《瞑想小説 狩人》

瞑想

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奴隷市場 昼想夜夢

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雪に混じる鱗粉の濃度が濃くなる
意識は遠くなるものの、痛みは蓮の池の中
傍らで死神が俺を心配している
何だ…お前らしくも…ない

耳の奥で何かが鳴る
誰かが俺を探しに来たのだろう
誰かが俺を迎えに来たのだろう
山奥の切り立った場所まで
闊歩出来る者など常世の住人では無い
其れだけがはっきりと理解出来る

奴隷市場の子飼いの者共…
従者程度では此処まで辿り着けまい
平衡感覚が無くなっていくのが解る
上と下、右と左の区別が無くなる
嫌、元々そんな区別など無かったのか
脳内では様々な思いで兵士が
ハロウィーンの到来を告げる
春は未だ遠く、桜には程遠い季節

::::::::::::::::::

夜に舞う優雅な蝶々…
我々とは違う生活リズムを持った
夜行性の蝶々が居りました

小さなカラダに似合わぬ
大きな6枚の羽を持っており
それぞれに特徴的な
丸い模様が付されています

仲間はおらず一人ぼっち
其れを寂しいと
思った事はありません

言い寄るオスは
たくさん…
それはたくさん
居りました・が
彼女は其れを
知らんぷり

昼は眠りの中にいる
ヒトに狙われないように
天敵に襲われないように
只、ひたすら
夜の到来を待ち
周囲から身を隠す

夜…
待望の夜…
希望の夜…

夜が来ると目覚め
人里に舞い降りる
小さな昆虫を
食べるためでも、
美しい泉の水を
飲むためでもなく
特別な栄養を補給するために

奇妙な習性を持つ
其の蝶は
人の夢の中に現れては
其れを餌にして食べるのです

産まれたての赤子の夢を…
思春期の乙女の夢を…
死に際の老人の夢を栄養にし
6枚羽をもっと
美しくしていく

そうやって
何年も
何年も過ごすうち

いつも、ふらふらと
気のむくまま
羽のむくまま
今夜の夢を探しているうち

とても精錬な夢を持つ
とても力強い夢を持つ
そんな男性に恋をする

《嗚呼
 心も
 身体も
 逞しい
 彼の心に触れていたい
 せめて
 せめて
 夢の世界だけでも
 私の、ものに
 なって、くだ、さい…》

その男性の夢に現れ
午前3時まで睦み合い
目覚めの光が来る前に
そそくさと姿を隠す

色々な人の
夢を渡り歩いたのだけれど
彼の夢が一番ステキだった
心を鍛え
カラダを鍛えることに一心不乱
知識を知恵の領域に
集中力を極みの領域へと
自分を高めることにしか
興味が持てない
そんな彼の夢が好き

彼は仕事の傍ら
朝の執筆に向かうのが常だった
《究極の心と身体》
その筆先に集中するため
眠りの質には随分と気を配る
意識的な眠り、と彼は言っていた

夜は
彼の夢の中へ
昼はひたすら
身を隠す日々

嗚呼
素敵
何も要らないわ
私は夢を栄養にできるもの
私は彼の夢を食べるもの

嗚呼
早く
夜に
ならないかしら

嗚呼
早く
彼の
元へ
向かいたい

嗚呼
その
魂の輝きを
もっと
もっと
私に頂戴…
貴方の魂に
触れることができれば
私はきっと
生きて
いける

そう思いながら
暑い夏は紫陽花に身を隠し
寒い冬は椿と仲良くなって
ひっそりと
ひっそりと
暮らしておりました

ある
夜のこと…
いつものように
彼の家に向かうと
中から大きな
声が聞こえます
聞いたことのないような
大きな、声が

「あなたは
 変なのよ
 夢の中で
 違うオンナの名前を…
 もう、ずっと
 もう、ずっとよ」

「知らんな
 そんなオンナなぞ…
 言葉を交わしたこともなければ
 会ったことも、ない」

「おかしいわ
 おかしいわよ
 眠っている間
 あなたは
 違うオンナの名前を呼んでは
 綺麗だ…とか
 待っていた…とか
 そんなことを喋っているのよ?」

「知らん
 何度も言わせるな
 君の言葉は《泥の剣》だよ」

「何よ、それ?」

「泥でこしらえ
 土で固めた
 何も切れない
 言葉の剣のことさ、
 無意味なものを作るな
 そんなことに、エネルギーを割くなよ」

「わかった、わ
 もう、知らない!」

ひとしきり
口論を終えた夫婦は
別々の寝室に入り
別々の夢を見ます

男の夢は相変わらず
ロマンチックで
きらきらしていて
希望に満ちている
今夜も、同じ

じゃあ…
奥様の、方は?

蝶は
初めて
奥様の夢を
覗いてみることに
おそる
おそると



…!

…蜘蛛
 毒蜘蛛の巣
 
…粘着性
 粘り気
 湿気

…歪な誓い
 宣誓と指輪
 宣教師とブーケ

…契約
 誓約
 誓いの言葉
 
…自慢
 傲慢
 安心
 安泰
 
…独り占め
 自分勝手
 束縛
 緊縛
 私利私欲

…嫉妬

…罠
 夢の罠

自分の夫を
寝取られまいと
幾重にも罠を張り
夢の中にも蜘蛛の巣を張っている

一生懸命、
毎日、
毎日、
サラダを作るのも
掃除をするのも
ダイエットをするのも
彼の行く先を聞くのも
行ってらっしゃいを言うのも
お帰りなさいを言うのも
神の前で誓ったのも
ヨーガのクラスに参加するのも

全て彼を
独占するため

愛故の行為ではない
只、手に入れたものを
失いたくない
その一心で
奥様は夢の中にも
罠を張っていた

蜘蛛…
この女性、は
蜘蛛…

「捕らえた、わ」

奥様の夢に
捕らわれた蝶は
夢の中で緊縛され
拷問を受けながら
実体の在処の自白を
強要させられる

屋根裏部屋に
足音が迫ってくる
ぎし
ぎし
ぎし
不吉な音がする
嫉妬の炎が燃えている

夢の中だけでなく
実体をも捕らえられた蝶は
罵られ、弄ばれ
苛烈を極めた
拷問の末にその生を終えます

美しい6枚羽は
その身から剥ぎ取られ
奇妙なスープと一緒に煮込まれる

羽を失った
小さな胴体は
フライパンに置かれ
高熱に炙られるうちに
みるみる小さくなっていき
ほんの数センチの残骸に…

「さあ、召し上がれ」

「随分と、嬉しそうだ
 何かあったのか?」

「別、に…」

「そうか」

:::::::::::::::::

網膜に変わった華が咲く
「Purple Haze」と文字が浮かび、
誰かが背中で楽器を奏でているのが
見える

観衆は絶叫と
興奮の渦の中
奇妙なお茶で
遊んでいる

:::::::::::::::::

次に見えたのは
オンナの絶叫

ジャニスと呼ばれたそのオンナは
魂を削り取るように歌う…
歌うというよりは
生きるに近い行為なのだろう

観衆は雨の中
感電し、感染する

:::::::::::::::::

4人のアイドルのうち

最も
イマジンであり
マザーであった
彼の最期が映し出される

「幸せとは、暖かい銃である」
そんなことを唄い
彼は果てていく

…ホワイト・アルバムがいいわ
 ジュリアがいるし
 ヤー・ブルースがあるもの
 あのクラプトンはいいわね
 鳴いているわ
 ギターが鳴いている

…そう言えば、
 レイラは…
 何処に
 行ったのかしら
 あんなに狂おしく
 求めて、いたのに…

:::::::::::::::::

剣闘士に見惚れる
姫様の物語

姫は王の愛撫にうんざりし
王の体型にもうんざりしていた

食には困らず
自分のことは
全て従者がやってくれる

姫は靴下を自分で履きたい
なのに
履けない

「それは、
 ワタクシめの
 仕事で御座います」

姫は外の空気を吸いたい
なのに
吸えない

「そんな
 そんな
 危険なことを
 万が一
 万が一のことも
 有るというもの」

姫は夜な夜な
自室での行為のために
上質なワセリンを塗っておく

何故?

濡れないからだ
決まって、いるだろう
王では、濡れない

王の身体は
腐った果物のような香り

王の声は
脂肪分がたっぷり
乗っている

なのに
姫は姫であるが故
心なくとも
抱かれねばならぬ

「嗚呼…
 第2王妃が
 羨ましい」

彼女はそう、漏らしていた

そんな彼女に

芽生える瞬間が

《本日のメインイベントは
 剣闘士 対 猛牛の
 対決、
 で
 御座います~~》

頭の悪そうなオトコが
頭の悪そうなトーンで
会場にアナウンスする

何でも100円で
買えると思っている
彼は
実際にそこに足しげく
通っていた

姫は…
剣闘士の身体つき
から
彼の人生を透かし見る

…嗚呼
 何て…
 美しい
 身体を
 しているの

…剣闘士
 奴隷
 身分
 関係、ないの、ね
 私はオンナ
 只の、オンナ
 突き詰めれば
 只の、動物
 この思いには
 抗えない、ものね…

姫は唯一の相談役に
このことを話すかどうか
何ヶ月も多いに迷った

判断、決心、行動の順で
彼女は相談役に
この恋心を
鎮める方法はないか、と
相談する

相談役の答えは、こうだ
「《獣と調教師》
 スズキ様の著書の表現ですが
 獣のパワーは絶大です
 故に、並の調教師では太刀打ちできない
 ならば、
 こうしましょう、
 …適切に獣に
 栄養を与えるのです」
とのこと

彼女は大いに悩み
いっそ、王を何とか
してしまおうかとの発想にも至る

しかしそれは行動に
移されることはない
そこまでの勇気
そこまでの度胸
そこまでの覚悟を
姫は持ち合わせていなかった 

姫は夜な夜な
同じワセリンを塗り
王との睦み合いに
《半ば耐え
 半ば楽しむ》ようにした

楽しむ
楽しむ
どうせするなら
楽しく、やる

扁桃体を騙そうと
不快の反応を快にしようと
やっきになってみたものの

やはりどうも上手くいかない様子
それはそう…我々は動物だ
アファメーションにも限度がある

もし、姫に
《変性意識への入り方》
を語れる従者が居れば

状況は変わった
かも知れないが
そんな輩は居はしない

…姫は剣闘士に
 抱かれたい
 なのに
 許されない

《夢の中、
 せめて金沢、
 一夜妻、
 貴方の腕に、
 かみつきたくて》

その詩は
誰に歌われることもなく
郵便ポストの隅っこに
挟まったまま

そして彼女は
自慰に更ける夜を重ね

剣闘士の反乱により
第2王妃が攫われた
ことを知る

彼女の恋は
此処で終わり…
続編を書く編集者は無い

:::::::::::::::

《かごめ
 かごめ
 かごの中の鳥は
 いついつ
 でやる
 夜明けの
 ばんに
 つるとかめが
 すべった
 うしろの正面
 だあれ》

誰かがバンジョーを奏で
鼻声で歌っていた

その歌い手は
CDを作成する際も
「ライブ感が一番大事だ」
と言っており

ほとんどの場合
一発で、一回で
録音を終えた

《地球の裏側にいても
 わかるような声》
そのように評された
彼の真価は

腰を痛め
まともに立てなかった
1970年代に絶頂を迎える

「俺は生きたい
 俺は与えたい
 俺は黄金の心を求め
 彷徨う鉱夫
 この思い
 言い表せずにいる
 今はそれでいい
 この思い
 これが
 俺を掻き立てる
 黄金の心へと」
そんな旅路の詩を歌は
随分と人気を博したが
其れは彼の本意であっただろうか

「オトコはオンナが必要」をピアノで
「収穫」をアコースティック・ギターで
彼が歌えば

女は夢見心地…
恍惚・安心・覚悟・勇気
其の魂に触れられることを
誇らしく思う

「今夜は収穫の月…
 其れを一緒に
 眺めないか?」

ドロップDで調律された
マーティンのD45が
美しく鳴り響く

:::::::::::::::

死は間近
邂逅すれども
救い無し
此処で散るのも
本儀とならん

死は間近
迎えに来たのは
妖精か
ならば本懐
此れにて御免

死は間近
大腿部より
流れ堕つ
血の総量こそ
誰ぞ計らむ

詩は来たり
容易に去りて
A5版
用紙に残らず
宙空へ消える

氏は誰ぞ
俺知る人か
抑々(そもそも)が
人というべき
種族の者か

死は間近
隣に誰かが
佇んだ
企み見事
心でにやり

:::::::::::::::
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