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元夫婦の関係
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アーロン・フォスターは十日間の船旅をおえ、久しぶりにおとずれたリオの屋敷で、リオではなく前妻のヘザーに出迎えられ「なぜだ」と思わずつぶやいていた。
「まあ、久しぶりにお会いしたというのに挨拶もないのですか」
ヘザーがアーロンを馬鹿にする声色で応じた。
「すまない。長旅のあとで頭がしっかりまわっていなかった」
ヘザーはリオが急用で出かけているがすぐに帰ってくることを早口でいうと、約束があるのでと去っていった。
リオの執事がリオからの伝言をさしだし、アーロンはヘザーが屋敷にいる事情を把握した。
ヘザーはこちらである演奏会のためにユール国へ戻ってきており、子供達と過ごす時間をつくりやすくするためにリオの屋敷に滞在しているということだった。
「まあ、子供達の母親で元夫婦だからリオの屋敷に滞在するのはおかしくないといえばおかしくないが、納得できないなあ。
これはやっぱり俺がお貴族様の文化に慣れてないからそう感じるんだろうな」
アーロンは思う。
もし自分がリオの立場なら、他の男のもとに走った元妻など二度と顔をみたくなければ、子供達に会わせたくもない。絶対に屋敷に泊めたりしない。
しかしこの国のお貴族様はそうではないらしい。さも当たり前のようにヘザーが滞在し、これまでと同じように振るまっている。
サイモンによく「貴様がこの国の平民だったら」といわれるが、この国の平民にもお貴族様にも生まれず本当によかったと思う。ユール国はディアス国にはない良さが多くあるが、このような状況を笑って受け入れろという文化は好きになれない。
旅装をときくつろいでいると眠気がおそう。アーロンはそのまま朝まで眠った。
◆◆◆◆◆◆
「起きろ。相変わらず無礼な奴だ」
目をあけるとサイモンの姿があった。
「なんでサイモンがここにいるんだよ。目覚めがわるい」
「貴様!」
サイモンがアーロンの体から掛け布をひっぱがした。
「貴様が本をもってくるというので、わざわざ取りにきてやったのに何なのだ。まだ寝ているとは」
サイモンが朝から元気に吠えている。
「侯爵様は他人の寝室にずかずか入りこむのが礼儀にかなっていると思ってるのか?」
「貴様のような無礼者にはらう礼儀などこの世にない」
ふん、と鼻でわらうサイモンはお貴族様そのものだ。ここはユール国だとしみじみする。
身なりを整え応接間で待っているサイモンのもとへいくと、リオも一緒にまっていた。
サイモンが取りに来たディアス国で話題になった恋愛小説をわたすと、サイモンの機嫌がなおり浮かれた様子をみせた。
サイモンは愛人が恋愛小説好きなのでプレゼントするためだといっていたが、アーロンはひそかに恋愛小説好きなのはサイモンで自分が読むためではと疑っている。
サイモンは人の恋愛話を聞くのが好きで、話をきくだけでなく首もつっこみたがる。サイモンは会うたびにアーロンに浮いた話はないのかとしつこく聞いてくる。
「貴様、ヘザーには会ったか?」
「ああ、昨日出迎えてくれた。一瞬、ジョセフと別れてリオの所に舞い戻ってきたのかと思ったよ」
サイモンは嫌そうな顔をしているが、リオの表情はまったく変わらなかった。
「冗談でもそのようなことをいうな。やっとあの女の顔をみなくてすむと思っていたら、のこのこ現れて面の皮が厚すぎる」
サイモンが怒っているのをみて、アーロンはもしかしてお貴族様的にもヘザーがこの屋敷にいるのはおかしいのかもと思いはじめた。
「おい、リオ。もしかしてこの無礼者がいったとおり、あの女が男と別れて戻ってきたということはないよな?」
「いまのところはない」
アーロンとサイモンは「いまのところ?」同時に叫んでいた。
「ヘザーはノルン国で苦労していてこちらへ戻って来ようかと悩むようになったといっていた」
アーロンは唖然とした。リオの言い方だと、もしヘザーがジョセフと別れユール国に戻ってきたら、ヘザーのことを受け入れそうに聞こえる。
「まさか、もしあの女が本当に男と別れてこの国に戻ってきたら受け入れるつもりがあるのか?」
サイモンの声がこれまで聞いたことがないほど低くなっている。
「再婚していなかったらそれも悪くないかもと思う」
「悪魔ばらいだ! 君にとりついている悪魔をはらうのだ」
サイモンが従僕をよびつけ悪魔ばらいで有名な人物と連絡をつけろと命令していた。
「サイモン、落ち着いてくれ。ヘザーは愚痴をこぼしていただけだ。彼女はジョセフと別れるつもりはないよ。
ノルン国はノルン語をうまく話せない外国人にあたりが強いからそれでヘザーがまいっているらしい」
サイモンが眼光鋭くリオをみつめる。
