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第52話 希望と絶望

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 「怯むな! 幾ら強くても魔物も生き物だ! 槍で突き続ければいつか必ずあびゃっ?!」 

 果敢にミノタウロスを槍で刺していた兵士が、ミノタウロスの持つ大斧に盾ごと潰される。 

 「城門前まで退けぇぇぇ!! 竜の尻尾達も後退しましょうぞ! 援軍が来る筈です!」

 衛兵長ザモンが歩兵達を後ろに下がらせる。

 戦闘が開始して数分、一気に押し寄せた魔物達によって最初の防衛ラインは瞬く間に突破された。

 城壁の上からは矢が雨の様に降り注ぐが、残念ながら上級の魔物には殆ど効果は無かった。

 「ちっ、流石に数が多すぎる! おい、お前等先に下がれ! おりゃ! 魔人斬り!!」

 リーダーのブッチが大剣を振り回し、ブラックゴブリンキング達を牽制する。

 「でもよ、リーダー! 下がった所で、城門まで行かれたらお終いじゃねっすか? うぉっ! 危ねえ! 影避け!!」

 ルーザーが2本の魔剣でミノタウロスと危なげ無く戦いながら進言する。 その間にもミノタウロスの大斧が頭をかすり、間一髪の所で避けた。 直後、ミノタウロスの両目に矢が刺さり苦悶の悲鳴を上げる。

 「速射!! ルーザー、油断しない! でも、確かにルーザーの言う通り。 私達が前線から下がったら一瞬で後ろの兵達は死ぬ」

 ブッチとルーザーの背後からは、メルディが魔力で精製した矢を弓で放ち援護している。

 「ほっほっほ、絶体絶命。 まぁ、何時もの事ですな! 火の精霊よ、力を貸し給え、火球ファイヤーボール!」

 魔法使いのリックは笑いながら杖から火球を放ち、近付くブラックゴブリンを焼き払う。

 戦闘が始まってから既に10体以上の魔物を竜の尻尾達だけで倒しているが、焼け石に水だ。

 横から回り込んだ魔物に、歩兵達が小枝を折るように殺されていく。

 「はっはっは! やべぇな! メルディ! ギルマスは来たか?!」

 「ごめん! 流石にもう聞いてる暇無い!」

 「だよなぁ! ははははは!!」

 ブッチは絶体絶命な状況にも関わらず、笑いながらブラックゴブリンキング達と斬り合う。

 「悪い待たせた!! 冒険者ギルドマスターゼゴンだ! Sランク冒険者パーティ竜の尻尾だな!」

 其処に武装した冒険者達がようやく到着した。

 「お! あんたがゼゴンか! 俺はリーダーのブッチ! こんな状況だが、よろしく頼む!」

 「街に着いた途端にこんな状況を任せてすまん! AランクとBランクの冒険者達を連れてきた! 何とか押し止めるぞ!!」

 「おっし! 戦技を使える奴は俺達と来い! 使えねぇ奴等は後ろから援護してくれ!!」

 ブッチ達の後ろに続き、恐れ知らずの冒険者達が一斉に武器を構え魔物達に襲い掛かる。

 「へっ! 少し希望が見えてきたな!」

 歩兵達も後方から援護し、魔物の動きが止まった所を突き刺す。ようやく形勢が人間達に傾き、犠牲を出しながらも城門を防衛し続ける。

 ◆◇◆

 戦闘が始まって暫く経ち、魔物の死体も増えた頃、後ろの魔物達の動きが突然止まった。

 「あん? 何だ?? 何で動きを止めやがる」

 ブッチが異常な状況に困惑する。

 魔物は本能で動く生き物だ。

 目の前に人間が居れば、全力で殺そうとするし。
 殺さない限り、手を休める事は無い。

 「ブッチ……何か、凄く嫌な予感する」

 「奇遇っすね。 あっしもっす」 

 「リーダー……あの魔物達、何かおかしいですよ」

 リックが忠告した直後、後方のブラックゴブリンキング達やミノタウロス達は二手に別れて城壁沿いに走り出した。

 「はぁぁぁっ?! おい、ゼゴン! この街に城門は何個ある?!」

 「3つだ! 此処が1番大きな城門……まさか! 魔物がそんな知恵を働かせるのか!?」

 ブッチに問われ、答えたゼゴンは顔を青ざめる。

 「衛兵長ザモン殿! 魔物が残りの2つある城門に向かった! 警報を発しろ!!」

 「何だと!? 残りの2つは住民達が避難しているんだぞ!? 直ぐに伝令を送れ!! 城門を閉めるんだ!!」

 ザモンに指示された城壁の上に居る兵達が慌てて伝令を走らせる。

 「くそ! このブラックゴブリン達は囮かよ! 此処に戦力が集まるのを待ってたんだ!!」

 「あり得ない、でも事実。 リーダー、どうする」

 「あっしなら、追いつけやすよ?」

 「メルディ、ルーザー、すまん。 城壁の上に登って奴等より先に着いて住民達を守ってくれ! 俺とリックは此処に居る残りを片付ける! ゼゴン! お前達は街の中に行け! 住民を街中央の頑丈な建物に避難させろ!」

 「すまん! お前達、街に戻るぞ! 避難誘導をしている筈の低ランク冒険者達と合流し、急いで街中央に誘導する!」

 「「「「「おう!!」」」」」

 ギルドマスターゼゴンは冒険者達を引き連れて街へと急ぐ。

 「じゃあ、リーダー。 もし死んでたらあっしの骨は、亜人のかわい子ちゃん達が沢山いる売春宿に撒いてくだせい!」

 「ルーザー、それ、店に迷惑。 後、最低」

 ルーザーとメルディはSランク冒険者に相応しい身体能力で城壁を駆け上がり、別の城門へと向かった。

 「よっしゃぁぁぁぁ! 全力でやってやらぁぁ! 鬼人化!」

 残ったブッチは切り札の1つを切り、身体能力を強化した。
 身体からは赤い蒸気が昇り、凄まじい速度で残ったミノタウロスを斬り捨てた。

 「ふぅ……魔力も残り少ないですが。 やるしかありませんよね! 雷の眷族にして、空の申し子、我が手のひらに一時の間雷を宿し給え。 雷鞭サンダーウイップ

 リックは手のひらに雷の鞭を付与し、襲い掛かるブラックゴブリン達を黒焦げにする。

 「流石、Sランク冒険者。 もし、彼等が居なければ我等は数分と保たずに全滅していたな。 それでも……あの男が戻って来てくれたなら」

 衛兵長ザモンはSランク冒険者達の実力に畏怖しながらも、遠くの大迷宮に入っている男の帰還を望まずにはいられなかった。
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