《瞑想小説 狩人》

瞑想

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同種喰い

同種喰い

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今も
昔も
変わることなく

コミュニティには
祈り女がおり
主に祈りと
木の実の採集を
生業としている

コミュニティには
狩人がおり
日の出とともに目覚め
狩りをし
獣を仕留め
全体に奉仕する

祈り女と、狩人
この2つの職業は
コミュニティの根幹たる存在

その他には…

膳支度、
朝、昼、夜の
調理と提供を担当する
調理師

闘いのための武具、
狩人が左脇腹に携帯する
短剣を作成し、銘を刻み、
必要によりそれを研ぐ
刀師

万病の知識、
病の相談を受け
薬草学の知識をもとに
配合した薬草を提供する
医者

鍛錬の知恵袋、
汗の匂いが充満する
鍛錬場を整備し
狩人の身体能力向上のため
様々な相談に乗る
鍛錬場の主人

困りごとの仲裁者、
オトコとオンナのいざこざや
どうにも折り合いのつかない
喧嘩の類を仲裁し
コミュニティの安寧を保つ
評議会

それらの長
絶対的支配権を持ち、
主として君臨する、
長老という存在が居た

死ぬもの、
産まれるもの

それぞれの生業の全うと
宵のひっそりとした睦み合い

このバランスを絶妙に
保ちながら
これ以上に小さくもなく
これ以上に大きくもなく
完全な調和のもとで
何世代も
何世代も
安寧を保つ一個の集団

個として
グループとして
大きな集団として
安寧を維持してきたコミュニティ

ルールは只、3つのみ
これは今もなお
変わることなく
大きな石に刻まれている

《朝は、感謝と共に目覚めなさい
 身体の声を聞き、
 生を実感するよう努めること》

《昼は勤勉を常としなさい
 狩人は狩をし、祈り女は祈り、
 生業を全うするよう努めること》

《夜は自分を労りなさい
 今日、成したことを誇りとし、
 自身を慰めること》

ある時代の長老は
コミュニティの
内部事情を安定させるため
外部からの驚異に
晒されぬようにするため

外部の影響を完全に遮断する
防御システムの構築
このことを
切実な望みとしていた

弱々しい柵ではなく、
兵糧責めに屈する城壁でもなく、
コミュニティを守備する
絶対的なものとなる
システムの構築…

:::::::::::

当時にも輪番があり
ある祈り女は
主との
睦み合いの後
眠りについていた

時は丑三つ時を
半刻程越えたころ…

そこで
彼女は
おぼろげな意識の中
春雷のような
閃きを得る

羊皮紙とペンが
ベッドサイドに…
今のうちに
今のうちに
早く
早く

彼女は羊皮紙に
三角形を二つ書き、
それらを重ね、
中央に渦巻きの絵を書いた
  :
《目安箱》
《周波数発生装置》
  :
ほんの数分の執筆、
いつの間にかそれは
何かの設計図になっていた

時代を重ね
研究が進み
永久機関の概念が
他の村からもたらされたことを契機に
その2つは具現化し
何人かの手によって改良を加えられ

このコミュニティを
外敵から守る
とても
とても
有意義なものとして
24時間
365日
動き続けている

今も、なお

:::::::::::::

甲月と乙月、
60日を周期として
変遷するコミュニティ独特の暦

コミュニティの長老は
甲月の折
祈り女の中から
一人を選び、
身の周りの世話をさせ、
宵の相手をもさせていた

調理師が扱う鍋、
その底が丸くなっているのも

短剣を研ぐ刀師が
数千度の火力を扱えるのも

《薬草学》
《肉体学》
《量子力学》
《占星術》なる
書物がここにあることも

輪番の乙女の存在によるもの、
彼女らの直感と
祈りの中で得られる
不思議な力は強く、
人々の生活様式を大きく変えてきた

一年という概念があり
春夏秋冬という概念があり
24節季と呼ばれる暦があり
《雑節》までも理解する祈り女

祈り女と狩人は
自然への感謝とともに生きる
まるで過去、
北方の果てにいた
先住民のような価値観とともに

:::::::::::

