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第218話 神童ルカの危機

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 エントン王国側の新大砦ではまだ激しい戦闘が行われていた。

 「各部隊に告ぐ! 大砦の内部に精霊人形が侵入した! 戻れる者は迎撃にまわれ! ドワーフ部隊に不審な敵が居ないか探させろ! 精霊人形達を操る者が居る筈だ!! スィクスス! エイトス、ナインス、テンス! エルフのルルさんの下に行きハイポーションの在庫を全て大砦に運ばせろ! 重傷を負った者から治療するんだぞ!」

 「はっ!」 「直ぐにっ!」 「「「了解ですっ!」」」

 指令室の屋上では、ルカが未だに戦場を俯瞰し指示を飛ばし続けていた。 長時間に及ぶ凄まじい集中による疲労がルカの脳を襲う。

 先程から止まらない鼻血を袖で拭き、戦況を凝視する。

 (くそ! 援軍のおかげで戦況は有利になったが、まだ敵は20万はいる! しかも、動きが一気に変わった……やはり精霊人形を操る何者かが居るんだ。 何処だ……? 南か? いや、違うもっと近くに居る筈なんだ。 早く見つけないとこっちが疲弊してしまうぞ……どうする、考えろ、考えろ考えろ考えろ考えろ!)

 ガリガリとペンを走らせ地図に戦況を書くルカの目の前に、突如として壁を這い上がってきた精霊人形が襲い掛かった。

 「っ!? しまった狙いは私か!」

 「ルカ様!!」

 別の指示を終え、戻って来たセヴンスが間一髪の所で精霊人形の攻撃を防御する。

 しかし、セヴンスは武闘派の魔族だが支援要員だ。 精霊人形の力に負け、そのまま剣諸共袈裟斬りにされてしまう。

 「ぐぁっ?! ルカ様、逃げて下さいっ!!」 

 「セヴンス!!」

 ルカは倒れるセヴンスを抱き止め、腰に差した短剣を抜くが精霊人形の両手に付けられた剣と比べたら玩具である。

 「がはっ……自分はもう助かりません。 ルカ様……早く逃げ……」

 セヴンスは血を吐きながら意識を絶ってしまった。

 「セヴンス! しっかりしろ、セヴンス! ……すまん、許してくれ!」

 ルカはセヴンスを抱き上げ、屋上から下の味方に向かってそのまま落とした。

 「スィクスス、セヴンスを頼む!! ルルさんの所にあるハイポーションで治療してやってくれ!」

 突然呼ばれたスィクススは、直ぐ様状況を察し軽やかな動きで壁を蹴り登りセヴンスを受け止めた。

 「セヴンス!? わ、分かりました!」

 スィクススがセヴンスを運ぶのを見送ったルカは、向かって来る精霊人形に立ち向かう。 小さな短剣を構えるが、数秒後にはルカの骸が屋上に晒される事だろう。

 「ルルさん……すみません。 さらばです」

 精霊人形の剣がルカの首を斬る瀬戸際、2人の乱入者が現れルカに迫っていた剣を弾いた。

 「すみません、気付くのに遅くなりました!」

 「大丈夫ですか、ルカ殿!」

 「ルーデウス陛下! アーサー殿! 助かりました!」

 駆け付けたルーデウスとアーサーが精霊人形の前に立ちふさがる。

 「それでも不味いですね……」 「そうですね。 私達ではアレには勝てませんから」

 精霊人形は目標をルカだけに絞っているのか、2人を無視しもう一度ルカに向かって突撃した。

 「なっ!?」 「ルカ殿!」

 「やれやれ……其処までして、私を殺したいのか」

 まだ未熟なルーデウスとアーサーでは精霊人形を止めきれない。

 今度こそ死んだとルカは覚悟したが、何時の間にか走り出した筈の精霊人形の首が落ちた。

 「失礼するわねぇ。 貴方がルカさんね。 さっき合流したスィクススちゃんから聞いたわよ~。 セヴンスちゃんの事、ありがと~」

 突如として現れた黒ずくめの集団が屋上に現われ、ルカ達を囲んでいた。

 「あ、貴女方は……?」

 「申し遅れましたぁ。 私達は魔族の国にて、暗部を務める者達で~す。 私は初代ファーストよ~。 魔王様の命令で人間の大砦を守ってくれって言われたのよぉ。 スィクススちゃんに聞いたけど、貴方が戦場を把握してるのよねぇ? 私達は何をすればいいかしら」
 
 ルカは、囲む暗部の魔族達から発せられる凄まじい威圧感に笑みを浮かべた。

 「ぜひ、お願いしたい事があります! 戦場の何処かに精霊人形を操り細かい命令を下し始めた者が居ます。 その者を探して、殺して下さい!」

 「ふふふふ、暗殺ねぇ。 任せて、私達……そういうのが専門だから」
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