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第一章 『私のまほう使い』
④ 『家族』
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「ただいま~!」
我が家にたどりつくと、私は帰ってきたことを元気な挨拶で伝える。何事においても、挨拶は大事なのです。
「おかえりなさい、アミィ」
まずは、お母さんが満面の笑顔で応えてくれた。
私のお母さん――カリナは、いつも笑顔を絶やさない美人で、私のあこがれでもある。
私の白い肌と金色の髪は、お母さんからもらったもので、二人で買い物にでかけたりすると、みんなにそっくりだねと言われるんだ。
「おかえり。今日も頑張って勉強してきたみたいだね、アミィ」
夕方からのお店で出す料理を準備していた、お母さんと比べると少しだけ肌黒で、短くまとめたうす茶色の髪のガッシリとしたこの男の人が、私のお父さんである、バリード。
私はもちろん、お母さんよりも頭一つ分以上体が大きいくらい背も高いので迫力があるけれど、すごく優しいお父さんなのです。
「うん。一生懸命に勉強してきたよ! それに、お母さん達が持たせてくれた材料で、アゼルにシチューを作ってあげたら、お代わりまでしてくれたんだぁ」
私は簡単に今日の出来事を二人に話すと、手洗い場で手を洗い、いったん自分の部屋に行く。
かわいい小物とぬいぐるみがかざられた部屋の机にカバンを置き、明日の時間割を確認して、使わないものを抜いて机のブックエンドに立てかけ、必要な教科書とノートを代わりにカバンにきちんと入れて明日の準備をしておく。そしてもう一度カバンの中身を確認。
うん。出来る女の子は、当日の朝に慌てて準備をしたりはしないのだ!
そしてもう一度私は手洗い場に向かい、再び手を洗う。
なんで二回も手を洗うのか? それは、これから食材に触れるから。
「お父さん、お母さん。野菜の皮むきを手伝うね」
私がそう言うと、お父さんはにっこり笑って、「ありがとう。お願いするよ」とお店のキッチンの入り口にかけてあるエプロンを取ってくれた。
「今日はコロッケがおすすめ料理だから、すごくありがたいわ」
お母さんはじゃがいもがたくさん入ったオケの横に、私用のイスを用意してくれている。
私は自分専用の小さなナイフをキッチンの棚から取り出し、イスに腰掛けてお母さんの横でいっしょに皮むきを始める。
よぉーし、がんばるぞ!
「ところで、アミィ。アゼル君があなたのシチューをお代わりしてくれたって言っていたけれど、明日のメニューは何にするか決めているの?」
「もちろん、もう決めているよ。明日は、卵料理で行こうと思うんだ」
お母さんと楽しく会話をしながらも、私達はじゃがいもの皮むきを手早く進めていく。
何度も何度も練習をしてきたおかげで、私もお母さんのように話しながらでも上手に皮むきができるのだ。
でも、私がじゃがいも一つの皮むきを終わらせる間に、お母さんは三つ終わらせている。
ぬぅ。まだまだお母さんには敵わない。それに、お父さんはそんなお母さん以上に作業が早いので、これからもその差を縮められるように練習しないと!
「卵料理ね。それなら、『ウッフ・ア・ラ・コック』が簡単よね」
お母さんが言う料理、ウッフ・ア・ラ・コックというのは、卵をふっとうしたお湯で三分ほど茹でて、エッグスタンドに乗せて上の部分のカラをナイフで切って作る料理だ。
細長く切ったパンにそれをつけて食べるととても美味しいのだ。
「うーん、たしかに簡単だけれど、それだけじゃあ卵料理として寂しいと思うの。だから、やっぱりここは、定番だけれどオムレツにしようかなぁって思っているんだ」
「なるほどねぇ。それなら、ジャーマンオムレツが良いんじゃあないかしら?」
「あっ、それすごく良い! 食べごたえもあるし!」
私はお母さんのアイデアを採用することを決めた。
ジャーマンオムレツ。
それは、卵とじゃがいも、たまねぎ、さらにウインナーが奏でる味のハーモニー! 調理時間もさほどかからず、けれど食べごたえがあって美味しい料理。
ああっ、塩コショウで味付けされたホクホクのじゃがいもと美味しい肉汁があふれ出てくるウインナーにケチャップの美味しさが加わった味を想像したら、それだけでヨダレが出てきそうになる。
「あっ、でも、今日はコロッケがおすすめ料理なんだよね? だとしたら、じゃがいもが続くことに……」
