《瞑想小説 狩人》

瞑想

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輪番の始まり

永久機関

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旅には出会いがあり
別れがある

コミュニティを離れ
遠く離れ
その距離を数えるのをやめたところで
俺は奇妙なオトコと出会う

竹林の中、
遠くから音が聞こえる

がさ、がさ、がさ

獣とは違う規則性
これはヒトだ

瞬時に俺は判断する

しかし

敵か
味方か
その性質は掴めない

敵なら
瞬時に戦う覚悟を
決めねばなるまい

懐の短剣に軽く触れ
しかし
敵意を悟れれぬように
身構える

…空気が変わる
…雰囲気が変わる
…多分オトコだろう
 彼も俺を察知したに違いない

俺は音を最小限にして移動する
融通無碍を心がけ
気の流れを小さくする

彼は…
俺を視認すると
「…☓☓☓」
何がしかの言葉を発したが
距離のせいで聞き取れない
これは空気の振動が
俺に伝わり切らなかったことを
意味する。

俺は警戒を緩めない
闘争、逃走ホルモン、
アドレナリンが血中濃度を上げ
全身を血流がくまなく巡る
血液が回れば
気、水も巡り循環する。

俺は戦いの時
必ず「気」を丹田に落とす

重心が肝心だと
五臓六腑で知っている。

「…こんにちは!」

今度の振動は大きかった
竹林がその振れを感知し、
はっきりと俺の耳にも

彼の笑みに邪気がないことを
確認できるまで
俺は短刀を担当する右手から
手を離すことはなかった

~~

「素晴らしい、お手並みだな」

彼は言う

「…何の、ことだ?」

俺は答える

「つい先刻の狩りのことだよ
 半里程南に、
 イノシシの死骸があった。
 俺が担いでいるのは、その一部さな
 …
 見事な切り口だ、
 頸椎に一刃、
 一撃、離脱
 あれは、君だろう?」

「…なれば、どうだと?」

「褒めている、のさ
 うちの村で、あんな切り口を出せる
 ものはいない、
 見事なものだよ
 …
 そもそものところ
 村には狩人なんて酔狂な輩はいない
 俺に、教えてくれないか?」

「…何、を?」

「狩りのことさ
 題名をつけるなら
 《究極の心と身体、狩りとその真髄》
 といったところ」

…面白い
 喋り方をする

俺はそう思った
コミュニティの誰とも違う
天真爛漫
かつ
無法な物言い

「…無駄だよ、俺は違う
 狩りのようで…
 俺のは狩りじゃない
 …分かり難いだろうが」

「面白い、
 面白い、な
 お前は…」
 
「…」
 
「…わかる気がするんだよ
 考えていたんだ
 この殺し屋は
 アサシンは
 何故、肉のほんの一部しか
 切り取らず
 持ち去る量を最小限にしたのか
 とね」

「…」

「題名をつけるなら、
 《最小限の美学、
 マクロとミクロの一元化》
 といったところか」

「…苦っ」

俺は笑った
笑ったのはいつぶりか
ここ何年も筋肉を使っていなかったな

朝、全身の筋肉を起こし
アクティベーションしている
そのはずだったが
笑顔の筋肉だけが
滞っていたらしい

「見たところ」

「…」

「独り旅、そうだな?」

「…ああ」

「宿は?どうしているんだ?」

「…そこらの洞穴さ
 雨、風さえしのげれば」

「水は?どうしてる?」

「川の水は飲まない
 下流は危険だ
 故に
 朝露を集め、一日分確保する」

「なる、ほど
 《ミネルバのふくろうは
 夕暮れ時に飛翔する、水分とともに》
 といったところか」

「…お前も…
 なかなか、だな」

「…本題、だが
 何故、イノシシの一部のみを?
 半分は担ぐことができたはず
 それなのに、何故?」

「…答えるべきか?
 …答えなくては、ならんか?」

「多分な、そういうめぐり合わせだ」

「…多分、話は長くなるな
 俺のマインドセット
 本質に関わる部分なので、な」

「良し、
 良し、
 ならば、
 ならば、
 道々話してくれ!
 俺の村に行こう!
 俺の家に来いよ!」

「…」

「大丈夫、
 そんなに離れた場所じゃあない
 北斗星に向かって2里程
 治安は完全と言ってもいい
 永久機関が守っているのでな
 …
 女も、
 子供も、
 仲間も、
 きっとお前の話を
 聞きたがる、
 …
 《旅の狩人と生の知恵》といった
 ところか」

「…永久機関」

俺はその言葉に
奇妙な興奮を覚えたものの
自分を律し
戒めることを忘れない。

多分
こいつ
次の言葉は
《旅は道連れ、世は情け》
というぜ

面白い奴だ
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