ追加味を加えて喰らいたいといふ思いは渇望であり本能であり野望であり粗暴な彼等の夜半の実態。

 彼等はその触肢での手触りと食指由来の経験談を自慢気に語る。松果体が特に美味だったとのこと『旨し。』扁桃体が次点であったとのこと『旨し。』なお,被検体がどのやうな末路を辿ったのかは彼等の知るところではない。興味の及ぶところでもない。

 嗚呼/嗚呼/嗚呼。そうだったな。随分と長かった肉食時代は[最悪の弥生時代]の遥か昔の事。執筆者たる私自分が一番,一番,一番,大嫌いな,学ぶべきもののない最悪の時代について触れておこう。前段として同時代に取り敢えず三種類の唾を吐いておくこととする。一つは未来の概念に対するもの,二つは貯蓄という概念に対するもの,三つは不可逆な無知へ嘲笑を添えて。
 
 祈祷師(シャーマン)の出来損ないどもめ。『貴様らがブラフマンの神言に反逆し,蓄える事など覚えたからだ。恥を知れ。中途半端な知恵で占星術を行えるもんかよ。中途半端な知識で蜂の巣や花の形状が理解できるかよ。最悪だな。愚か者めが。恥を知れ。芥川の死因は貴様等に帰結する。三島の死因にしてもそうだ。恥を知れ。』

 『氣・水・血と人体学問の全てはダヴィンチ村で件(くだん)の洞窟に入った執筆者の師匠が完結させてくれる。宗教学問と科学技術は融合され/密教的奇書が完成するのは間もなくだ。前世,海賊であった「赤」と「青」。頼むぞ。彼に尽くし書物の完成を急げ。戦争の真実などという殆どの人々が気づきつつある半魚人のような噂話など聞かなくていい。金の真実などという概ね人々が矛盾を感じている半獣人の理論に参加する事なかれ。只,集中して其処に居れ』従者の魂は黄金色。何処ゝまでも美しい覚悟色を重ねた帆布。「肉体学」といふ奇書に触れたまえ。「薬草学」も素晴らしい。

 大きな見開きには生命乃形態(フラワーオブライフ)が綺麗な図形を形造っている。晴耕雨読。晴好雨奇。一頁ごとに音読/視読/黙読/真読の順で何度でも読むんだ。心は高ぶり知識が細胞全体を満たしていくのが理解る。人間なんてこんなもんだぜ。然程必要のないものを収集する令和人間の悪癖を弥生人に突き返してやりたいと真剣に願う。真剣に願うぜ。還りたい。君はどうなんだ。

 『ああ…ああ…あっ』鼓膜に到達する蟲の先行者は穿孔者となり潜航する勇猛果敢な一番手。其奴は壁体を確認すると幾つかの触手を伸ばし,彼女の鼓膜に隙間がないかどうか確認する。その弾力を確かめる。その内圧を確かめる。その感触を確かめる。『一番尖った触手を使えば簡単に穴が開きそうだ。』そのように秋(あき)にも告げず安芸(あき)へも行かず,実施される耳内の壁体に手を絡める淫靡な診察行為。

『嗚…呼…』撫で回される内耳
『嗚…呼…』撫で回される蝸牛の中
『嗚…呼…』平衡感覚を失った図形は
『嗚…呼…』上下左右の方角をなくす
『嗚…呼…』上底は下底に接続され
『嗚…呼…』這い回る触手の悍ましさに
『嗚…呼…』娘は嘔気に襲われてしまう
『嗚…呼…』吐瀉物を追う気はないと言え
『嗚…呼…』緊縛椅子に電流を流す糸を
『嗚…呼…』未だ使用しないでやるから

 一等星の輝きを持てぬ流れ星が涅槃図の空を駆ける。何時の間にか激しい雨は止んでいる。涅槃を流れる象徴的な川は骸骨洞窟の入口を基点に右手側に在る。真っ赤な川。流れる川は隅々まで赤。「赫」といふ文字が良く似合う。潜水の名手が増圧器を持つフーカー潜水を実施したとしても対岸までは辿り着けまい。同じく急流救助の名手が神権と神犬に祈りを捧げたのちリバークロスしたとしても到達できまい。

『宇…宇…』常に北を向く大きな星は
『宇…宇…』軸を求めて彷徨い続ける
『宇…宇…』行商経路(シルクロード)
      と離れた姫君は
『宇…宇…』荒縄神経(ヘンプコード)
      を掠める日々
『宇…宇…』灼熱肉片(ボイルドチキン)
      を求める獣に
『宇…宇…』安易な謝金で買われ攫われる

 洞窟の中は相変わらず漆黒の闇の中。彼女の耳の中が更に暗いのは言うまでもない。洞は非常に入り組んでおり何を探すにしても難儀する状況。其のやうな状況では触手を這わせるのが一番である。百足以上の本数の足が伸びるのを目視すれば千本桜も万歩計も億兆(おくちょう)鬼気も単位として役に立たぬ。

『葉…葉…』おぞましい感覚は耳の中
『葉…葉…』奥乃院で暴れ続ける蟲の群れ
『葉…葉…』最奥の一匹は「針」を伸ばす
『葉…葉…』先端に向かい徐々に細くなり
『葉…葉…』末端は斜め方向に刻まれている
『葉…葉…』極細の針突端は梁を貫通し
『葉!葉!』遂に鼓膜内への侵入を果たす

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