《瞑想小説 狩人》

瞑想

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同種喰い

同種喰い 其の4

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朝食の席

赤目と、緑目、
同種喰いの彼女らは
そこにいなかった

赤目は赤のフードを、
緑目は緑のフードを被っていた

もし、そこに同席していたなら
嫌でもその色が目につくことだろう
君は安堵する

テーブルに並んでいるのは
少量の玄米と
カボチャ・スープ
そして大豆を奇妙な
味付けで煮込んだもの

簡素ではあるものの
栄養バランスに富んでおり
添加物が一切
加えられていないのが素晴らしい

日直、と呼ばれる
担当の祈り女が宣誓する

「食事は有り難いもの、
 チャクラの覚醒のため、
 食べることも修行のうち、
 よく噛み、
 しかと味わい、
 狩ったもの、刈ったものへの
 感謝を
 では…
 いただきます」

出だしの三行は
必須の決まり文句、
その後は何を喋っても
構わないとされている

しかし皆、真面目なものだ、
真面目な振りをしているのかな

《食べることも修行のうち
 ところで…
 昨日の夜について、ですが
 私のお気に入りの
 狩人様といったら、
 それはそれは
 精力旺盛な方でして、
 汗だくになって
 私を抱いてくださいました…
 深夜までの睦み合いのアト
 私は彼の射精を
 お口の中に迎え入れます
 嗚呼…
 とても感じてしまいまして
 今も、その余韻が残っています
 今夜は、どんな夜になるのかしら
 楽しみで、仕方ありません
 では、
 いただきます》

と、正直に
喋る祈り女は
おらんようだな
真面目なものだ

ーーーーーーーーーー

学び舎に子供たちが集う

君は今日
午前の一コマで
子供たちに
薬草学を教えることになっている

太陽は東から上り
やや南に深い軌道をとりながら
時計のない
彼等、彼女らに一日の変遷を、
概ねの時間を告げていた

…学び舎の
 時間…
 今日は、
 薬草学だった、かしら
 教えること、は
 ええと…
 ええと…
 ううむ
 えい
 その時の、
 気分で、決めよう

君らしくていい
その場、その場の状況で
最善を尽くせばいいのだ

学び舎は長老の屋敷から
南に6分程の位置

傷だらけの木造小屋から
元気な声が響き渡ってくる
子供らは、どこの世界でも無邪気

「起立」
「気をつけ」
「礼」

授業が始まるらしい
どんな事を教えるのか
俺も楽しみ、だ

「…ええと、
 今日は…
 ごめんね
 何にも、
 準備、
 してきてないの」

「いつも、そうじゃないか!」
「でも、可愛いから、いいです!」
「おねえさん、好きな人、いるの?」
「いるんでしょ、教えて!」
「そうだ、おねえさんの
 好きな人、教えて、どんな人?」
「駄目だよ、薬草学の時間だよ!」
「日直さーん、どうする?
 決めて、決めて」

君の授業は
いつもこんな感じ
何も決めず
構えず
彼等、彼女等と
一緒になって考える

「おねえさん、
 あの話に、してください
 箱の話…
 お茶の話…
 どう?みんな?」

拍手が起こり
満場一致で
採択された

「…
 …
 いいわ、
 ええと…
 どこまで
 話したかしら?」

「《箱》ができたところ、
 そこまでだったと思うよ!」

「…そう
 …そうだった、かしら
 …いいわ
 じゃあ、みんな
 目を閉じて、ください」

「はーい」

「聞いていてね
 もし
 具合が悪くなったり、したら
 手を挙げるの、よ」

「はーい」

:::::::::::::




…昔、
 遠い昔、ね
 大きな、大きな
 ケンカがあったの

…人と人がケンカするように
 2つの国と国が
 ケンカをしていたの

…悪い国と、
 良い国が
 あったわけじゃなくてね…
 ただ、考え方が違ったの
 求めるものも違うし
 暮らしぶりも随分、違っていた

…片側の国は
 大きな国で
 物を集めるのが好きだった
 世界中の色々な物を、
 珍しい物を集めるために
 武器を集めて
 周りの国にケンカをしに行っていた

「…何ていう、国?」
「…しっ!喋んなよ」

…いいのよ、
 喋っても…
 只、目をつぶっていてね…

…その大きな国は
 ウワサを聞いたの
 ある小さな国に、
 海を渡った場所にある
 小さな小さな島国に、
 とても
 とても
 珍しいものがある、と
 どこからか、
 聞きつけたの
 
