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町猫紀行⑤
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今にも痰を吐き出しそうな丸みを帯びた背中は中肉中背を語るに落ち、肉が詰まった青いジーンズは横にふとましく張り出している。背中越しに性別を判断しようとするのは、時代錯誤な“差別的”意味合いを持つことを承知しつつ、私は男であると断言しよう。短く刈り上げられた頭髪と、踵が潰れたスニーカーの頓着がない様子から、普段から化粧で自身を着飾る女の審美眼とはかけ離れている。答え合わせに正面に回ってもらい、どれだけ醜悪な相貌をしているか知りたい気分だが、今は静観のときだ。撮影者は、決定的瞬間を待ち望んでおり、必ず犯行を取り押さえようと意気込むその姿勢に賛同するしかない。
動画を再生してから三分が経った頃、男は周囲の変化に鋭敏に反応し出し、挙動不審な動作が散見されだす。それは、後ろめたい行為をする前の前兆にしか見えず、撮影者は気取られることを嫌い、頭の先から爪先まで視界に入らぬように身を隠す。すると、親の目が届きやすい閑静な住宅街で、日頃から子ども達の遊び場としてよく利用されている、「木兎南公園」という名称の成人男性が足を運ぶには些か似つかわしくない場所にスルリと入園した。撮影者が求める答えに着々と近付いている気がしてならず、男に続いて「木兎南公園」へ足を運ばせる。
ブランコに滑り台、金網で区切られた砂場など、公園たらしめる光景が街灯の下に広がっている。そして、管理者の計らいによって、敷地を区切るように木々が植えられており、目に優しい緑が公園の周囲を彩っていた。死角となる場所は多く存在し、野良猫が立ち寄るには格好の場所であった。撮影者はとっさに身を屈め、姿が見えなくなった男の行方に目を配る。
形容し難い緊張が画面越しにも伝わってきて、手に汗を握って仕方ない。そんな中を撮影者は、薄氷の上を歩いているかのように、遅々とした歩行で前進し、間抜けにも公園を横断しようとする。もはやいつ視認されても不思議ではない行動に、私は野次を飛ばして叱責したい気分だった。それでも、園内は依然として静寂が佇み、撮影者を発見して慌てふためくような物音は聞こえてこない。もはや解決の機運すら感じさせる、淀みない撮影者の行進を見守る他なかった。
撮影者の視線の動きに合わせて左右に振り回されるカメラは間もなく、季節の折に発達した茂みを映す。監視カメラでは到底捉えられない、人の気配を察知した撮影者の知覚に唾を呑む。「木兎町」から始まった一連の不可解な出来事を決定付け瞬間が、刻々と近付いていることに対して、私は動画の再生時間を忘れて画面に釘付けとなった。
動画を再生してから三分が経った頃、男は周囲の変化に鋭敏に反応し出し、挙動不審な動作が散見されだす。それは、後ろめたい行為をする前の前兆にしか見えず、撮影者は気取られることを嫌い、頭の先から爪先まで視界に入らぬように身を隠す。すると、親の目が届きやすい閑静な住宅街で、日頃から子ども達の遊び場としてよく利用されている、「木兎南公園」という名称の成人男性が足を運ぶには些か似つかわしくない場所にスルリと入園した。撮影者が求める答えに着々と近付いている気がしてならず、男に続いて「木兎南公園」へ足を運ばせる。
ブランコに滑り台、金網で区切られた砂場など、公園たらしめる光景が街灯の下に広がっている。そして、管理者の計らいによって、敷地を区切るように木々が植えられており、目に優しい緑が公園の周囲を彩っていた。死角となる場所は多く存在し、野良猫が立ち寄るには格好の場所であった。撮影者はとっさに身を屈め、姿が見えなくなった男の行方に目を配る。
形容し難い緊張が画面越しにも伝わってきて、手に汗を握って仕方ない。そんな中を撮影者は、薄氷の上を歩いているかのように、遅々とした歩行で前進し、間抜けにも公園を横断しようとする。もはやいつ視認されても不思議ではない行動に、私は野次を飛ばして叱責したい気分だった。それでも、園内は依然として静寂が佇み、撮影者を発見して慌てふためくような物音は聞こえてこない。もはや解決の機運すら感じさせる、淀みない撮影者の行進を見守る他なかった。
撮影者の視線の動きに合わせて左右に振り回されるカメラは間もなく、季節の折に発達した茂みを映す。監視カメラでは到底捉えられない、人の気配を察知した撮影者の知覚に唾を呑む。「木兎町」から始まった一連の不可解な出来事を決定付け瞬間が、刻々と近付いていることに対して、私は動画の再生時間を忘れて画面に釘付けとなった。
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