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File.7

漏れそうなイケメン

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勇者パーティーとの戦いに参加したメローネさん、ダレインさんとアルファさんを連れて、俺は本拠地である魔王城に帰還した。

「はい到着、っと」

「ふぇっふぇっ、助かりましたよ」

「感謝」

「さっさと降ろせ……」

場所はトップシークレットだから七刃将の俺でも分からない上に、魔素の痕跡が残らない特別な転移魔法でしか来れないようになっている。

石造りの暗い城内の広間に降り立ち抱えていた二人をそっと下ろすと、酷く憔悴した様子のメローネさんは壁際にもたれ掛かって荒い呼吸を繰り返す。あの金髪勇者にこっぴどくやられたみたいだけど、不思議なことに外傷が殆ど無い。

「大丈夫?メローネさん」

「ひっ……?!わ、妾に近寄るな……ッ」

「あらら、めっちゃ嫌われてんじゃん俺」

「き、貴様ではない……オ、オスは全て嫌悪対象だっ」

何やら男に対する免疫が滅亡したらしい。どんな手を使ったのか知らないけど、そういえばオルドラくんの部下の子もこれの軽いバージョンに陥ってた気がする。

俺のイメージしてた勇者像とは噛み合わない被害状況に、首を傾げた。まぁ、あの金髪くんは他の勇者達とは何処か違う感じするし、次戦う時のお楽しみってことで。

「おうメローネ!テメェ、無様に負けて帰って来やがったな?」

「オルドラ……ッ!!」

「おっ。オルドラくんだ。彼女、金髪勇者とやり合ったんだってさ」

実は今日、この魔王城にて七刃将を含む主要幹部の招集が掛かっているのです。人間サイドの傘下組織も含めての集会は初なので、何か大きな動きがあるのかもしれない。

オルドラくんがこの城に来るのは呼ばれた時だけだから、わかりやすい。
そして、俺が勇者と口にした瞬間、彼の形相が怒りに染まっていく。

「金髪だぁ?あのフザけた勇者か!!」

「あー、多分それ。オルドラくんもやられたんだっけ?」

「やられてねぇよ!!あれは油断しただけで……思い出したら腹立ってきたぜ!!次会ったらブチ殺してやるッ!!」

怖い怖い。彼がマジギレした時の破壊力はハンパないからなぁ。
続々と集まるメンバーを眺めていると、俺は不意にトイレに行かなければ、と思った。この規模の集会だと何時間も拘束されるだろう。実はちょっと前から腹が痛かったりする。

「あー、ルシアだ~」

「お、ベイルくんか」

と思った矢先に捕まってしまった。間延びした口調で声をかけてきたのは【怠惰のベイル】ことラビ・ベイル。15、6歳の少年のような見た目をしてるけど、実際はかなり長生きなんだとか。

何処か抜けてるような印象を受ける表情と、それを覆うように伸びた茶色の髪の間から同色の瞳が俺をみつめてくる。
言いたい事が有るなら早く言ってほしいな……腹痛もちょっと無視できないくらいになってきたし、トイレに……。

「ボクの造ったゴーレム、やられちゃったんだって~。ショック」

「あ、あぁそうみたいだね。頑張って改良していかないとね」

「うん、ダレインくんと頑張る~」

この子のスローペースとは裏腹に、腸の動きは忙しなくなってきた。やばいなこれ。

「ははは、期待してるよ」

「ありがとー」

悪気がないのはわかってるけどー!!こっちはトイレに行きたいんですよぉぉおおおお!!お腹痛ぇえええええ!!

「も、もうすぐ全員揃うみたいだから、あっちで待ってたほうが良いんじゃないかな?俺はちょっと行くとこあるから、それじゃ!」

「うん~」

無理矢理会話を切るようにして、踵を返して廊下へ続く扉へ、急ぎつつも腹部への衝撃を最小限にするべく歩幅を小さく摺り足気味に。
たった数mの距離がぁ……めちゃくちゃ遠く感じりゅぅうう……。

それにしてもこんな腹痛、何ヶ月ぶりだろう。今日の朝食べたコカトリスの卵を半熟で食べたからなのだろうか。それとも俺を慕う魔族の女の子から貰った焼き菓子が……?いや、わざと腐ったものを渡すとは考えにくいしっていうかマジ肛門括約筋がぁぁぁあ!!やめてぇえええ!!死にゅぅうううつう!!!!

「はぁ……っ、はぁ……っ」

やっとの思いで第一の関所(ただの扉)を突破した矢先、前方から来る桃色の髪をしたサキュバスが現れた。取り巻きのサキュバスさん達も居られる。
俺の腹部からくる痛みは抗い難い激痛となって、喋るだけで肛門が暴発しそうだというのに……ちくしょう。

「あっ、ルシア♡もうすぐ集会なのにどうしたのぉ?」

「リ、リリス……さん。ははっ、ちょっとね」

扇状的な衣装を身に纏うこの人は【色欲のリリスミリィ】。妹が勇者側に寝返ったというプチ事件は記憶に新しお腹グルグルピーピーです助けて。

「ルシア様よ♡」

「ルシア様♡今日もカッコいい~♡」

「ど、どうも。リリスさんも早く中で待ってたほうがいいと思います、では」

会話がこれ程苦行になるなんて……極力文字数を減らそうにも、普段の俺は見ての通りモテモテなのでそう無碍にも出来ないんだよなぁ゛ぁ゛あ゛痛い!!サキュバス可愛い!!いやお腹が!!グルグルしてる!!しかもこれ、ヤバい……!!俺の見立てではコレ……液状です……(絶望)

「あーん、待ってルシア様ぁ♡」

「んひぃっ!!」

取り巻きサキュバスの一人が、俺の腕に絡みついた拍子に、括約筋が……!!まだ、出てはいない。けど、これ以上は……ッ!!!!

