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見栄をはる次期男爵
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リオ・トンプソン次期男爵は朝食にアーロンがあらわれたことに驚いた。
アーロンが海をはさんだディアス国から船旅で到着した翌日は、たいてい昼頃までねているのが普通だった。
「どうした? 朝早くに起きてくるなど初めてではないか?」
アーロンは「昨日の酒が悪かったのか目が覚めた」というと、だらしなくリオの向かいに腰をおろした。
リオは水と二日酔いにきく茶を用意するよう控えていた使用人に指示をだす。
「そういえばヘザーは?」
アーロンがそのように問いかけるのと同時にヘザーが顔をだした。
ヘザーは用事があるので茶を一杯飲んだあとすぐに出かけるといい、アーロンにあわただしく出かけることを詫びた。
ヘザーが出かけたあと、アーロンがリオに問いかけた。
「ヘザーとの離婚話はどうなった? 一ヶ月前に離婚するかもしれないという手紙をもらったから心配してたが、もう離婚が決まったから昨日の彼女と恋人になったということか?」
リオはアーロンにまだヘザーとの離婚について詳しく話していないことを思い出した。
一ヶ月前、ヘザーから離婚したいと話があった。離婚することで二人の意見は一致している。しかしヘザーの実家が口をはさみ話が進んでいなかった。
「いや、まだ離婚するまでいっていない。いろいろ調整しなくてはならないことがあって話がとまっている」
アーロンが二日酔いにきく茶に水をいれ冷ましていた。行儀が悪いが猫舌のアーロンらしい行動だ。アーロンの舌にあう温度になった茶をのみながら、アーロンが物言いたげな視線をリオにむけている。
「貴族は家のために政略結婚するから結婚後に愛人がいるのは普通なのは知ってる。
うん、知ってるが、お前がそういうことをするとは思わなかった。いや、なんだろう。意外だった。お前が恋人をつくったのが意外だった」
アーロンにそのようにいわれ、リオはアーロンが昨日から何をいおうとしていたのか理解した。
「昨日カレンのことを恋人だと紹介したが恋人じゃない」
アーロンが、リオがいったことを正しく理解しているのかあやしむような表情をみせている。
「昨日は便宜上というか、建前上というか、見栄をはるためにカレンのことを恋人だといったが、カレンは恋人のふりをしてくれているだけだ。対外的には恋人ではなく友人として紹介している」
アーロンは残っていた茶を一気に飲むと茶のおかわりを頼んだ。猫舌なので茶を濃いめにいれて水をまぜて欲しいと指示をつけくわえている。
「誰に見栄をはる必要があるんだ? ヘザーはお前に恋人がいないのは前々から知ってるし、ヘザーの恋人のジョセフはお前に恋人がいようが気にしないだろう」
アーロンがリオのいっている状況を理解できず困った顔をしていた。
「僕もいまひとつよく分からないが、サイモンがヘザーにこけにされて悔しくないのかといって恋人役をつくらされた」
「ああ、サイモンか」
アーロンが納得しうなずいている。
サイモン・クラーク次期侯爵はリオの幼馴染みで、幼児期からユール国の名門校で共に学び、大学も共に名門校、モーガン大学を卒業している。
アーロンがモーガン大学に留学していた時に、アーロンはリオを通じてサイモンと交流があった。
リオの実家であるコリンズ家、養子先のトンプソン家は本家であるムーア家との縁がうすいとはいえ、本家の貿易網を使って諸外国とのやりとりをしている。
そのため外国人との交流がひんぱんにあるので、リオは外国人に対する抵抗感をもっていなかった。
リオは新興国ディアスの平民であるアーロンとの交流に何の問題も感じたことはなかったが、サイモンは名門クラーク侯爵家の嫡男で平民や外国人に対し偏見があった。
とくにアーロンの母国であるディアス国に対し野蛮な国といった言い方をしていた。
大学は身分の平等をかかげていたが、学内でも身分制度のしがらみはあり、サイモンは平民や外国人に対する偏見や嫌悪をかくすことはなかった。
