《瞑想小説 狩人》

瞑想

文字の大きさ
上 下
419 / 512
交差

涅槃図…剃毛干魃地

しおりを挟む

:::::::::::::::::

 涅槃図に投げ出された彼女は泣いている。月賦という概念のない補給廠が在る。月齢を知らぬ衛星が周回し本集会の開幕に目を凝らす。彼女の右目から3粒の涙。左目も同様の所作。『ぽた/ぽた/ぽた』シンメトリーに悲哀の音が響く。

 洞窟は魔窟であり採光のない環境は責める彼等にとっては最高の環境。催行される宴の動向について再考する衛星が透視魔法を最古の文学で綴る。此処は涅槃図/此処は涅槃図の中。

『嗚呼』咽び泣きの声が漏れ響く
『嗚呼』感度を確かめるがの如く
『嗚呼』骸骨①は右の突起を噛んだ

『嗚呼』其の行為に呼ばれるかのやうに
『嗚呼』骸骨②は左の突起を噛んだ
『嗚呼』上下区別のない上顎骨は
『嗚呼』花弁を咥え刺激する

『嗚呼』肉の接収行為及び折衝工事
『嗚呼』久しぶりだぜ此の感覚は
『嗚呼』湯浴みの隙すら与えず彼等は
『嗚呼』投網で彼女を捕縛し動きを封じた

 骸骨③は腐り落ちていないベル・ボトムを履いている。右後ろポケットには妙なガジェットがありポシェットにはファルセットのカセットテープが埋め込まれており息継ぎが出来ないかのような断末魔に近い男の下顎呼吸が延々と再生されている。
 『しゅー。しゅー。しゅー。』今にも途切れそうな呼吸音は時間とともに間隔が長くなり細くなる。

『嫌…そんな』右胸に触れられると彼女は弱い
『駄目…嗚呼』左胸に添えられると満月は欠ける
『其処…は…』突起のラストピースにしてもそう

『葉………っ』以心伝心の彼等は連絡を密にし
『派………っ』腐った舌を這わせる事を決め
『歯………っ』連絡網の末端の蟲達を鼓舞する

『嗚呼………』夜会への参集ベルが鳴り響き
『嗚呼………』彼女は濡れ/骸骨は動き出す

 骸骨④は彼女の涙粒に見惚れ/此の美味そうな人肉回廊をどのやうに歩行するか細胞の残渣で感じ取る。彼は意識の核を眠りにつかせる事で此の洞窟への定住券を得ることとなったらしい。血飛沫で汚れきった契約書を彼女の眼前に自慢気に差し出した。彼女は其れを見る。『砂漠の昼は暑かった。其処で生まれた事がそもそも運がなかった事を証明している。昼の砂漠は何もかもが熱され至適温度をとうに超えていた。温度に特化した蠍(さそり)に生まれ変わりたいと一日に何度も祈った。水分を探し求める事だけを考えながら日々が過ぎる。閾値(しきいち)が丁度いい時間に眠れるだけ眠る事が出来なければ地獄が待っているのだ。昼夜の寒暖差。其れに驚くダンサーとの無茶な性行為は刺激的なものであったが…彼女は一晩も保(も)たなかったな。砂漠の夜は寒すぎた。長すぎた。低体温症で呂律が回らなくなり深部体温は低下の一途を辿る。身体を擦りあう寝袋の中。体温をあげやうとするものの限度がある。早朝の冷たい身体を置いていけとシルクロードが冷たく言い放つ。彼女は一足先に旅立ったよ。低温に耐えうる殻のある動物が羨ましいと。温度の変化に耐える事が人生の大部分であったと言いながら。』

 彼は激しく右の突起に噛み付いた。怒りに震えた骸骨は言う。『祈りで救われるのならば救ってみせろ。金で救われるのなら救ってみせろ。天変地異。何に由来するのか理解らない大洪水と大干魃から。ソマチッドの様に強力な殻を持つ生命体以外に生き延びる事の出来ない此の世の地獄から。深い瞑想のプールから覗いて真実を記載してみろ。集合的無意識に刻まれているのだろう。お前達の理論では。原因を究明し救命してみろ。旧名世代の命を全部。出来まい。出来まい。運の方程式が存在する証拠を持ってこい。』

 『嗚呼/嗚呼/嗚呼』右胸の突起に刻まれる怨恨の刻み目。指揮者(コンダクター)の居ない宴と欲望の胃内(いない)。左胸に関しても同様の処置が施され血染みにならない不可思議液体が流れ洞窟床面を濡らす。一方で下腿部をなぞる指先の数はどんどん/増えていく一方だ。どんどん/増えていく一方だ。指先の数が一体につき10であるならば数を数えるのも楽なのに。それぞれの欠損箇所には理由が在り由来が在り孤独が隠されていた。

『嗚呼/嗚呼/嗚呼』陰核を目指し
『嗚呼/嗚呼/嗚呼』伸びる骨指の先ゝ

『嗚呼/嗚呼/嗚呼』器用な皮剥き作業
『嗚呼/嗚呼/嗚呼』毛頭が邪魔らしく

『嗚呼/嗚呼/嗚呼』霊魂の根毛処理の為
『嗚呼/嗚呼/嗚呼』専用剃毛機が準備され

『…!/…!/…!』複数回往復し干魃を模す
 此処は涅槃図/此処は涅槃図の中

::::::::::::::::::::
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話

mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。 クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。 友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。

家の猫がポーションとってきた。

熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。 ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。 瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。 始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。

自衛官、異世界に墜落する

フレカレディカ
ファンタジー
ある日、航空自衛隊特殊任務部隊所属の元陸上自衛隊特殊作戦部隊所属の『暁神楽(あかつきかぐら)』が、乗っていた輸送機にどこからか飛んできたミサイルが当たり墜落してしまった。だが、墜落した先は異世界だった!暁はそこから新しくできた仲間と共に生活していくこととなった・・・ 現代軍隊×異世界ファンタジー!!! ※この作品は、長年デスクワークの私が現役の頃の記憶をひねり、思い出して趣味で制作しております。至らない点などがございましたら、教えて頂ければ嬉しいです。

お尻を叩かれたあと、○○もお仕置きされちゃう女の子のお話

まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*) 鏡の前でお尻を叩かれながらイかされたあと、ベッドに運ばれた女の子が、イかせて欲しいと泣いちゃうぐらい優しく触られて。それならと、自分でローターに○○を押し付けさせられるお話しです。

転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。 神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。 職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。 神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。 街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。 薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。

料理人がいく!

八神
ファンタジー
ある世界に天才料理人がいた。 ↓ 神にその腕を認められる。 ↓ なんやかんや異世界に飛ばされた。 ↓ ソコはレベルやステータスがあり、HPやMPが見える世界。 ↓ ソコの食材を使った料理を極めんとする事10年。 ↓ 主人公の住んでる山が戦場になる。 ↓ 物語が始まった。

処理中です...