「変な声出しちゃってどうしたの?ルシア♡」

「何でもない、れひゅ……うん、何でもない……」

もう普段のイメージをかなぐり捨てて「うんち漏れそうだから離してぇええええ!」とか言えたら良いのにな。

だが、それは許されない。何故なら俺はスーパーモテモテ魔族【傲慢のルシア・リオンヴァルト】だからである。魔王軍は勿論、時には敵だったり天使をも魅了する、あらゆる女性から好意を寄せられるこの完璧超魔人の俺が安易にトイレだのうんちだの言ってはならなああああああああ゛!!また来たぁぁぁあぁぁぁあ!!!!

「変なのー♡リリス達が気持ち良くしてあげようか?クスクス」

らめぇええええええ今は出ちゃいけないものが出ちゃうのぉぉおおおおおお!!!!

「いや、だ、大丈夫。ちょ、ほんとに、急ぎだから。ね?」

サキュバス連中を宥めていると、さっきの地獄のような痛みの波が、スッと引いた。この隙にトイレまでダッシュしたいと思います!!!!

絡みついてきた子を優しく離すと、小走りでトイレに向かった。平常時だったらこんな風には、いや、今はそんなことよりトイレに!!

「ぐっ……またっ、波が……!!」

ルシア選手堪らず失速ゥウ!!波が収まると次はもっとデカい波が来るんですねぇ!!勉強になるなぁ!!すごいや!!(錯乱)

小走りから再び歩幅を縮小した省電力モードへ移行。あと20mはある。慎重に……!!

「はぁ……ッ、ふぅ……ッ!遠い……」

そもそもなんだってこんな間隔開ける必要があるんですか?!こんだけ広いんだからひと部屋ひとトイレを設置するくらいの思慮深さとかないの?!バカなの?!

いよいよクライマックスと言うべきか、激痛と共に括約筋が悲鳴を上げ、冷や汗垂らしながら壁に手を着いてしまった。
まだ、イケメンが苦しそうにしてるだけに見える筈。括約筋が限界を迎えて崩壊したら、今まで築き上げてきたルシア像も共になくなるのだ。

眉目秀麗、容姿端麗、強力無比、天下無双、立てば宝石座れば絵画歩く姿はエンシェントドラゴンナイト、比類なき完璧超魔人であるこの俺が醜態を晒すわけにはいかないんだ……ッ!!

ていうか腸の仕組みがおかしいと思いませんか?!こんな抗いがたい痛みで強行突破のシグナルを鳴らしたってヒトにはTPOがあるじゃないですか!!!!生物として明らかな欠陥ですよこれは!!無理な時に催すのはやめ゛ぇ゛ぇ゛無理ぃいいい!!死ぬぅううう!!!!滅多な攻撃では死なない俺でもこれはぁぁああああ死ぬうぉああああうぉあ!!!!

「あれ?どうしたんですか?ルシア様」

「はっ……あ゛?いや、だい……じょぶ」

もう放っといてくれぇえええええこの野郎ぉぉおおおおお!!!!誰だっけコイツゥウウウウ!!!!多分ダークエルフの何かそんな感じのぉおおおんほぉおおおおおお!!!!生まれりゅぅうううう!!!!!

「もう少しで集会が始まりますよ。行かれないのですか?顔色も悪いようですけど……」

話しかけんじゃねぇクソアマァァァアアあ゛あ゛ごめんなさいクソがつくのは俺でしたぁぁぁあ!!!!もう波がッ!!怒涛の勢いでぇええええ!!!

「……俺は、少し野暮用でね」

波が収まった一瞬の隙を突き、爽やかな笑顔を繰り出した。
常時フル稼働していた括約筋様がもうすぐ仮死状態に入るという予感、その先に待つ惨劇を想像して恐怖に苛まれるが、女の子を無視したらルシアが廃る。

「そうなのですね。お気を付けて」

「大丈夫、すぐに戻る……よ」

もうそれだけが俺の腹部で渦巻く悲しきモンスターの誕生を阻止していた。お前は生まれて来るべき場所で召喚してやるから……!!だからもう少し待て!!

「あの、ルシア様」

「な、何かな?」

「これ、良ければどうぞ。一族に伝わる万能薬です。ルシア様の為に調合したのです」

「俺の為に……?ありがとう」

それって体内のうんちが消え去ったりするのかな?!と口をついて出そうになるのを堪え、頬を赤らめるダークエルフちゃんの頭を撫でた。ってかこんなことしてる場合じゃねぇんだけどなぁ本当にぃいいいい!!!!
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