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二人の関係
第八話
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少し早歩きで向かった中庭では生い茂った木に体を預けている楓がいた。スマホもいじることなく、ただ下を向いている。
「楓遅れてごめん」
私の声に楓は顔を上げる。そして今日初めての笑顔を見せた。
「いいよ、また返事してたんでしょう?」
楓にはお見通しなのだろう。もしくは私が校舎裏に行くのが見えただけかも知れない。
「うん」
「男子の遥華人気はまだ冷めないか」
からかうような言い方で楓は言う。楓なりの緊張解しなのかも知れない。楓はわかっている。私が何でここに呼んだか。わからないはずがない。
「楓、告白の答え」
楓は一度だけ瞬きをした。生理的なものではない。ゆっくりと目を閉じたから。
「うん、聞かせて」
楓はなんとも言えない表情を浮かべた。いろんな感情をかき混ぜたような顔。その顔を見ながら私は口を開ける。
「私にはまだわからない、楓への気持ちが。私も楓のことは好きだよ。大変なときにそばにいてくれたり、ときには助けてくれたり。でも私のこの好きは楓と同じ好きかどうかはっきりしない」
楓は目を逸らすことなく私の言葉を受け止める。時より風で髪が顔にかかることがあるけど、それすら退ける事すらしない。
「だからこれからゆっくりと私の知らない楓を知りたい」
楓と目合わせたままこの言葉を送る。私の初めての彼女(彼氏)に向かって。
「だから付き合おう、楓」
まとめていた答えとは全然違うものになってしまったけど、私は自分の考えを楓に伝えられた。本当はもっと短かったんだけどね。
少し遠回しに伝えた答えを顔色ひとつ変えず楓は口を開けた。
「本当にいいんだね」
何かを確認するように、確かめるように楓は問うてくる。
そんな楓を捉えたまま、私は問いに答える。
「いいよ」
「・・・ありがとう」
楓は笑顔で言った。何かに満ち足りたような楓の笑顔を見たのは初めてだった。
家に帰っても実感がない。私は楓と付き合うことにした。どっちが彼氏で彼女なのかわからない。両方とも彼女なのかも知れない。
楓は今何をしているんだろう?不意にそう思った時、楓にそれが伝わったかのように机に置いたスマホがブルッと震えた。
(今何してる?)
スマホを手に取るとまたブルっと震える。トークにはさっきのコメントとウサギが暇!と叫んでいるスタンプが着ていた。楓からのLIENを見て少し頬が緩む。学校の用事以外でこうして連絡を取るのは初めてだった。それが今としては不思議に思う。一年の時から仲が良かったのに。
遥(ベットで寝転んでるよ)
楓(明日の昼どこにいる?)
遥(いつものところ)
楓(わかった。購買に行ってから行くね)
遥(待ってるよ)
時間差のある会話も新鮮味があっていい。最後にカエルが了解を敬礼したスタンプが送られて来てから私たちの会話は終わった。
スマホを置いてまたベットに横たわる。明日は金曜日、今週はいつもより早く終わって行く気がする。月曜日に楓に告白された。火曜日に楓に好きなところを聞いた。水曜日に保健室で楓に対してドキッとした。
そして今日、楓に告白の返事をした。思い返すと忙しくて、だからこそ充実していたように思う。
部屋の電気を消してカーテンを少し開けて外を見る。星の光をかき消すほどの街明かりが目に入る。高い位置の光がビルで動いているのが車のものだろう。周りの家には電気がまばらに付いている。空では三日月がちょうど真ん中まで上がって来ていた。
夜に外を眺めるのは久しぶりで少しの間そうしていた。
どれぐらい時間が経ったか分からないが、カーテンを閉めてベットに横になる。明日からはより充実しているのだろうか。期待半分、不安半分の気持ちは悪い気はしなかった。
「楓遅れてごめん」
私の声に楓は顔を上げる。そして今日初めての笑顔を見せた。
「いいよ、また返事してたんでしょう?」
楓にはお見通しなのだろう。もしくは私が校舎裏に行くのが見えただけかも知れない。
「うん」
「男子の遥華人気はまだ冷めないか」
からかうような言い方で楓は言う。楓なりの緊張解しなのかも知れない。楓はわかっている。私が何でここに呼んだか。わからないはずがない。
「楓、告白の答え」
楓は一度だけ瞬きをした。生理的なものではない。ゆっくりと目を閉じたから。
「うん、聞かせて」
楓はなんとも言えない表情を浮かべた。いろんな感情をかき混ぜたような顔。その顔を見ながら私は口を開ける。
「私にはまだわからない、楓への気持ちが。私も楓のことは好きだよ。大変なときにそばにいてくれたり、ときには助けてくれたり。でも私のこの好きは楓と同じ好きかどうかはっきりしない」
楓は目を逸らすことなく私の言葉を受け止める。時より風で髪が顔にかかることがあるけど、それすら退ける事すらしない。
「だからこれからゆっくりと私の知らない楓を知りたい」
楓と目合わせたままこの言葉を送る。私の初めての彼女(彼氏)に向かって。
「だから付き合おう、楓」
まとめていた答えとは全然違うものになってしまったけど、私は自分の考えを楓に伝えられた。本当はもっと短かったんだけどね。
少し遠回しに伝えた答えを顔色ひとつ変えず楓は口を開けた。
「本当にいいんだね」
何かを確認するように、確かめるように楓は問うてくる。
そんな楓を捉えたまま、私は問いに答える。
「いいよ」
「・・・ありがとう」
楓は笑顔で言った。何かに満ち足りたような楓の笑顔を見たのは初めてだった。
家に帰っても実感がない。私は楓と付き合うことにした。どっちが彼氏で彼女なのかわからない。両方とも彼女なのかも知れない。
楓は今何をしているんだろう?不意にそう思った時、楓にそれが伝わったかのように机に置いたスマホがブルッと震えた。
(今何してる?)
スマホを手に取るとまたブルっと震える。トークにはさっきのコメントとウサギが暇!と叫んでいるスタンプが着ていた。楓からのLIENを見て少し頬が緩む。学校の用事以外でこうして連絡を取るのは初めてだった。それが今としては不思議に思う。一年の時から仲が良かったのに。
遥(ベットで寝転んでるよ)
楓(明日の昼どこにいる?)
遥(いつものところ)
楓(わかった。購買に行ってから行くね)
遥(待ってるよ)
時間差のある会話も新鮮味があっていい。最後にカエルが了解を敬礼したスタンプが送られて来てから私たちの会話は終わった。
スマホを置いてまたベットに横たわる。明日は金曜日、今週はいつもより早く終わって行く気がする。月曜日に楓に告白された。火曜日に楓に好きなところを聞いた。水曜日に保健室で楓に対してドキッとした。
そして今日、楓に告白の返事をした。思い返すと忙しくて、だからこそ充実していたように思う。
部屋の電気を消してカーテンを少し開けて外を見る。星の光をかき消すほどの街明かりが目に入る。高い位置の光がビルで動いているのが車のものだろう。周りの家には電気がまばらに付いている。空では三日月がちょうど真ん中まで上がって来ていた。
夜に外を眺めるのは久しぶりで少しの間そうしていた。
どれぐらい時間が経ったか分からないが、カーテンを閉めてベットに横になる。明日からはより充実しているのだろうか。期待半分、不安半分の気持ちは悪い気はしなかった。
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