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第一部

責任の所在

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「トラビスに君の部屋を案内させる」

 ベレトは恐らく、先程の「号令」とやらを使う気だろう。魔法の一種と考えて良さそうだ。

「一ついいですか」

 浮かんだ疑問を一人で消化するには些か知見が足りず、既に定住を果たしているベレトから後学を得るしかなかった。

「どうして俺を呼び出したんですか?」

 人を顎で使う圧政を敷くベレトが、俺のような異端者を自ら増やす了見が気になったのだ。

「私達はこの地に混乱をもたらす事も、平穏をもたらす事もできる稀有な存在だ」

 その節は覚えがある。バタバタと息を吹きかけるように人が倒れる様を俺はついさっき見た。

「この町を守る為には、次の強力な柱が必要だった。一か八かの賭けだった上に、召喚魔術を扱う事ができる貴重な人材を失ったのは手痛い交換条件になった」

 ちくりと釘を刺され、俺はすかさず言った。

「……一体何から町を守るんですか」

「第一柱のバエルから」

 幾度となく発せられる「柱」という単語にも馴染みがなければ、ベレトが大言壮語な語気を込めてその名を呼んだ理由も判然としない。

「柱とは一体なんなんですか」

「古くに存在したと云われる七十二体の悪魔の事だ」

 現世の人間が悪魔の依代として異世界に召喚された。まるで用心棒を雇うかのような軽薄な考えのもとにバエルが召喚され、異世界の住民を蹂躙しているのならば、まさに浅薄と言わざるを得ず、あまつさえ俺を呼び出すなど言語両断だろう。

「ベレトさん、賭けにしてはリスクが大きすぎるでしょう」

「まぁ、召喚されたのが話のわかる人間で助かったよ」

 苦笑するベレトに俺はお手上げだった。

「それでも、闇雲に召喚した訳ではない。キチンと序列を守った上での召喚だった」

 俺を柱の「十四」と呼んでいた。数字がその序列を意味するなら、確かに俺はベレトより一つしたにある。配下に据えておくには最も卑近で一助とするのに格好な立場にあるようだ。

「コンコン」

 木の扉が軽はずみに鳴った。

「トラビスがきた」

 先刻の「号令」に従ってトラビスという名の人物が木の扉を叩いたらしい。

「君もこの世界に慣れる必要がある。部屋を用意してあるから、そこで先ずは足場を固めるがいい。そして、心穏やかにいろ。激しい感情の起伏は力の発露に繋がる」

 それを留意する事に全く不満はないが、もう既に衆目の前で糞を垂れたおかげで、五人もの人間を殺めた。手遅れと言っていいし、ベレトが召喚に伴う悩ましい一つの事項として挙げていたが、トイレに篭っていた人間を不躾にも召喚したのだ。人を殺めた責任の片棒を担がされるのはなかなかに解せない。

「いいですか。あの人達が死んだのは自業自得ですよ」

「はいはい」

 ベレトは子どもの駄々をあやすように、俺の背中を押して部屋の外へ追いやる。

「あとは頼んだよ。トラビス」

 トラビスと呼ばれるこの男、廊下で鉢合わせて広間に行く道中を共に歩んだ水先案内人であった。空焚きのフライパンの上でタコ踊りする姿と相違ない、薄氷の演技を披露して以来の二度目の邂逅は、隣人に挨拶を行うような親しげさを拙速に繕い、再会に因んだ杓子定規な言葉を間に合わせる。

「また会ったね」
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