Blood Of Universe

さがみ十夜

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Latus

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  Chapter.4: 
                 Latus





「お待たせしました、ロベラさん!」

フォメロスターミナルビルの一つ『イクス』は、全体的に青を基調とした内装で統一されていた。

開拓事業を目的とするオフィスビルだ。

「いや本当に申し訳ない!!急な来客がありましてな、いやはや…学生さんというのは好奇心旺盛で困ったものです!おかげでこんなにお待たせすることにっ」
「いやいや、大丈夫っすよ~」

イクスのフロントで棒付きキャンディを舐めていたウィッツは、リフトを降りて小走りに駆け寄って来た人物へ穏やかに笑いかけた。

鼻の下にちょび髭を生やした、小太りな男は汗を拭きながら右手を差し出す。

「初めまして、開拓事業部責任者のスクルニーです。いや~、純血の犬族【ドギー】に参加して頂けるとは!なんて言うんでしたかな、暖簾に腕押しですか!はははは!」

丸く突き出したお腹を揺らして、男が笑う。

色々違うし。

とは思ったが、ウィッツはあえて口を噤んだ。

「早速っすか!あんまりプレッシャーかけないでほしいんすけど~!あはは!」

心とは裏腹に笑顔を振りまき応じてみる。

男はそれに満足したようで、にこにこと笑みを返した。

「いやいや、何しろ純血はかなり稀少ですからね~!あの『聖戦』にはどの種族もかなりの打撃を…」
「あ、警備のワンコ」
「……!!」
「…大丈夫っすよ、遠かったし」
「ははっは…いやいや…とはいえ、やはり皇帝陛下の偉業によって今の我々の平和があるわけですからなっ!ははは!いと猛き陛下に栄光あれ!」

太った体を精一杯縮こまらせながら、男が腕を振るう。
ここ数年で挨拶として定着した、皇帝を讃美する拝礼の形だ。

「で、本題なんすけど。ターミナル南方、朱のラトスのレジャー事業とか楽しそうだなって思うんスけど…」
「ナルホドナルホド!しかしロベラさん、まずは土地をならして、そこからですよ!汚い土地に美しい建物は建たないものです」
「勿論すよ。だから、俺は南方の開発を優先的にやりたいな~ってことっす」

歩きながら会話をする二人の横を、何人かの職員がお辞儀をして通り過ぎる。
スクルニーがかなりの幅を取っているため、すれ違うのは至難の業だ。

「そうですねぇ、我々もあちらを大々的に手掛けたいとは思っているんですがねぇ…」
「何か問題でも?」
「あぁ、着いた…こちらが私のオフィスです…どうぞ」

周囲を警戒するように見回すと、スクルニーは素早く室内へ入り施錠をした。

「ここだけの話…アレですよ、テロリスト」
「…テロリスト?」
「声が大きい!…まぁテロリストといっても多種多様ですがね、やはり一番警戒しているのはアレですよ」

小声で話しているためか、今にも額がくっつきそうなほど接近されてウィッツは思わず引きつった笑いを浮かべる。

「ちょ、えぇっと…」
「墓場の亡霊、死者の葬列、色々呼び名はあります…まぁ本人達は墓守と言ってるようですがね、とんでもない話ですよ!!」

話しているうちに興奮してきたのか、スクルニーの声は普通程度に戻っている。
顔の近さは変わらないため、ウィッツは仕方なく顔の間に鞄をはさむことでその熱と汗を防御することにした。

「GRAVEYARD…あの、なんでもありなテロリスト集団です」
「あー…」
「絶滅寸前の種族ばかりの寄せ集めらしいですがね、主義主張もないような奴等なんで、行動が読みにくくて!とにかく、聖誕祭が終わるまでは、南方は手掛けにくいんですな」

ようやく体を離すスクルニーに安心しながら、ウィッツは得心したように手を打った。

「たしかに、ラトスのエリアは完全に未開発ですからねぇ…それで俺を…?」

意味ありげに言葉を切って視線を流せば、スクルニーも同意するように頷きながら窓の外へ目をやった。

急成長を遂げるフォメロス。

帝国設立と供に急遽建設されたターミナル周辺以外は、クレーターが点在し、赤茶けた土が露出している。

身を隠す場所など、数え上げればきりがないような状態なのだ。

だからこそ、ターミナルでは人の出入、物の流通とも常に厳戒体制が敷かれ、僅かでも不審な点があればフォメロスに踏み入ることは出来ないようになっている。

「開拓事業で、どうしても警備を弛めざるをえない。今の時期が一番恐いのですよ…何かあれば開拓事業自体が取りやめになるでしょうからね、それだけは避けませんと!」

力強く拳を握るスクルニーが、笑顔のウィッツを見て安心したように微笑む。

そうして、二人は固く手を握った。

「よろしくお願いしますよ、ロベラさん」
「任せていっすよ!開拓事業に興味あんのもホントっすからね」

ウィッツの顔に浮かぶのは、テロリストの話をしていたとは思えないほど軽い笑顔。

笑顔になるたび覗く鋭い八重歯を満足げに見やり、スクルニーは地図を広げた。

そこからは、両者とも真剣な表情で詳しい作業内容の打ち合わせに入っていく。






身振り手振りを交えながらの話し合いは2時間に及び、その間二人は時に笑い合いながらも休憩らしい休憩を取ることはなかった。







そして、もう一人。







そんな二人の様子を隠れて窺う影もまた、身動ぐことなく…そこにありつづけるのだった。






To be continue……
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