「論点はそこじゃない。君が離婚したあともヘザーを屋敷へ招き入れ、もしヘザーが離婚して戻ってきたら受け入れるという、その思考回路だ。
なぜあの女の言うとおりにするのだ。何か弱みでも握られて脅されているのか?」
リオが目をしばたたかせる。
「何をそのように怒っているのか分からないが、ヘザーは子供達の母親だ。ヘザーが屋敷に滞在すれば子供達とすごす時間をつくりやすい。彼女がここに滞在しているのはそういう理由からだ」
サイモンがため息をつく。
「リオ、あの女がここに滞在するのは子供に会いたいからではない。無料で快適に過ごせる場所が必要だからだ。
子供に久しぶりと挨拶するだけで母親づらする女だ。なぜ君はあの女に離婚しても好き勝手させるのだ」
サイモンとリオがお互い強い視線でみつめあっていた。
アーロンとリオは大学時代からのつきあいだが、サイモンとリオの二人は物心がついた時からのつきあいだ。
サイモンがリオに対し感じるいらだちは、サイモンはヘザーをリオに不要で害をなすと思っているが、リオがヘザーを遠ざけようとしないことだろう。
ヘザーがリオの妻であった時から、サイモンはヘザーはリオのためにならないと離婚させたがっていた。
しかしリオは決してヘザーと離婚しようとしなかった。リオがヘザーを愛していればサイモンも仕方ないと納得できただろう。
しかしリオはヘザーに政略結婚の相手以上の感情をもっていなかった。
そのことがサイモンをいらだたせた。ヘザーがサイモンの妻であれば容認しないようなことをリオは容認し、そして離婚してからもそれがつづいている。
「そういえば週末にリオの領地へ行くことになっているが、サイモンもくるんだろう?」
わざとのんびりした調子できくと二人の緊張がとけ、リオがサイモンだけでなく、カレンとカレンの友人のジャネットもくるとつけくわえた。
カレンを招待したとしり、アーロンは「これは、これは。あとでじっくり聞きださねば」心の中でつぶやく。
横目でサイモンをみると、サイモンも横目でアーロンをみていた。次期侯爵様はなにか言いたげだ。
「それは楽しみだな」アーロンがいうと、サイモンが「まさかヘザーも来るといわないだろうな、リオ」とにらんだ。
リオが、ジョセフが週末にこちらへ来る予定になっているので、ヘザーは二日後に子供達をつれて領地へいき、リオ達と入れ違いで週末は王都へもどると説明した。
「あの女、離婚しても君の家を自分の物のように我が物顔で使っていて不愉快だ」
サイモンが吐き捨てるようにいった。
今回の滞在は前回とちがい平和に過ごせるだろうと思っていたが、どうやら前回と変わらず波乱ぶくみだ。
アーロンはどうなることやらとため息をつきながら、すっかり冷めた茶を飲み干した。
「まあ、久しぶりにお会いしたというのに挨拶もないのですか」
ヘザーがアーロンを馬鹿にする声色で応じた。
「すまない。長旅のあとで頭がしっかりまわっていなかった」
ヘザーはリオが急用で出かけているがすぐに帰ってくることを早口でいうと、約束があるのでと去っていった。
リオの執事がリオからの伝言をさしだし、アーロンはヘザーが屋敷にいる事情を把握した。
ヘザーはこちらである演奏会のためにユール国へ戻ってきており、子供達と過ごす時間をつくりやすくするためにリオの屋敷に滞在しているということだった。
「まあ、子供達の母親で元夫婦だからリオの屋敷に滞在するのはおかしくないといえばおかしくないが、納得できないなあ。
これはやっぱり俺がお貴族様の文化に慣れてないからそう感じるんだろうな」
アーロンは思う。
もし自分がリオの立場なら、他の男のもとに走った元妻など二度と顔をみたくなければ、子供達に会わせたくもない。絶対に屋敷に泊めたりしない。
しかしこの国のお貴族様はそうではないらしい。さも当たり前のようにヘザーが滞在し、これまでと同じように振るまっている。
サイモンによく「貴様がこの国の平民だったら」といわれるが、この国の平民にもお貴族様にも生まれず本当によかったと思う。ユール国はディアス国にはない良さが多くあるが、このような状況を笑って受け入れろという文化は好きになれない。
旅装をときくつろいでいると眠気がおそう。アーロンはそのまま朝まで眠った。
◆◆◆◆◆◆
「起きろ。相変わらず無礼な奴だ」
目をあけるとサイモンの姿があった。
「なんでサイモンがここにいるんだよ。目覚めがわるい」
「貴様!」
サイモンがアーロンの体から掛け布をひっぱがした。
「貴様が本をもってくるというので、わざわざ取りにきてやったのに何なのだ。まだ寝ているとは」
サイモンが朝から元気に吠えている。
「侯爵様は他人の寝室にずかずか入りこむのが礼儀にかなっていると思ってるのか?」
「貴様のような無礼者にはらう礼儀などこの世にない」
ふん、と鼻でわらうサイモンはお貴族様そのものだ。ここはユール国だとしみじみする。
身なりを整え応接間で待っているサイモンのもとへいくと、リオも一緒にまっていた。
サイモンが取りに来たディアス国で話題になった恋愛小説をわたすと、サイモンの機嫌がなおり浮かれた様子をみせた。
サイモンは愛人が恋愛小説好きなのでプレゼントするためだといっていたが、アーロンはひそかに恋愛小説好きなのはサイモンで自分が読むためではと疑っている。
サイモンは人の恋愛話を聞くのが好きで、話をきくだけでなく首もつっこみたがる。サイモンは会うたびにアーロンに浮いた話はないのかとしつこく聞いてくる。
「貴様、ヘザーには会ったか?」
「ああ、昨日出迎えてくれた。一瞬、ジョセフと別れてリオの所に舞い戻ってきたのかと思ったよ」
サイモンは嫌そうな顔をしているが、リオの表情はまったく変わらなかった。
「冗談でもそのようなことをいうな。やっとあの女の顔をみなくてすむと思っていたら、のこのこ現れて面の皮が厚すぎる」
サイモンが怒っているのをみて、アーロンはもしかしてお貴族様的にもヘザーがこの屋敷にいるのはおかしいのかもと思いはじめた。
「おい、リオ。もしかしてこの無礼者がいったとおり、あの女が男と別れて戻ってきたということはないよな?」
「いまのところはない」
アーロンとサイモンは「いまのところ?」同時に叫んでいた。
「ヘザーはノルン国で苦労していてこちらへ戻って来ようかと悩むようになったといっていた」
アーロンは唖然とした。リオの言い方だと、もしヘザーがジョセフと別れユール国に戻ってきたら、ヘザーのことを受け入れそうに聞こえる。
「まさか、もしあの女が本当に男と別れてこの国に戻ってきたら受け入れるつもりがあるのか?」
サイモンの声がこれまで聞いたことがないほど低くなっている。
「再婚していなかったらそれも悪くないかもと思う」
「悪魔ばらいだ! 君にとりついている悪魔をはらうのだ」
サイモンが従僕をよびつけ悪魔ばらいで有名な人物と連絡をつけろと命令していた。
「サイモン、落ち着いてくれ。ヘザーは愚痴をこぼしていただけだ。彼女はジョセフと別れるつもりはないよ。
ノルン国はノルン語をうまく話せない外国人にあたりが強いからそれでヘザーがまいっているらしい」
サイモンが眼光鋭くリオをみつめる。
「論点はそこじゃない。君が離婚したあともヘザーを屋敷へ招き入れ、もしヘザーが離婚して戻ってきたら受け入れるという、その思考回路だ。
なぜあの女の言うとおりにするのだ。何か弱みでも握られて脅されているのか?」
リオが目をしばたたかせる。
「何をそのように怒っているのか分からないが、ヘザーは子供達の母親だ。ヘザーが屋敷に滞在すれば子供達とすごす時間をつくりやすい。彼女がここに滞在しているのはそういう理由からだ」
サイモンがため息をつく。
「リオ、あの女がここに滞在するのは子供に会いたいからではない。無料で快適に過ごせる場所が必要だからだ。
子供に久しぶりと挨拶するだけで母親づらする女だ。なぜ君はあの女に離婚しても好き勝手させるのだ」
サイモンとリオがお互い強い視線でみつめあっていた。
アーロンとリオは大学時代からのつきあいだが、サイモンとリオの二人は物心がついた時からのつきあいだ。
サイモンがリオに対し感じるいらだちは、サイモンはヘザーをリオに不要で害をなすと思っているが、リオがヘザーを遠ざけようとしないことだろう。
ヘザーがリオの妻であった時から、サイモンはヘザーはリオのためにならないと離婚させたがっていた。
しかしリオは決してヘザーと離婚しようとしなかった。リオがヘザーを愛していればサイモンも仕方ないと納得できただろう。
しかしリオはヘザーに政略結婚の相手以上の感情をもっていなかった。
そのことがサイモンをいらだたせた。ヘザーがサイモンの妻であれば容認しないようなことをリオは容認し、そして離婚してからもそれがつづいている。
「そういえば週末にリオの領地へ行くことになっているが、サイモンもくるんだろう?」
わざとのんびりした調子できくと二人の緊張がとけ、リオがサイモンだけでなく、カレンとカレンの友人のジャネットもくるとつけくわえた。
カレンを招待したとしり、アーロンは「これは、これは。あとでじっくり聞きださねば」心の中でつぶやく。
横目でサイモンをみると、サイモンも横目でアーロンをみていた。次期侯爵様はなにか言いたげだ。
「それは楽しみだな」アーロンがいうと、サイモンが「まさかヘザーも来るといわないだろうな、リオ」とにらんだ。
リオが、ジョセフが週末にこちらへ来る予定になっているので、ヘザーは二日後に子供達をつれて領地へいき、リオ達と入れ違いで週末は王都へもどると説明した。
「あの女、離婚しても君の家を自分の物のように我が物顔で使っていて不愉快だ」
サイモンが吐き捨てるようにいった。
今回の滞在は前回とちがい平和に過ごせるだろうと思っていたが、どうやら前回と変わらず波乱ぶくみだ。
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