アゼルはいつもうちのお店に夕食を食べにやってくる。だから私はその事を心配したのだけれど、お母さんはニヤリと笑う。
「大丈夫よ! 今日はアゼル君にはお肉料理を出すつもりだから。ねぇ、あなた」
「ああ。熟成肉がちょうどいい具合だから、ぜひアゼル君に味わってもらいたいんだよ」
お母さんとお父さんは、アゼルの事を決して呼び捨てにしない。それに、他のお客さんより少しだけひいきにしている。それには理由があって……。
「良い、アミィ?」
不意にお母さんは真剣な声で言うので、私の考えは中断してしまう。
「今日、アゼル君は美味しいお肉を食べて満足するはずよ。でも、他のお客様がコロッケを食べているのを見て、それもいいなぁと思ってしまうはず。そんな気持ちの中で、翌朝、あなたが美味しいジャーマンオムレツを作って食べさせてくれたら、普段以上に好感度が上がるわ、絶対に!」
「そっ、そうだね! 絶対アゼルはじゃがいもを食べたくなっているはずだもんね!」
「そうよ。コロッケは流石にまだあなた一人で作らせるのは危ないし、後始末も大変だから朝食向きではないしね」
お母さんの言葉に、私は気合が入る。でも、心配な点も浮かんでしまった。
「でも、アゼルは、やっぱりコロッケが良かったとか思ってしまわないかな?」
「そこは心配いらない! コロッケはじゃがいもにひき肉を入れてさらにうま味を加えるが、ジャーマンオムレツに加えるウインナーはうちの特製のもので、ただの挽肉以上に美味しいはずだからね」
ふとよぎった私の不安を、お父さんの一言が払ってくれた。
そうだ、私も大好きなうちの特製ウインナーは最高の味だ! それを使えばコロッケ以上においしいジャーマンオムレツが出来るに違いない。
「アミィ。しっかりとアゼル君をつかまえておくのよ!」
「そうだよ。あんな好青年はなかなかいないからね。それに、アミィのもう一つの夢をかなえることにも繋がるだろうから」
うん。さすがは私のお母さんとお父さん! 娘である私の事をしっかり考えてくれている!
「うん! 絶対に私はアゼルのお嫁さんになる! そして、魔法使いにもなるんだから!」
そう。これが私の二つの夢なんだ。お嫁さんと魔法使い。どっちもかなえてみせる。
アゼルといっしょならそれがかなうのだ。
だって、アゼルはものすごい『魔法使い』なのだから。
そして、今日もまた、魔法を教えに来てくれるのだから。
我が家にたどりつくと、私は帰ってきたことを元気な挨拶で伝える。何事においても、挨拶は大事なのです。
「おかえりなさい、アミィ」
まずは、お母さんが満面の笑顔で応えてくれた。
私のお母さん――カリナは、いつも笑顔を絶やさない美人で、私のあこがれでもある。
私の白い肌と金色の髪は、お母さんからもらったもので、二人で買い物にでかけたりすると、みんなにそっくりだねと言われるんだ。
「おかえり。今日も頑張って勉強してきたみたいだね、アミィ」
夕方からのお店で出す料理を準備していた、お母さんと比べると少しだけ肌黒で、短くまとめたうす茶色の髪のガッシリとしたこの男の人が、私のお父さんである、バリード。
私はもちろん、お母さんよりも頭一つ分以上体が大きいくらい背も高いので迫力があるけれど、すごく優しいお父さんなのです。
「うん。一生懸命に勉強してきたよ! それに、お母さん達が持たせてくれた材料で、アゼルにシチューを作ってあげたら、お代わりまでしてくれたんだぁ」
私は簡単に今日の出来事を二人に話すと、手洗い場で手を洗い、いったん自分の部屋に行く。
かわいい小物とぬいぐるみがかざられた部屋の机にカバンを置き、明日の時間割を確認して、使わないものを抜いて机のブックエンドに立てかけ、必要な教科書とノートを代わりにカバンにきちんと入れて明日の準備をしておく。そしてもう一度カバンの中身を確認。
うん。出来る女の子は、当日の朝に慌てて準備をしたりはしないのだ!
そしてもう一度私は手洗い場に向かい、再び手を洗う。
なんで二回も手を洗うのか? それは、これから食材に触れるから。
「お父さん、お母さん。野菜の皮むきを手伝うね」
私がそう言うと、お父さんはにっこり笑って、「ありがとう。お願いするよ」とお店のキッチンの入り口にかけてあるエプロンを取ってくれた。
「今日はコロッケがおすすめ料理だから、すごくありがたいわ」
お母さんはじゃがいもがたくさん入ったオケの横に、私用のイスを用意してくれている。
私は自分専用の小さなナイフをキッチンの棚から取り出し、イスに腰掛けてお母さんの横でいっしょに皮むきを始める。
よぉーし、がんばるぞ!
