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交差
涅槃図…断罪の口吻
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赤い小舟の守人は言う
『永久の物語を紡ぐのは亡者の悪い癖だな。涅槃にそんな概念はない。時間と空間を一緒に考えるまでが人間の知恵の限界と位置づけてやろう。さて娘。奴隷市場に攫われた哀れな娘。君を此の大いなる川の対岸に渡してやる事は吝かではない』
何処にも属することのない民族衣装のやうな姿。赤装束は忍びの其れに近い。筋骨隆々というよりは無駄を極限まで削ぎ落としたような佇まい。視線は鋭く空間を切り裂くようであり「身近」といふ言葉の対角線に絶倫魂の煙が覆い/迷惑千万を切り裂くオール状の物体を持つ彼。
肌は褐色よりも黒に近い。唇がほんの少し上下する。初期微動に含まれた笑みの下で彼は『此の世界を舐めるな』と言ったような気がする。続けて『涅槃とは』更には『安楽の為にのみ存在しているのではない/そして何故/同概念は古今東西の物語に符合をみるのだろうか/君の答は如何に』
彼の肌色とミスマッチな何処ゝまでも白く純朴な乙女の姿。深みのある奴隷服は黄土色のワンピース。彼の問いへの正答は『成長』であるし『本質』であるのだが彼女がそれを理解するのは随分と先の話になるだろう。
『……』質問の意味が理解らない
彼女は途方に暮れている
視線が痛い程に突き刺さる。臓腑に絡みつく感覚は味覚に近い。消える事のない罪の味がする。それは辛く/それは苦く/それは若々しく/それは猛々しく/血を煮詰めたやうな味。皮膚の表層を流れ集合し、集合しては分散し奇経八脈の隅々まで血の味が滲んでくる。
彼の顔貌は全てを見透かしたやうな表情。笑みが浮かぶ。春夏秋冬を象徴する花ゝの中で最も波動の低い「嘲笑」の類を顔一杯に浮かべ獲物を獲物として見分している。白塗色の歯と赤塗色の歯が順番に並んでいる。白歯は12本。赤歯は同じく12本。
眼輪筋が筋ばっているのを確認する。毛様体筋が水晶体に像を結ぶがその光は何処から来たものなのだろう。金属のやうな匂いがする。重金属を煮詰めたやうな匂いがする。血の匂いが混じっているのも理解る。赤舟の守人は大きなポーチを腰にぶら下げている。
『……』声が出ない
彼女は途方に暮れている
水の音がする。流れの音がする。河川が小石を運ぶ音がする。強酸性の川が不純物を破壊し/溶かし/蒸発させ/嫁ぎ先不明の巫女を別世界に攫う準備万端。無知を断罪する鞭の役目を果たすのが其の両手に握られたオールといふ訳だな。
鴉が鳴いている。鴉が鳴いている。同時に泣いてもいる。その涙は六粒の甘露となり川へと流れ込み溶融する。怠惰欲を蹴散らす為の涙。下卑た承認欲求を憐れむ涙。随分と賢いその生物は『南無阿弥陀仏/南無地蔵如来』という独り言を繰り返しつつ飛翔する。天高く。
『沈黙は答に非ず』
『断罪して頂く』
舟は錨を揚げる事なく同発音を怒りに変える。守人は彼女のワンピースの裾を「するり」持ち上げ恥のポーズに纏め上げた。視線で彼女の動きを封じたのち唇と唇を強引に重ねる。半ば強引にではなく完全に強引に。怠惰と安穏を攫う口吻。浪漫の欠片もないその口吻の中で白歯と赤歯がぶつかり合う音が響く。更に描写するならば守人の舌は三周半の蜷局を巻き彼女の舌根まで絡みつく『…嗚呼』
一方的な搾取の様相/無知に振る鞭は九尾。彼女は守人の唾液の味を識る。覚悟の味と錯誤する温度の口吻。舌先が「ぴりぴり」と酸の嵐に巻かれ刺激物を吸収する。痛む魂の先で閉じられた瞳。其の小さな小さな意識といふ箱の中で必死に問いの答を見つけやうとするも見えず。突然で只管の行為に捻られた腰が細くなり/舌先と同様の回数分の蜷局を巻くのは辛かろう『…嗚呼…嗚呼…』
其れは会陰に潜む蛇
炎の蛇の三回転半と
御柱の左上右下
口吻の温度で焦げる魂
小舟は何時しか消えていた
此の川を渡る事は出来ない
口吻は渡し賃に不十分
只/其の温度の高さと
波動の高さに圧倒されたのみ
彼女は途方に暮れている
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