《瞑想小説 狩人》

交差

奴隷市場 薬膳黒球

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こん・こん・こん・こん
粘土質の扉がノックされるのは
此れが何度目になるのだろうか
其処は彼(か)の妖精村の居住区の一つで
俺は二階に担ぎ込まれた傷・病・者

………嗚呼……どうぞ……

俺は体裁良く答えるが此処は俺のものでは無い
俺は奴隷市場の支配者であり・王
此の小娘の獲得に狙いを定めた・鷲
捕縛するための幾つかの手段を具備した・鷹
此処の居住権は俺のものでは無い
妖精女王の第三子よ…お前の居住区
勝手気ままに這入ってくればよいものを
其の優しさ？とやらは後に徒花(あだはな)となるぞ

きい…という奇妙な音階を発する扉
其処には一階で調理を終えたばかりの少女が
可憐な姿で立っている………美しい
俺は薄目を大きくしっかり見開きの目に変え
彼女を二つの目で完全に鹵獲(ろかく)する
童というには余りにも妖艶な佇まい
大人の女性というには余りにも幼い佇まい

其の美は此の世のものでは無い
「夢・現」此の世を２ツに大別するならば
夢の世界が９割９分９厘９毛…
「西・東」此の世を真っ二つに両断した場合
東の世界が９割９分９厘９毛…
十二単が良く似合いそうな和の感覚を持ち
禅寺に舞い降りた瞬間には「お似合いで」と
檀家連中が全員・息を飲み屹立する美しさ
そして…彼女を彼女たらしめる
妖精の象徴たる弐枚羽根が,ひらひらひらり
背中の肩甲骨あたりに綺麗に折りたたまれている

…………此れを…………

可憐な指先で彼女が差し出したものは
小さな小さな皿のようなもの
其の上に薬膳を模した黒い球体が参粒
…ころころり・ころころり
…するするり・するするするり
此れを俺に食べろと言っているようだな

禅薬球体の事を俺は知っている
其れは汎ゆる疒(やまいだれ)を癒やし
禅病の特効薬となり、傷を復旧させる
魔法の栄養を内在した黒球であり、且つ
精神を高揚させ脳内の降雨量を高める
先達達の失敗と成功と其の繰り返しの結晶

内包されているのは極ありふれた物々
①蓬(よもぎ)②蓮(はす)③水(みず)
④そして全てを内包し把握するアカシヤ
１番から３番までは俺が口にするには
一向に構わないものであるのだが問題は
４番に付された文字の内包する意味・意味・意味
其れを口にしてしまえば…
痛みを痛みとして・認知出来なくなる
苦しみを苦しみとして・探知出来なくなる
自らを自らとして・存置出来なくなる

此の物体の意味を・意義を・真実を
完全に掌握している事を…悟られぬ様
十分・充分に氣を配る必要が在る

配合手順及び作成過程は奇書であり名署
究極の心と身体から派生した書物
薬草学のとある壱頁に鬼才が記載したことを
俺は知っている…俺は知っている
俺は知っている…所詮娘は其の派生物しか知るまい

彼女は俺の植物ベッドの脇に被座馬づく
「かしづくむすめ・かしましむすめと・王」
奇妙奇天烈な画家が同瞬間を切り取った暁
其の様な題名を付したとか何とか思うが如何に
「かしましむすめ・とうようの王・献上」
何かを献上する様に非座馬づく娘の所作は
不無…奴隷市場に連れ帰る贄としては相応しい

……頂くとしよう……

俺は一世一代の嘘を美辞麗句とともに並べ
其の薬膳球体をひとつまみ…口に運ぶ振りをした

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