上 下
209 / 220

第203話 タリア達の決意

しおりを挟む
 「こっちだぞー!」

 「ほらほら、来い来い来い来いー!」

 翼竜王を倒したタリア達は肉の確保もすべく、ボスエリアの外である空に向かって叫んでいた。

 遠くの空では翼竜達が飛んでいるが、ボスである翼竜王が倒された為か一向に近付こうとしない。

 「いや……タリアは挑発の戦技が使えたよな……?」

 「……あ」

 アヤメの呟きにタリアは思い出したかの様に反応した。

 「「はぁ……、平和ボケですね。 勇者タリアよ」」

 カリンとコリンに冷たい目で見られながら、タリアは戦技を使用する。

 「いや、違うから! いくよ?! 挑発の角笛!」

 勇者専用戦技である挑発の角笛を使用すると、あれだけ警戒していた翼竜達は一斉にタリアだけに向かって飛んできた。

 翼竜王程ではなくとも、巨体が40以上も向かって来るのは中々に心臓に悪い光景だ。

 「ぎゃー! アヤメ、殺るよ!!」

 「はぁ……いや、あのさ。 セムネイル様に出会う前の、使命の為に! 民の為に! だって私は勇者何だから! っていうタリアより、絶対に今の方が良いんだけど……人ってこんなに変わるんだね~」

 以前は、人見知りで言葉使いも勇者らしかった。

 それが今や、愛し愛され変わり果てた勇者タリアを改めて見たアヤメはため息を吐く。

 「以前なら、あんな全力で挑発して全員を誘き寄せるなんてミスは無かったから」

 「やっぱり、平和ボケね」

 「いや、アヤメ達も大概だと思うんだけどー?! ほら、早く構えて! ごめんってばー!」

 挑発された翼竜達はタリアしか見えておらず、全ての攻撃がタリアに向かう。

 しかし、タリアは飛んでくる風の刃を難なく大剣で捌き切っておりセムネイルの言う通りタリア達は尋常じゃない程に強くなっていた。

 「はいはい、カリンコリンお願い」

 「「分かりました。 早く終えてセムネイル様達に合流しましょう」」

 ようやくアヤメ達が参戦し、ものの数十分で全ての翼竜を倒したのであった。

 ◆◇◆

 「セムネイル様ー! 全部倒せましたー!」

 タリアは上機嫌で竜の果実を集めていたセムネイルの下へと走る。

 「お、早かったな。 よし、セリス。 これぐらいにするか」

 「はい、貴方様。 かなり集まったので、当分は大丈夫でしょう」

 見渡す限り全て回収し終えたセムネイルは、タリア達が倒した翼竜の回収に向かう。

 「あ、あの……セムネイル様」

 すると、歩きながらタリアが何やら気まずそうに口を開く。

 「ん? どうした、タリア」

 「私達、本当に凄く強くなってました」

 「おう、知ってるぞ」

 「……ありがとうございます」

 改めてお礼を言うタリアの頭をセムネイルは撫でながら歩く。

 「礼は不要だ。 4人共、俺の大切な妻達だからな」

 「……えへへ」

 「くっくっくっ、タリアは可愛いな」

 「ふふ、タリアさん顔が真っ赤ですよ」

 嬉しそうに笑うタリアを見て、セムネイルとセリスは微笑む。

 しかし、タリアは真剣な表情になり本当に話したかった事を口にする。

 「後、その……実は、アヤメ達と話し合いまして」

 「……ん?」

 「ハヤと同じ様に、夜以外は冒険者として4次元の外に行っても良いでしょうか……」

 タリアの切り出した話しにセムネイルは首を傾げる。 

 セリスは何かを察し、黙って後ろに下がった。 邪魔をすべきでは無いと判断したのだろう。

 「それは……何故だ?」

 「私は……勇者です。 望んでなった訳ではありません」

 「そうだな」

 「それでも、魔物に襲われた村や町を助けたり……力の無い人々を救う事だけは誇りに思っていました」

 セムネイルは黙ってタリアの言葉を待つ。

 「前は上級の魔物相手にするのにも命がけだったのが、今の私達は竜すら楽に倒せる力をセムネイル様から貰えました」

 「……そうだな」

 「だから、欲が出てしまいました。 今も、魔物に苦しめられている人々がこの世界には居ます。 きっと、セムネイル様が出会った人々は救われるでしょうが……他の場所に居る人々は救われません。 だから……魔王の使徒として、様々な場所に赴きたいのです」

