26 / 32
夏休み 双子訪問
第二十六話
しおりを挟む「ただいま」
商店街を出てからはすぐに家に帰ってきた。二人の予定では豊海神社も今日行く予定だったのだけど、明日のお祭りで行くからいいということになった。
もし美夢が商店街の掲示板を見なかったとしても、神社で祭りの準備をしているところを見て同じような流れになったと思う。
お前たちはお祭りに行く運命なのだ、と豊海神社に祀られた神さまにでも言われているような気がした。
家に入ると私たちより大きい黒い革靴が玄関に置かれていた。長々と履かれた靴から汗臭い匂いがする。
私はすかさず下駄箱の中にあるファブリーズを取り出し、鼻を摘んでから靴に二、三回吹きかける。そしてど真ん中に置かれたそれを玄関の隅に追いやった。
「遥華ん家もか」
後ろで一部始終を見ていたいずみが両腕を組んでうんうんを頷いていた。
「お父さんの靴ってこの時期特にきついよね。私たちのために働いているとはいえ・・・ねぇ?」
「そうなんだよね。放置していると玄関自体が臭くなっちゃって」
この年頃の女の子のよくある話でお互いの共感を得ているとリビングのドアが開いた。
「玄関で何しているんだ?」
白いワイシャツに黒いズボン、おでこからは短い髪では隠せない汗が見える。
パパは玄関で話し込んでいる私たちを不思議そうに見ている。
「パパ!また靴をファブってなかったよ」
「あ、そうだったか。それはすまない」
本当に申し訳ないと思っているのか、パパは首に手を当てながら苦笑している。
このやり取りは何回目だろう。数えるのも面倒なぐらい同じことを言っている気がする。
私とのいつもの会話を終えるとパパが私の後ろにいる二人に目を向けた。
「いらっしゃい美夢ちゃん、いずみちゃん」
「「お邪魔してます」」
二人は軽く頭を下げた。
「じゃ、風呂入って来るから」
そう言ってパパは風呂場に向かって行った。私たちは靴を脱ぐとリビングに入った。
二人の新たな生活や学校について聞きながら食事を終えた私は美夢といずみを先に風呂に入れさせた。パパはシャワーを浴びたようで、食事中に浴槽が満タンになったことを知らせる音がピーピーとなっていた。
二人がいない部屋でベットに横になっていると勉強机に置いていたスマホがブーブーと揺れだした。
マナーモード状態のスマホを手にとって耳に当てる。
「もしもし遥華、今時間いい?」
いつも聞いていて飽きる事のない声が電話越しに聞こえる。
「いいよ。でも後で風呂に入るから途中で切るよ」
「わかった。それで聞いてよ遥華!」
いつもこんな感じで私たちの会話が始まる。どこの女の子もこんな感じだろう。目的もなく、ただお互いが言いたいことを言って、それを聞く。ときには同意して、ときにはアドバイスをあげる。そんなたわいもない会話。
「今日さ、帰りに買った私の高級プリン、今日の風呂上がりに楽しみにしてたのに、お姉ちゃんが全部食べちゃったんだよ!しかも謝罪もない!あのプリンあっちしか売ってないのに」
今日はお姉さんとの喧嘩の話らしい。楓のお姉さんは楓とはうって変わって可愛いというより綺麗な人だ。見た目はそんなに変わらないけど年上の魅力だろうか、大学生らしい女性らしさをまとっている。会ったのは去年の文化祭のときだけだけど。
「今度からプリンの蓋に名前を書くとか、家族にわからないように別のもので隠しておくとかしたらどう?」
私もたまにパパに似たようなことをされるのでその対策法を楓にも教えた。楓もそうしてみると言ってこの話は完結した。
「それで遥華、明日空いてる?」
「明日は・・・」
答えようとしたときガチャッと部屋のドアが開いた。
「ハルちゃんお風呂ありがとう」
タオルで濡れた髪を挟んで丁寧に拭く美夢が姿を現した。階段の方からは誰かが上がって来る足音も聞こえる。
「ハルちゃん?」
電話の向こうから楓の不思議そうな声が聞こえた。
「ごめん、後でまた電話する」
そう言うと楓は納得はしていないだろうけどわかったと言ってくれたので通話を切った。
その様子を見ていた美夢があ!と何かを察したような声を上げた。
「ハルちゃんごめん。彼氏からの電話中に」
美夢がなんだか申し訳なさそうにそう言った。それを聞いていたいずみがえ、彼氏!と食いつく。
「そんなんじゃない。ただの友達」
「そっか、彼氏じゃないのか」
「そうだよ」
いずみがなんでそこでがっかりするのかは分からなかったが、ひとまず誤解を解くことが出来たので私は風呂場に向かった。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[不定期更新中]
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる