《瞑想小説 狩人》

瞑想

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交差

奴隷市場 死神

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:::::::::::::::

…娘、俺の唾液は
 どんな味がする

…飲み込むな
 しっかりと、味わえ
 舌を使って転がすんだ
 無くなったら、手を挙げろ

…そしたら、な
 もう一度、その空白を
 埋めてやる
 何度でも、俺の、唾液で

…感じてみろ
 俺の唾液を通して
 極寒の中で、震えていろ

…寒さを感じろ
 あの時の、俺を感じろ
 疑似体験し、震えてみせろ

…惨めだろ、無様だろ
 笑えよ、遠慮は要らん

…怖いか、俺が

:::::::::::::::

「飽きたか」
そう問われれば
その通りと言えるのかも

「もういいか」
そう問われれば
その通りと言えるのかも

寒さ以外、何も知らず
限られた獣と
部屋の畳を突き破る
茸(きのこ)の味以外、何も知らず
幾つかの指の機能を失い
何を残す、こともなく
何を得る、こともなく
ここまま、ここで…

ここで死を迎えたら
楽になれるのか
そんな気分に酔いしれる
明日を迎えなくても良い
そう考えるだけで、気分が緩む
寒さに耐えることを許され
無くなった小指の先が
意味不明に痒(かゆ)くなる
そんな幻から解き放たれるのか

死神の影は…
薄らぼんやり
したものから
濃さを増してゆく

「飽きたか」
「もういいか」
その2つの問いは
ぐるぐると中空を舞い
はっきりとした文字となり
うろうろ、のろのろ
俺の周りを徘徊する

近接する影が
俺の枕元に立てば
意識がはっきりしないような
どこまでも醒めているような
そんな気分になるものの…
恐怖は、ない

距離感が変わり
定まった視界が
死神の全容をようやく捉える

黒いローブを身に纏っており
妖しくも美しい形貌(なりかたち)

視線が合えば
はっきりと解る
切れ長の目
柔らかな微笑み
薄化粧、死化粧、花化粧…
女、オンナ、オンナ、だ
唇のシルエット、
胸の膨らみ、
ウェストラインまで
くっきりと、見える

黒いロングローブは
この寒さにはそぐわない
美しいものを更に美しく
妖しいものを更に妖しく
奇怪なものを更に奇怪にする
そんな機能を備えているのだな
寒さを防ぐものではあるまい

身体にぴったりと
黒いローブが張り付き
腰骨は綺麗に細く、美しく
足の形はまろやかで
且つエッジが効いている
俺は視線を奪われる
死の神とは斯(か)くも美しいものか

「おいで、おいで」の仕草が
彼女の世界へ誘ってくる
指先から閃光が走り
聞こえてはいけない音が聞こえる

死神は俺の指先をとり
優しく胸元へ導いてゆく
柔らかい乳房、緩やかな曲線
先の突起は尖っていたが
寒さに拠(よ)るものではない
温かい、死の気配は、温かい

お好きにどうぞ、死にゆくものには
最上の快楽を、等価交換として…
つまり、そういうことなんだろう

俺は彼女の、死神の
胸の突起を指先でつまみ
ほじくり返しながら
その問いの答えを探した
寒さはもう、感じてはいない

その女性は、死神は…
母のスープより温かく
親友との絆よりはっきりした
体感を俺に提示する
こちらへおいで、素晴らしい世界へ
もし、声が出ないのならば
頷く仕草、それだけでいい
頷くことも、できないならば
心で願う、だけでも構わない

:::::::::::::::::

俺と死神は
平常時の濃度を越して
秘密裏にダンスを踊る
誰に見られることもなく

彼女は俺に口づけし
温かい唾液を挿入する
何回かに分けて飲み込めば
心臓が激しく高ぶり
極寒の中でも
はっきり熱を感じ、汗になる

彼女の唾液を飲み込みながら
彼女の胸を揉みしだきながら
黒い影から放たれる
光の放出を眺めながら
俺は、問いの答えを探す

頭の中で、誰かの喋る声がする
俺自身のものなのか
彼女のものなのか
全く異なる、第三者か
未だ判別のつかぬ、声

:::::::::::::::

…寒かろう
 こちらへ来るのだ
 ぬくもり、祈り
 瞑想の、世界へ

…何をためらう
 もう、いいだろう
 彼女の導きに従い
 湿地の茸を食す様な
 地獄の生活から…

…一瞬たりとも
 寒さから逃れられず
 殺らねば、殺られる
 無限地獄の生活から脱出するのだ
 委ねてしまえ、其の手に

…彼女を見ろ
 天頂部に咲く
 紫の蓮の花を
 これが真実でなくば、何かね

…彼女を見ろ
 眉間に潜む
 藍色の輝き
 3つ目の瞳が
 お前を覗いている

…喉元を見ろ
 薄い青色の輝き
 先程から美しい
 音色でお前を
 誘っているではないか

…胸を見ろ
 緑の花がお前を包む
 綺麗な花だ
 香りも淑やか
 
…みぞおちも
 臍下丹田も
 会陰も、全て
 お前の参加を
 促している

…もう一度…
 「もういいか」
 「飽きたか」
 答えや、如何に

::::::::::::::

人間は空白を埋めたがる
何も無い時間
何も無い空間を良しとしない
死神もそうだったな、今、思えば

「はい」「いいえ」
それとは全く違う
回答をするのだ
人生で何度か巡り合う
間違ってはならぬ
問いがここにある

感じるままだ
身体が求めるままだ
死にゆくのは容易い
が、俺の魂は本当に
其れを求めているのか

「もういいか」
「飽きたか」

女が誘う、美しい仕草で
一緒になろう、と
夢と現(うつつ)が交差する
クロスロードへようこそ、と

俺は感じる
「道半ばなり」
俺はまだ、死んでいない
俺はまだ、生きていく
そして、この出会いを
死神という実態を持つ影と
仲良くしながら生きていこう

2つの質問に対し
俺は態度を決めた

:::::::::::::::

…娘、唾液を追加してやる
 舌を出せ

…俺の唾液で満たしてやる
 その口腔内を、全て

…少しは解ったか
 この俺のことが
 それとも、もっと
 解らなくなったか

…どちらでも構わん
 お前は奴隷
 三日三晩、俺に嬲られる
 只の、奴隷だ
 イエス・マシーン

…舌を出せ
 そうだ、そのまま
 
…飲み込むなよ
 消えるまで

::::::::::::::::

かんげんだ
しのかげまとう
そのおんな
おれのじんせい
ここで、おわらぬ

くぎょうなる
ひとのでふぉると
せっていを
かえることこそ
このであいなり

しにがみよ
おれのちにくに
なりたもう

そのかおを
いつでもみれる
きょりにいろ

くちびるを
かさねてだえき
のみこめば
もっとなかよく
なれるのだろう

さいわいに
おれのみかくに
あう、あじだ

そのむねに
いつでもさわれる
きょりにいろ

そのとっき
ちくびが、きつりつ
してるのは
おれにこうふん
しているからか

それならば
いつでもこうふん
させてやる

しのあじ、は
しあわせ、それと
うら、おもて
おれのいちぶに
おまえがほしい

このさむさ
ふるえるさむさを
のりこえる
こたえをおまえは
せなかにかかえ

ためしてる
おれの、こころの
かがやきと
しょうらいせいを
きれながの、めで

おれは、そう
せかいでいちばん
さむいばしょ
ここで、うまれて
ここでは、ちらぬ

しにがみよ
こたえはこれだ
みちなかば
おまえはおれの
そばにいるんだ

ずっと、だぜ
おれのそばにいろ
みておけよ
きにくわなければ
すぐにころせよ

:::::::::::
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