しかしリオを通しアーロンに興味をもち、自分とまったく違う価値観やディアス国の話に態度を軟化させ、偏見を捨てさったわけではないがアーロンと普通に話すていどにはなった。
「サイモンは前々からヘザーのことを嫌っていた。王都でピアニストとしていくらでも活動できるにもかかわらず、男のように地方にまでいくのは貴族の女性としてはしたないと思っている。
その上、恋の噂で浮名をながしていたから余計に目ざわりに思っていたようだ。
だからヘザーから離婚を切り出された話しをしたら、お前も恋人のひとつでもつくって見返せといいだし、それはもう恐ろしいほどの勢いで女性を紹介してきて選ばされた」
アーロンはサイモンの行動力をしっているだけに、「恐ろしいほどの勢い」がどのようなものか想像がついたのだろう。笑っていた。
「サイモンに押しつけられたようだが、本当のところただの恋人役なのか、それとも本気の恋人候補なのか、お前はカレンのことをどう思ってるんだ?」
リオはカレンの姿を思い浮かべた。カレンはサイモンの遠縁でリオと年が十二歳はなれていた。
カレンはオレンジ色にちかい赤毛に青い目というめずらしい組み合わせなだけでなく、美しい笑顔が印象的な女性だった。そしてその場にいるだけで場を明るくし、気のきいた会話ができた。
リオはカレンに良い印象をもっているが、何しろ年が十二歳はなれている。「若い」という言葉がつい口をついてしまう。
カレンもリオのことを男としてみておらず、純粋に困った人を助けているだけだろう。
そのことをアーロンにいうと、ふーんといったあと沈黙した。
アーロンが頼んだ茶がおかれ、熱すぎない茶の温度に満足したようで一気に飲み干した。
「そういえば、なぜヘザーは離婚したいんだ? これまでも好き勝手してただろう。わざわざ離婚する利点があるように思えないが」
リオは派手にため息をついた。リオにしてみれば離婚するのは面倒なので、今までどおりヘザーと愛人が好きにしてくれればよいと思っている。
政略結婚では恋をしたからといって、わざわざ家と家との契約をこわしてまで離婚することはない。
リオが再びため息をついていると領地からの伝言がとどいた。
リオはアーロンにことわり対応するために部屋をでる。朝から離婚の話で気が滅入ったが引きずるわけにはいかない。
笑顔をつくり気分をひきしめ執務室へとむかった。
アーロンが海をはさんだディアス国から船旅で到着した翌日は、たいてい昼頃までねているのが普通だった。
「どうした? 朝早くに起きてくるなど初めてではないか?」
アーロンは「昨日の酒が悪かったのか目が覚めた」というと、だらしなくリオの向かいに腰をおろした。
リオは水と二日酔いにきく茶を用意するよう控えていた使用人に指示をだす。
「そういえばヘザーは?」
アーロンがそのように問いかけるのと同時にヘザーが顔をだした。
ヘザーは用事があるので茶を一杯飲んだあとすぐに出かけるといい、アーロンにあわただしく出かけることを詫びた。
ヘザーが出かけたあと、アーロンがリオに問いかけた。
「ヘザーとの離婚話はどうなった? 一ヶ月前に離婚するかもしれないという手紙をもらったから心配してたが、もう離婚が決まったから昨日の彼女と恋人になったということか?」
リオはアーロンにまだヘザーとの離婚について詳しく話していないことを思い出した。
一ヶ月前、ヘザーから離婚したいと話があった。離婚することで二人の意見は一致している。しかしヘザーの実家が口をはさみ話が進んでいなかった。
「いや、まだ離婚するまでいっていない。いろいろ調整しなくてはならないことがあって話がとまっている」
アーロンが二日酔いにきく茶に水をいれ冷ましていた。行儀が悪いが猫舌のアーロンらしい行動だ。アーロンの舌にあう温度になった茶をのみながら、アーロンが物言いたげな視線をリオにむけている。
「貴族は家のために政略結婚するから結婚後に愛人がいるのは普通なのは知ってる。
うん、知ってるが、お前がそういうことをするとは思わなかった。いや、なんだろう。意外だった。お前が恋人をつくったのが意外だった」
アーロンにそのようにいわれ、リオはアーロンが昨日から何をいおうとしていたのか理解した。
「昨日カレンのことを恋人だと紹介したが恋人じゃない」
アーロンが、リオがいったことを正しく理解しているのかあやしむような表情をみせている。
