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第134話 迂闊なマリとジャック

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 アマンダ達が到着した日の夜、亡命する民達の受け入れをする為にルーデウスは騎士達を連れて王都に帰ってしまった

 「姉上に再会も出来ましたし、民達の受け入れ体制の確認もしなければいけません。 まだ暫くは僕が代理国王として務めますので姉上はゆっくり待っていて下さい」   

 笑顔で去っていったルーデウスをマリは少し寂しそうな顔で見送ったが、これも可愛い弟であり推しの成長が見られる姉の特権として受け入れた。

 ただ、去り際に「寂しい思いをさせてると思うので帰らないと……」と呟いていたのが何故か頭に残っている。

 アーサー城の与えられた豪華な部屋のベランダで景色を見ながらマリはため息を吐く。

 「はぁ~……ルニアさん達無事かな。 早く帰ってきて、皆で王都に帰りたいなー」

 マリはゴルメディア帝国の国境側を見つめる。

 この城の城主であるアーサー子爵も連合軍と共に黒騎士団とルニア侯爵達の援護に向かっている為、まだ挨拶も出来ていない。

 「あ! そうだ、未来見れたら……皆がどうなるか分かるかな」

 マリは思い付いた事をさっそく試す。

 部屋に戻り、未来を見に行く時の感覚を思い出す。

 目はうっすらと光り出し、視界が白くなり始めた瞬間。
 突如として目の前は闇に包まれ、目に激痛が走る。

 「あ、見えそっていったぁぁぁぁぁ?! 痛い痛い痛い!」

 マリが悲鳴を上げたと同時にジャックが飛び込んできた。
 マリは痛みから既に気絶し、床へと倒れる。

 「陛下! 大丈夫でございますか!? メリー! ヨハネを連れて来てくれ! 早く!!」

 倒れるマリを間一髪でジャックは支えた。

 目からはまた黒い靄が滲み出ており、ジャックは最悪の結末を想像してしまう。

 「早く! ダメだ、ダメだダメだ! 止まれ! 止まれ止まれ!」

 ジャックは必死に目から滲み出る靄を手で払おうとするが、触れる事も出来ずにマリの表情は青く悪くなっていく。

 「マリ様、しっかりして下さい! おい! メリー!! 早くヨハネを連れて来い!」

 「ジャック、連れて来ました!」

 「ジャック、その靄に余り触れようとするな。 メリー、降ろしてくれ。 マリを診てみる」

 ヨハネを担いだメリーが特急で駆け付け、直ぐに降ろされたヨハネが治療を始める。 

 「くっ! 呪いが進行し始めてる。 何故だ? アレは此処まで来れない筈。 数多の精霊、善なる精霊達よ、古き友が願う。 堕ちた同胞に蝕まれる者の苦痛を抑え一時の救いを与え給え」

 マリの目の上にかざすヨハネの手が緑に光り、魔法の呪文をヨハネは唱え続ける。

 「救い給え、真なる愛を持つ者の力を宿し給え、救い給え、救い給え……ふぅ、止まったようだね」

 ヨハネは額に大粒の汗を垂らし、顔色の戻ったマリを見て一安心する。 まだ身体が全快では無いヨハネは体制を崩し、床へと倒れそうになるがメリーが受け止めた。

 「キサラギ、感謝します。 して、陛下は大丈夫なのですか?」

 「……分からない。 呪いが何故進行したのか分からなければ……次は無いかもしれない」

 メリーの問の答えを聞いたジャックは、腕の中で眠るマリを見て湧き上がる感情に耐えられなくなった。

 ジャックは考えないようにしてきたが、マリは初恋の相手であり、今でも心から愛していた。再度己の気持ちに気付いたジャックは半狂乱でヨハネに助けを求める。

 「そんな……! 頼む、教えてくれ! 俺はどうすれば良い? 何をすれば陛下を助けられるんだ! 陛下は、マリ様は俺の全て何だよ!」

 「ジャック、落ち着くんだ。 今は呪いの進行は完全に止まってる。 君に出来るのは朝までマリの側から決して離れない事だよ」   

 ヨハネの返答にメリーもジャックも困惑する。

 「キサラギ? それが何故陛下の助けになるのですか?」    

 メリーの問いに答えるヨハネは、ジャックを真っ直ぐ見つめて応えた。

 「ふふ、さっき私が使った精霊魔法はね。 心から本当に愛している者が触れてないと効かない魔法なのさ。 何故、マリに効いたか……ジャック、君はもう分かっているだろう?」

 ジャックはずっとマリを抱きしめていることを思い出した。

 「いや、だが……それはお前の筈だ! お前が陛下の恋人だろう!」

 ジャックは分かっているが認めない。

 マリが選んだのはヨハネだという事実がジャックを苦しめていた。 

 「私はマリを愛しているよ。 でも、私以上にジャック……君の方がマリを愛している」

 ジャックは認めない。

 「違う。 俺じゃダメ何だよ、陛下が目覚めた時に居るべきはお前だ!」

 「私はこれ以上身体を動かせそうも無い。 ジャック、観念してくれ。 マリが大切なんだろ?」

 「だが……」

 煮え切らない様子のジャックにメリーがキレた。

 「うるさい! ジャックが陛下が好きなのは大昔から知ってます! さっさと陛下をベットにお連れしなさい! 絶対に離れない事!」

 「……分かった。 すまない、ヨハネを頼む」

 「ふふ、頼むよメリー医務室まで運んでくれ」

 ヨハネはメリーに運ばれて行き、ジャックはマリと二人っきりになった。 

 「陛下……失礼します」

 マリをベットに眠らせ、片手をしっかりと握り締める。

 「側にずっと居ます。 絶対に離れませんから、どうか良い夢を」

 ジャックの長い夜が始まった。
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