時、
移り

世代は、
変わりゆき

祈り女は祈り女として
狩人は狩人として
不自由なく
暮らす毎日が続いている、ものの

暦が変わる
こともなく、
24節季が26に
なったわけでもない、のに

今は
今は
何かが
異なっている

長老は長老で
あらねばならぬし

祈り女は祈り女で
あらねばならぬ

狩人は狩りに行かねばならぬ
獣を仕留められぬものは
狩人にあらず

何かが、違う
昔と、今とでは

祈りの時間に
丹光が見える
祈り女は居なくなってしまった

気の残り香で
獣の行方を探知する
狩人は居なくなってしまった

14歳の乙女の処女を
貫通する儀式は残っていたし
14歳でオトコは初めて
短剣と弓矢の携帯を許される
昔も今も、変わらぬ風習

しかし、
今は、
今は、
何かが、違う

安定が続くこと…
安寧が続くこと…
続き過ぎること…

これが
コミュニティにいびつな
歪みを作り
バランスを崩しかけていること
 
個として
集団としての
変化を求める卵が
傍らで笑っていることを

老骨のオトコと
蟲に犯される祈り目と
もうここに居ない狩人だけが
何となく、感じていた

:::::::::::::

…昨夜の余韻が残っている
 《蟲責め》明けの、朝

何とか祈りの時間に
間に合った君

最後列の中央付近
祈り女の衣装を纏い
いつものように
手を合わせる姿が美しい

幾つかの思いがよぎる
昨夜の余韻を
カラダが思い出す

なるべく考えないように
なるべく考えないように

意識が逸れたなら
なるべく早く
中心線に、戻ろう
中庸と、呼ばれる部分に

今日は瞼の裏に
オレンジと
薄い青い色が見える

いつもとは
一寸、違う感覚
いつもとは
一寸、違う色

君はもう少し
その色を、
その感覚を、
眺めてみる

……

…不安…

…不安、
 そう
 私は、
 不安を抱えている

…考えちゃ
 駄目
 
…昨夜のことは
 今のこと、じゃない
 今は
 今…

……

…少し
 ぼーっと
 しているわ

…それは
 そうよね
 昨日は
 とても、
 とても、
 辛い夜だった

…蟲さん、が
 まだ、耳の中に
 いるみたいな…

…まだ、
 尻尾が其処にあり
 まだ、
 猫耳が其処にあるような

…変な、
 とても変な
 感覚、だった
 わたしの
 カラダじゃないのに
 ベルトに付けられた尻尾
 カチューシャに付けられた耳
 それらに
 神経が…
 確かに通っていた

…そして
 嗚呼
 もう、思いださなくて
 いい、のに…

…ブラシ
 幾つかのブラシ
 丸いブラシ
 鉄のブラシ
 針のついたブラシ
 それ、で…

…嗚呼

…駄目、
 考えちゃ
 駄目、
 今は、
 お祈りの
 時間…

こういう瞑想でも
いいじゃないか
かのシッタルダも
行っていた方法だ

ヴィパッサナー瞑想
湧き出る心を抑えもせず
只、眺めているのも良い

ただし
気をつけた
ほうがいい

右隣と
左隣に
他の祈り女が
いるだろう?

彼女等は、
敢えて、
そこに、
陣取ったのだ

君は知らないだろう?
オトコというもの
オンナというもの
様々な性癖
中には…
《同種喰い》と呼ばれる
妙な性癖を持つものが居ることを

…?

…な、に?

右のオンナの手が
君のうなじにそっと触れ
左のオンナの手が
その足を軽く撫でた時

数々の責めにより
敏感に調教された君のカラダは
50人が集う祈りの間に
小さな声を
漏らしそうになった

…な
 な、に…?

「不不、声を出しちゃ、駄目よ」
「そう、おとなしく、しているのよ」

耳元で囁く
2人のオンナの吐息が
君を次の次元に導こうとする

同種喰い

君は初めて
その存在を知る
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