「昨日は便宜上というか、建前上というか、見栄をはるためにカレンのことを恋人だといったが、カレンは恋人のふりをしてくれているだけだ。対外的には恋人ではなく友人として紹介している」
アーロンは残っていた茶を一気に飲むと茶のおかわりを頼んだ。猫舌なので茶を濃いめにいれて水をまぜて欲しいと指示をつけくわえている。
「誰に見栄をはる必要があるんだ? ヘザーはお前に恋人がいないのは前々から知ってるし、ヘザーの恋人のジョセフはお前に恋人がいようが気にしないだろう」
アーロンがリオのいっている状況を理解できず困った顔をしていた。
「僕もいまひとつよく分からないが、サイモンがヘザーにこけにされて悔しくないのかといって恋人役をつくらされた」
「ああ、サイモンか」
アーロンが納得しうなずいている。
サイモン・クラーク次期侯爵はリオの幼馴染みで、幼児期からユール国の名門校で共に学び、大学も共に名門校、モーガン大学を卒業している。
アーロンがモーガン大学に留学していた時に、アーロンはリオを通じてサイモンと交流があった。
リオの実家であるコリンズ家、養子先のトンプソン家は本家であるムーア家との縁がうすいとはいえ、本家の貿易網を使って諸外国とのやりとりをしている。
そのため外国人との交流がひんぱんにあるので、リオは外国人に対する抵抗感をもっていなかった。
リオは新興国ディアスの平民であるアーロンとの交流に何の問題も感じたことはなかったが、サイモンは名門クラーク侯爵家の嫡男で平民や外国人に対し偏見があった。
とくにアーロンの母国であるディアス国に対し野蛮な国といった言い方をしていた。
大学は身分の平等をかかげていたが、学内でも身分制度のしがらみはあり、サイモンは平民や外国人に対する偏見や嫌悪をかくすことはなかった。
しかしリオを通しアーロンに興味をもち、自分とまったく違う価値観やディアス国の話に態度を軟化させ、偏見を捨てさったわけではないがアーロンと普通に話すていどにはなった。
「サイモンは前々からヘザーのことを嫌っていた。王都でピアニストとしていくらでも活動できるにもかかわらず、男のように地方にまでいくのは貴族の女性としてはしたないと思っている。
その上、恋の噂で浮名をながしていたから余計に目ざわりに思っていたようだ。
だからヘザーから離婚を切り出された話しをしたら、お前も恋人のひとつでもつくって見返せといいだし、それはもう恐ろしいほどの勢いで女性を紹介してきて選ばされた」
アーロンはサイモンの行動力をしっているだけに、「恐ろしいほどの勢い」がどのようなものか想像がついたのだろう。笑っていた。
「サイモンに押しつけられたようだが、本当のところただの恋人役なのか、それとも本気の恋人候補なのか、お前はカレンのことをどう思ってるんだ?」
リオはカレンの姿を思い浮かべた。カレンはサイモンの遠縁でリオと年が十二歳はなれていた。
カレンはオレンジ色にちかい赤毛に青い目というめずらしい組み合わせなだけでなく、美しい笑顔が印象的な女性だった。そしてその場にいるだけで場を明るくし、気のきいた会話ができた。
リオはカレンに良い印象をもっているが、何しろ年が十二歳はなれている。「若い」という言葉がつい口をついてしまう。
カレンもリオのことを男としてみておらず、純粋に困った人を助けているだけだろう。
そのことをアーロンにいうと、ふーんといったあと沈黙した。
アーロンが頼んだ茶がおかれ、熱すぎない茶の温度に満足したようで一気に飲み干した。
「そういえば、なぜヘザーは離婚したいんだ? これまでも好き勝手してただろう。わざわざ離婚する利点があるように思えないが」
リオは派手にため息をついた。リオにしてみれば離婚するのは面倒なので、今までどおりヘザーと愛人が好きにしてくれればよいと思っている。
政略結婚では恋をしたからといって、わざわざ家と家との契約をこわしてまで離婚することはない。
リオが再びため息をついていると領地からの伝言がとどいた。
リオはアーロンにことわり対応するために部屋をでる。朝から離婚の話で気が滅入ったが引きずるわけにはいかない。
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