《瞑想小説 狩人》

瞑想

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交差

奴隷市場 一宿一飯

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皆順調に狂っていっているのさ
大きな流れに飲まれていっているのさ
きらきらと輝くもの…「陽」なるものは美
じめじめと揺蕩うもの…「陰」なるものは不埒
2者択一の儀式だと思っているのさ
物事の本質を知らん…此の娘もそうだ

例へるなら羅針盤を持たぬ舟
其れでは求める自分だけの黄金を獲得出来ぬ
例へるなら誰も目的地を知らない登山
其れでは標高5000を越えたあたりで
別世界への誘いを断固として断る手段を持てぬ
例へるなら瞑想を知らぬハタ・ヨーガ
楽観の色を求むるには準備が足りな過ぎる

小娘は…一階の台所で辺地から搾取された
蓬(よもぎ)と蓮(はす)を丁寧に混ぜ込み
其処に自らの両羽根から鱗粉を少々…
飲食物の類いを作成しているようだな
鼻歌交じりの御機嫌娘は丁寧に其れを混ぜた後
粘土質の物体の中に上向きの三角と
更に其れに対をなす下向きの三角印を切る

薬缶(やかん)に沸騰した湯が在るのだな
処女の少女は少量の湯を掛けては混ぜ
掛けては混ぜを複数回・繰り返した後
人肌と大差の無い温度に成るのを待っている
…俺は2階の奇特なベッドの上
建築具材が反射する音で全てを探知する

…目的を忘れるな
 次は捕縛、此の娘の捕縛
 「死」…願い叶わぬならば
 奥歯に仕込んだ毒は未だ健在
 此れを噛み込めば即座・死に至る
 立場ノ逆転には充分…氣をつけろ
 其の可能性は十分に在るのだから
 十分な力差(りきさ)を具備しているとは言え
 大挙された場合に退去する暇はあるまい
 其の場合は即刻・自らを断ずるのみ

小娘は…器用に其の2枚羽根の鱗粉を混ぜ
其の味・確実に苦そうな粘土体を完成させる
何時か何処かで食したものに似ている
「なんべい」と呼ばれる場所
「しゃーまん」なる秘密を纏う部族
其処を旅した時の思い出がよぎる
酷い味・酷いにほひ・酷い吐き気
脳内が少しクリアになった事以外に
何の収穫も無い体験だったが俺は満足だった

とはいえ…娘の創作する粘土質の食物は
適当伯爵が適当列車に乗り、適当な駅で
適当駅長に倜儻な言葉で授かったものでは無い
仲間が傷を負った折に其れを回復させる秘薬
精神的な谷底に頭から落下した折に
其処から多少強引に引き摺り出す媚薬

……………「薬草学」…………
其の本のある頁に似たようなレシピが
書かれていた事を思い出し、脳内で二ノ矢を打つ

俺に其れを食わせようというんだな
俺に其れを飲ませようというんだな
余計なお世話だ…短剣の傷を心配しているな
血が止まったばかりの此の身体が
まともに動く訳が無いと思っているな
小娘よ…恩を仇で返すといふ言葉が在るが
お前達の先代・先代・其の先のものが
我々に何をしたのか知ってはおるまい

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