《瞑想小説 狩人》

瞑想

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交渉

使えるモノは何でも使う、例え君でも

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「…昨夜は、
 良く眠れましたかな?」

長老が
意味深な言葉を
口にする

「…ええ、
 お陰様で、
 とても良く眠れた
 ステージ1から
 2へ、3へ、
 4へ、2へ、
 そしてレム睡眠へ、
 それを4回も
 繰り返すことができた
 …深く、良い、眠りでした」

「…それは
 …何よりで…」

「…」
 
「…ところで
  その娘…
  一晩共におったようだが…
  粗相などは、
  しませんでしたかな?」

「…いいえ、全く」

「…それは、
 何よりで…」

「彼女のお陰で
 …
 …
 …楽しめました」

「どおりで
 …
 …
 顔色がすこぶる、
 良くも見えるというもの」

オトナの会話が続く
交渉の前段
アイスブレイクというヤツだ

もっと冷たく、
もっと緊迫した、
そんな気配に
変わってきているような
気もしないでもないが

 しばし、
 沈黙が、
 続く

その部屋には
木製の長机が置かれており
茶褐色に橙を混ぜたような色

長机は随分と
年代を重ね、
時の振るいに
かかったものだと
確認できる

調度品の類なのだろう、
この机は
何度も、
交渉の立会人として
ここにあったに違いない

…時の振るいにかかり
 残ったものは本物だ…
 例えば、
 レノン&マッカートニー、
 バターフィールドのハープもそう
 ディランの詩歌、
 ヤングの鼻声も
…世界中には
 メインストリートに
 ならず者がいるのだろう

「…」

「…」

「…」

空気が変わる
緊張が室内を満たす

言葉、
そう、言葉

此処から先は
言葉を選び
適正なものをその都度
選ばねばならない

沈黙を使い
言葉を使う

何を使うにせよ、
間違わない事を
優先事項の第一順位に
挙げなくてはならない

そんな雰囲気が
部屋の隅々まで行き渡る

コイントスの裏表のような、
二者択一の議論にはなるまい

白と黒が揺蕩い、
割とはっきりしないのが
交渉の常識なるぞ

《使えるものは何でも使う》
例え君でも

長老の狡猾な目つきが
そう言っている

ギブアンドテイクの
ギブを少なく
テイクは多く

見入りを多く
出費は少なく

………………

「…昨日のお話ですが…」

長老が口火を切る

「…」

ロマンスグレーの老人は
沈黙を守る

「…交換に至るには
 些かの譲歩が必要かと
 思っております
 …コミュニティの最深部、
 《薬草学》の情報は
 もう少し、価値があると、
 私自身は考える
 如何…か?」

「…私の情報では
 …足りないと?」

「…そうでは、ない
 とても有益なものだと
 感じてはいる」

「…ならば、何故?」
 
「…我々は既に、
 《肉体学》なる
 同様の形態をした
 書物を持ちあわせており
 現在進行形でなお、
 改編中である
 そう、言っておきたい」

「…そこに、
 自発動の技法は…
 書かれているのですかな?」

「…残念ながら、
 そこまでには、
 至っていない」

「…ならば、
 この情報には
 価値があると思うが?」

「…価値は、ある
 しかも、
 絶対的な力を持っている
 そう、思う」

「…だが、腑に落ちない、
 そう、仰る?」
 
「…あくまで
 私見ですがな
 …このコミュニティを
 長く、
 永く、
 保つ、
 そのためには、
 叡智は一部の選民が
 独占すべきだ
 …そう、考えている」

「…
 危険な、
 思想だ、
 とも
 感じるが…
 …
 私は、《薬草学》の
 深い知識を手に入れ、
 村の者を
 幸せに導きたい
 振動の技法について学び、
 薬草の調合を深く知りたい、
 その思いのみ、です
 …考え方の違いですかな?」

「…そう
 …違うのでしょう
 …私と、貴方とは
 そして、議論は平行線
 昨日と変わりなし」

「…辞めに
 しておきますか?」

「嫌…
 《究極の心と身体》
 その一節、
 《身体操作、自発動》
 私は
 見てみたい、
 体現してみたい、
 学んでみたい、
 そんな《欲》はある
 勿論」

「でも、何かが
 引っかかる、と
 そう仰る?」

「…そう、
 引っかかるものがあり
 怖くも、ある」

「…怖い…
 何が、です?」

「他に知られることが、だ」

「…」

「…」

長老の言葉が
再び
沈黙を連れてくる

「…他の者に
 知られるのが
 怖いと仰る?」

「そう、
 その情報の
 中身について
 他に知られては、困る
 それが、
 コミュニティの長たる
 私の立場だ」

「…安定、安寧のために
 ですか?
 …失礼、
 言葉を選んだ
 つもりですが…?」

交渉はこんな調子で
一歩も引かず、
一歩も下がらず、
お互いに激しい主張を持った、
団地の主婦の論争のように続く

「例えば」

長老は言う

「その技法を
 この、娘
 貴方の隣にいる
 その、娘
 …
 昨夜、
 貴方が一晩を共にした
 その娘に伝えていたり
 するならば…」

「なら、ば?」

「…交渉は、終わりだ」

「…あなたは…」

交渉の行方は
君の右肩に
ほんの少し乗りかかる
「粗相をするなよ」
小さな小人が耳の中に入り込み
細心の注意を促す

紫色の水仙は
栄養が足りないようで
その場に突っ伏し
枯れ落ちた

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