「ところで、アミィ。アゼル君があなたのシチューをお代わりしてくれたって言っていたけれど、明日のメニューは何にするか決めているの?」
「もちろん、もう決めているよ。明日は、卵料理で行こうと思うんだ」
お母さんと楽しく会話をしながらも、私達はじゃがいもの皮むきを手早く進めていく。
何度も何度も練習をしてきたおかげで、私もお母さんのように話しながらでも上手に皮むきができるのだ。
でも、私がじゃがいも一つの皮むきを終わらせる間に、お母さんは三つ終わらせている。
ぬぅ。まだまだお母さんには敵わない。それに、お父さんはそんなお母さん以上に作業が早いので、これからもその差を縮められるように練習しないと!
「卵料理ね。それなら、『ウッフ・ア・ラ・コック』が簡単よね」
お母さんが言う料理、ウッフ・ア・ラ・コックというのは、卵をふっとうしたお湯で三分ほど茹でて、エッグスタンドに乗せて上の部分のカラをナイフで切って作る料理だ。
細長く切ったパンにそれをつけて食べるととても美味しいのだ。
「うーん、たしかに簡単だけれど、それだけじゃあ卵料理として寂しいと思うの。だから、やっぱりここは、定番だけれどオムレツにしようかなぁって思っているんだ」
「なるほどねぇ。それなら、ジャーマンオムレツが良いんじゃあないかしら?」
「あっ、それすごく良い! 食べごたえもあるし!」
私はお母さんのアイデアを採用することを決めた。
ジャーマンオムレツ。
それは、卵とじゃがいも、たまねぎ、さらにウインナーが奏でる味のハーモニー! 調理時間もさほどかからず、けれど食べごたえがあって美味しい料理。
ああっ、塩コショウで味付けされたホクホクのじゃがいもと美味しい肉汁があふれ出てくるウインナーにケチャップの美味しさが加わった味を想像したら、それだけでヨダレが出てきそうになる。
「あっ、でも、今日はコロッケがおすすめ料理なんだよね? だとしたら、じゃがいもが続くことに……」
アゼルはいつもうちのお店に夕食を食べにやってくる。だから私はその事を心配したのだけれど、お母さんはニヤリと笑う。
「大丈夫よ! 今日はアゼル君にはお肉料理を出すつもりだから。ねぇ、あなた」
「ああ。熟成肉がちょうどいい具合だから、ぜひアゼル君に味わってもらいたいんだよ」
お母さんとお父さんは、アゼルの事を決して呼び捨てにしない。それに、他のお客さんより少しだけひいきにしている。それには理由があって……。
「良い、アミィ?」
不意にお母さんは真剣な声で言うので、私の考えは中断してしまう。
「今日、アゼル君は美味しいお肉を食べて満足するはずよ。でも、他のお客様がコロッケを食べているのを見て、それもいいなぁと思ってしまうはず。そんな気持ちの中で、翌朝、あなたが美味しいジャーマンオムレツを作って食べさせてくれたら、普段以上に好感度が上がるわ、絶対に!」
「そっ、そうだね! 絶対アゼルはじゃがいもを食べたくなっているはずだもんね!」
「そうよ。コロッケは流石にまだあなた一人で作らせるのは危ないし、後始末も大変だから朝食向きではないしね」
お母さんの言葉に、私は気合が入る。でも、心配な点も浮かんでしまった。
「でも、アゼルは、やっぱりコロッケが良かったとか思ってしまわないかな?」
「そこは心配いらない! コロッケはじゃがいもにひき肉を入れてさらにうま味を加えるが、ジャーマンオムレツに加えるウインナーはうちの特製のもので、ただの挽肉以上に美味しいはずだからね」
ふとよぎった私の不安を、お父さんの一言が払ってくれた。
そうだ、私も大好きなうちの特製ウインナーは最高の味だ! それを使えばコロッケ以上においしいジャーマンオムレツが出来るに違いない。
「アミィ。しっかりとアゼル君をつかまえておくのよ!」
「そうだよ。あんな好青年はなかなかいないからね。それに、アミィのもう一つの夢をかなえることにも繋がるだろうから」
うん。さすがは私のお母さんとお父さん! 娘である私の事をしっかり考えてくれている!
「うん! 絶対に私はアゼルのお嫁さんになる! そして、魔法使いにもなるんだから!」
そう。これが私の二つの夢なんだ。お嫁さんと魔法使い。どっちもかなえてみせる。
アゼルといっしょならそれがかなうのだ。
だって、アゼルはものすごい『魔法使い』なのだから。
そして、今日もまた、魔法を教えに来てくれるのだから。
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