…その、珍しいもの、は
 不思議な力を持っていたの
 世界に一つだけの
 凄く強い、力…
 
…「箱」
 それは箱だったらしいわ
 不思議な、不思議な
 力を持った箱
 小さな島国の人たちにとっては
 それを作る必要が、あったのね
 自分たちを守る、手段として
 
…偉い大工さんが、
 その島で一番の大工さんが、
 誰かに渡された
 設計図をもとに作ったらしいわ

…誰がそれを考えたのかな?
 誰がそれを思いついたのかな?
 それは、どこにも書いてないの

…その箱を作るのは
 とても、
 とても、
 難しい
 その島の
 一番の大工さんでも、ね

…石を持ってきて
 設計図通りに、
 寸法通りに、
 削るのが
 とても、とても、難しいの

…何年も
 何年も
 何年もかかって
 ようやく
 箱は完成したわ
 小さな島国は
 凄く喜んでいた
 これで
 これで
 この国は安心だ、って

…どこの時代にも
 ケンカはあるのだけれど
 その箱を使えば
 負けることは、ないの
 絶対に、ないの
 負けるわけが、ないのよ
 だって
 
…箱を開けただけで
 何千人もの、何万人もの軍隊が
 一斉に…
 そう、壊滅、しちゃうのね
 壊滅…わかるかしら

…その箱を手に入れようと、
 自分たちの物にしようと
 海を渡り
 大軍を引き連れ
 大きな国が攻めてくる
 でも
 でも
 でも、ね
 やっぱりその箱には
 敵わなかったの
 その蓋を開くだけで
 それだけで
 相手は
 …
 …
 とても
 とても
 大変なことになったわ

…ほとんどの人が
 その場で死んでしまった
 ぱた
 ぱた
 ぱた、と
 奇跡的に生き残った人達は
 カラダを引きずりながら
 国に戻ることになるのだけれど…
 
…みんな
 みんな
 重い皮膚病にかかっていた
 皮膚はただれて
 毎日
 毎日
 苦しい思いをするの、ね
 痛くて
 痒くて
 そこから
 他の病気が入ってくるの
 最終的に
 生き残ったのは
 ほんの
 数人
 だけ

…その国には
 お医者さんがいたわ
 とても
 とても
 優秀なお医者さん…
 その人は
 皮膚病を直そうと
 いろいろなことを試したの
 軟膏を塗ってみたり
 アロエの茎を使ってみたり
 ネギから出る汁を使ってみたり
 毎日
 毎日
 一生懸命
 頑張って助けようとした
 でも
 皮膚病にかかった兵士さんは
 どんどん
 どんどん
 亡くなっていくの

…お医者さんは
 頑張って
 頑張って
 本当に頑張って…

…何年かアトに
 やっと、
 効果のあるものを
 作り出すことに
 成功したの

…梅を煮た
 魔法のお茶

…箱にやられて
 皮膚病にかかった
 兵士さん
 一人ひとりに
 そのお茶を飲ませるの
 
…すると
 するとね
 本当に何日かで
 その皮膚病が治ってしまった
 すごい発明だったわ
 奇跡
 と、言ってもいいくらい
 
…梅のお茶の作り方は…
 ごめんね
 この本には
 多分…書いていないと、思うわ

君の話は
史実を語っているなのか
内から湧いてくるものなのか

子供たちは満足げな表情
とても
とても
良い話を聞けた、と

::::::::::::::

太陽は変遷し
北と南の中間地点

もうすぐ
昼の祈りの時間がやってくる

…赤目のオンナは人知れず
 舌を舐めずり

…緑目のオンナは爪を研ぎ
 その時を待っていた

嗚呼…
た、の、し、み

嗚呼…
は、や、く

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