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真央の親は親バカ

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「ただいまーー」
「おかえり!」
「お邪魔します」

いつものように言ったが、この後に言おうと思っている言葉でオレの心臓はばくばくしている。

「ママ、友達連れてきた」
「…………え? ええ!? あの真央が!?」

姿は見えないが、相当驚き慌てていることがわかった。

「…………ママ」
「あっ」

やらかした。
羞恥で頬が染まる。
どんな反応をされるのかと思うと俊介の方を振り向けない。

オレだって、好き好んでママと呼んでいるわけではない。
そう呼ぶようにとうるさいから言われたとおりに呼んで、定着しているだけ。
外ではしっかり母さんと言っていたのに気が抜けていた。

いや、ここで母さんと呼んでも態々装っているのだとママにバレて恥ずかしいけど。
どっちがまだマシなのかという話である。

なんて言い訳しようかとぐるぐる考えながら俊介をオレの部屋へと連れて行く。




「ここがオレの部屋です、どうぞ」

座椅子を俊介に勧め、オレはクッションに座る。

「小説や漫画がいっぱいだな」
「うん、好きだから」

オレのママ発言が流されてよかったのか、それともいいわけできないと嘆くべきなのか判断に迷う。

「へぇ、手に取って読んでもいいか?」
「うん、読みながらお菓子とジュース飲も………………まって!?」

オレは部屋を、人を招く前提で作っていないのだ。


「あ?」

俊介の手にはしっかりとオレが取ってほしくなかった本があり、しかもそれは既にパラパラと捲られていた。

「ああああ!! それR-18!! しかもめちゃくちゃハードなやつぅ!!」

なんでそんなピンポイントで手に取るの!?

今、オレの顔はトマトのごとく真っ赤だろう。
机に突っ伏しているから俊介からは見えていないと思うけど。

そんなオレをお構いなしに俊介は最後のページまでパラパラとめくり終わると、何事もなかったかのようにその本を持った状態で座椅子に座る。

あ、それ読む?




沈黙が辛い。


ゆっくりと俊介が口を開く。

「真央は、こういうのが好きなのか?」
「うん、こーいうの読むのめちゃくちゃ好き、ですね」

友達にバレたことはとても恥ずかしいけど、腐男子であること自体は恥ずかしくないから、もう即答してしまう。
顔はまだ上げられないけど。

「真央は、男性が恋愛対象なのか?」

やたらと真剣に尋ねてくる。

「う~ん? わかんないかな。まだ恋愛とかしたことがないから」

きょとんとする。
正直、恋愛対象が男か女かなんて考えたことがなかった。

「俺はそういうのに偏見ないからな」
「うん」

こくりと頷いたが、なんでこんな真面目な雰囲気になったんだろうと疑問で仕方がない。



ガチャ。

「失礼しまーす」

いきなり開いた扉に不意を突かれ、二人で一緒に音の方を向く。

「ママ!?」

にっこりと笑顔で躊躇いなく入ってくる。

「いや、真央ちゃんのお友達にちょっと話聞きたいなぁって思って」
「え、あ、はい」

ほら、俊介戸惑ってるじゃん!


ママはオレの隣に勝手に座る。

「ぶっちゃけ真央、全然友達いないじゃない。今日初めて連れてきたのよ。真央、学校でうまくやれてる? 大丈夫?」

初めて連れてきたは言わなくてよかった!! ママ余計!! やめて!?

ママの肩をがくがくと揺さぶるオレなんてお構いなしに、二人が会話する。

「はい、大丈夫です」
「いじめられてない?」
「不良校なので心配だとは思いますが、一般人には手を出さない、が暗黙のルールで破ったヤツは制裁を受けます。なので大丈夫です。それに、もし万が一があっても、真央は俺が守ります!」
「………………そう? わかったわ。ありがとうね」

ママはまたにっこりと笑うとそれだけを言ってオレの部屋を出て行った。


ママが一階に降り終わり、此方の声が聞こえないだろう距離になったところで。

「……嵐のような人だな」

ぽつりと俊介が言う。
ただの感想なのが救いか。

「ごめんね……」
「いや、温かい母親だな」

そう、親バカで息子のオレも呆れるくらいだけど、温かい。
だから頷く。

「うん」

ガチャ。

「ごめんなさい、聞くの忘れてて。あなた何君?」

オレと俊介の肩が跳ねる。

「え、あ、俊介です」
「俊介君、夕ご飯食べてく?」
「いいんですか? ありがとうございます」

息子のオレから見ても嵐のように現れて去っていく。
それも一方的に。
いや、初めて友達を連れてきたオレに浮かれているんだろうけど、それにしても一方的すぎだ。

「なんか、ほんと、ごめんね……」
「いや、真央と一緒に居られる時間長いの嬉しいから大丈夫」

俊介は本当にいい奴だと思う。



今日はオレの好きな肉じゃがだ。

「「「いただきます」」」

オレは自然と頬が緩む。
うん、味がよく染みていてとても美味しい。

「美味しいです」

俊介の微かに震えた声にオレははっとする。
そうだ、俊介はとても不健康な生活を送っていた、しかも一人暮らしで手料理なんて食べていなかったのだ。
そりゃ手料理がとても美味しいだろう。

「あら、よかった」
「うん、よかった」

ママと被り、お互いに顔を合わせて笑う。


「なんで真央もよかったなんだ?」
「これ、オレの好物なんだ」
「そうなのか。よし、覚えた」
「別に覚えなくていいよ」

俊介があまりにも真剣な様子で言うから、そんなに必死にならなくてもと笑う。



食べ終わって一息ついたら、俊介が帰ることになった。

「真央、今日はありがとう」

もう春だが、まだ夜は肌寒い。

「オレの方こそ、ありがとう。とても楽しかった」

色々と恥ずかしいことはあったけど、それを上回るほどの楽しい時間だった。
オレはまた一緒に遊びたいと思うが、俊介はどうだろう。


「…………また、来ていいか」
「勿論!!」

感情は沢山あるのに、あまり表情に反映されない俊介がはっきりと笑顔になる。


「嬉しい?」
「ああ、嬉しい。ありがとう」
「うん。オレも友達とまた遊べるの嬉しい」

ふへへと声が漏れる。
なんだか照れ臭い。

「じゃあまた明日」
「また明日」




俊介が帰ってから約十分後、パパが帰ってきた。

「ただいま~」
「「おかえり~」」

パパは社長秘書をしているから、帰る時間ははっきりとしない。
それでも、今日は連絡が欲しかった。
知っていたら俊介を後十分だけでもと引き留めていたのに。

「ねえパパ、今日真央ちゃんが友達連れてきたの!」
「おお、初めてじゃないか!」
「…………」

やっぱり、引き留めなくてよかったかもしれない。
親に友達事情を知られるのは恥ずかしい。


「真央~、今日も社長の親バカが凄くてさぁ」

オレはパパの社長への愚痴を毎日のように聞く役だ。

「今ちょっとグレて不良になっちゃってるけどかっこいいとか、真央はめっちゃ可愛いし! 髪がオールバックで、そこから滲み出る色気が凄いんだとか、そんなこと知らないよ!純粋な方がいいよ、真央の方がいいよ! っていうか、何回同じこというんだよ!!」

オレはこくこくと頷く。
パパも結構な親バカだから、人のこと言えないだろうに、と思いながら。
でも言うと余計ヒートアップして親バカ丸出しになるから言わない。



パパの社長さんへの愚痴は同族嫌悪も入っていると思う。




オレ、名前すら知らない相手のことをめっちゃ知ってて詳しいという自信がある。
それくらい長い間、オレは愚痴聞き係だ。





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