 セムネイルは既に理解している。

 隣に立つ女勇者タリアは決意したのだ。 手にした力を確認した今、救える命が増えたなら救う為に旅に出ると。

 「それは……アヤメ達も賛成なんだな?」

 「……はい」

 セムネイルは思い悩む。

 確かに、タリア達は強くなっている。 今の世界基準の上級に値する魔物はどれも最早敵では無い。

 しかし、もし魔神や神に襲われたら。 もし、魔族や魔王に襲われたら。 

 そんな不安がセムネイルの胸を襲う。

 ハヤとは違い、街の近くの依頼を受ける訳では無い。 もし、夜になってもタリア達が4次元に帰って来ない事態になってもセムネイルは直ぐに助けには行けれないのだ。

 妻達の安全を最優先に考えるなら、許可する訳にはいかない。

 だが、力無き人々を救いたいというタリア達の想いを無下にして良いのかも判断出来なかった。

 「……幾つか条件を出す。 先ず、今の装備はまだ貧弱過ぎる。 このダンジョンでタリア達に渡せる装備をリセマラで手に入れておくから、それまで待っていてくれ。 それと……必ず夜には4次元の家に帰って来い」

 「それだけ……ですか?」

 「最後のは絶対だからな? じゃないと、世界を滅ぼすぞ? なんたって俺は極悪非道な魔王だからな?」

 冗談めかしたセムネイルの言葉に、タリアは笑う。

 「はい! 必ずセムネイル様の下に帰りますから」

 「なら構わん。 準備が出来たら、行って来い」

 セムネイルは願う。

 自分の手が届かぬ場所で、愛しい妻達に災いが降りかからないことを。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

親友に彼女を寝取られて死のうとしてたら、異世界の森に飛ばされました。~集団転移からはぐれたけど、最高のエルフ嫁が出来たので平気です~

くろの
ファンタジー
毎日更新! 葛西鷗外(かさい おうがい)20歳。 職業 : 引きこもりニート。 親友に彼女を寝取られ、絶賛死に場所探し中の彼は突然深い森の中で目覚める。 異常な状況過ぎて、なんだ夢かと意気揚々とサバイバルを満喫する主人公。 しかもそこは魔法のある異世界で、更に大興奮で魔法を使いまくる。 だが、段々と本当に異世界に来てしまった事を自覚し青ざめる。 そんな時、突然全裸エルフの美少女と出会い―― 果たして死にたがりの彼は救われるのか。森に転移してしまったのは彼だけなのか。 サバイバル、魔法無双、復讐、甘々のヒロインと、要素だけはてんこ盛りの作品です。

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

ぽっちゃり無双 ~まんまる女子、『暴食』のチートスキルで最強&飯テロ異世界生活を満喫しちゃう!~

空戯K
ファンタジー
ごく普通のぽっちゃり女子高生、牧 心寧(まきころね)はチートスキルを与えられ、異世界で目を覚ました。 有するスキルは、『暴食の魔王』。 その能力は、“食べたカロリーを魔力に変換できる”というものだった。 強大なチートスキルだが、コロネはある裏技に気づいてしまう。 「これってつまり、適当に大魔法を撃つだけでカロリー帳消しで好きなもの食べ放題ってこと!?」 そう。 このチートスキルの真価は新たな『ゼロカロリー理論』であること! 毎日がチートデーと化したコロネは、気ままに無双しつつ各地の異世界グルメを堪能しまくる! さらに、食に溺れる生活を楽しんでいたコロネは、次第に自らの料理を提供したい思いが膨らんできて―― 「日本の激ウマ料理も、異世界のド級ファンタジー飯も両方食べまくってやるぞぉおおおおおおおお!!」 コロネを中心に異世界がグルメに染め上げられていく! ぽっちゃり×無双×グルメの異世界ファンタジー開幕! ※基本的に主人公は少しずつ太っていきます。 ※45話からもふもふ登場!!

レディース異世界満喫禄

日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。 その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。 その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

追放された英雄の辺境生活~静かに暮らしたいのに周りが放ってくれない~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
自分の家族と民を守るために、戦い続けて戦争を終わらせた英雄アイク。 しかし、国に戻ると……褒賞として、彼は辺境で領主を命じられる。 そこは廃れた場所で田舎で何もなく、爵位はもらったが実質的に追放のような扱いだった。 彼は絶望するかと思ったが……「まあ、元々頭も良くないし、貴族のあれこれはわからん。とりあえず、田舎でのんびり過ごすかね」と。 しかし、そんな彼を周りが放っておくはずもなく……これは追放された英雄が繰り広げるスローライフ?物語である。

転生先が森って神様そりゃないよ~チート使ってほのぼの生活目指します~

紫紺
ファンタジー
前世社畜のOLは死後いきなり現れた神様に異世界に飛ばされる。ここでへこたれないのが社畜OL!森の中でも何のそのチートと知識で乗り越えます! 「っていうか、体小さくね?」 あらあら~頑張れ~ ちょっ!仕事してください!! やるぶんはしっかりやってるわよ~ そういうことじゃないっ!! 「騒がしいなもう。って、誰だよっ」 そのチート幼女はのんびりライフをおくることはできるのか 無理じゃない? 無理だと思う。 無理でしょw あーもう!締まらないなあ この幼女のは無自覚に無双する!! 周りを巻き込み、困難も何のその!!かなりのお人よしで自覚なし!!ドタバタファンタジーをお楽しみくださいな♪

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...