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第三十八話
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予定通りの電車に乗り、新幹線に乗り換え、再び電車に乗り換え、最後はバスに乗って・・・本当田舎って嫌だ。
バスを降りて目の前に広がるのは田畑だけ。道路は整備されておらず所々亀裂が入っている。
「すごいね」
横に立って同じ景色を見ている彼女がそう呟いた。
向こうでは高層ビルや住宅地は嫌と言うほど目にするが、田畑をしている親戚などがいない限りこういった景色を見ることはほとんどないだろう。
初めて都会と言える場所に行った時の俺も同じような反応したなと思いながら彼女に手を差し伸べる。
「荷物貸して。今から少し歩くから」
「ありがとう」
俺は彼女が持っていたスーツケースを受け取る。
「家までかなりあるの?」
「まぁ、そこそこね」
バス停から見える近い家でも数十分はかかるから決して近いとは言えない。
返事をしてから俺たちは道路に沿って歩いていると後ろからクラクションが聞こえてきた。
「おーい!晴太」
クラクションを鳴らした軽トラの窓から顔を出して叫ぶ男性。その人は俺たちの真横にまで来ると車を停止させた。白い服に首にタオルを巻いている男性。俺はその人を良く知っている。
「純《じゅん》さん」
「久しいな、何年ぶりだ?」
「多分3年ぶり」
「もう3年か、早いな」
彼は俺と会話をしながらもちょくちょく後ろにいる彼女を目で捉えていた。気になるのだろう。
「こちら俺の彼女の幸」
紹介され、彼女は軽く頭を下げた。
「か、彼女だと!?クッソー、晴太に先越された」
彼は掌を額に当てながら本当に悔しそうな顔をする。
「で、こちらは幼馴染の純さん。俺より3つ上」
「純一《じゅんいち》だ、よろしく」
一通り紹介と挨拶を終えると純さんは親指を後ろに向けた。
「狭いけど乗ってくか?」
「ありがとう」
俺は礼を言って荷台に荷物を置く。荷台には段ボールに入った野菜が大量に積まれていた。土もついているので取りたてなのだろう。
どうすればいいかわからない彼女はその場で突っ立っていた。
「彼女さんも助席に乗りな」
彼の提案に彼女は不安の顔を見せた。軽トラは2人乗り。助席にどちらかが乗れば場所はなくなるのは当然だ。それに加え、荷台にスーツケースと鞄を置いたことでスペースがなくなった。
「晴太の膝の上にでも乗ればいいから」
「え!?それっていいんですか?」
「普通はだめだな。でもこの辺じゃよくやるから問題ない」
その言葉によりいっそ不安な顔を浮かべている。
「幸、大丈夫だから。近くの警察署まで軽く5キロはあるし、めったに来ないから」
荷物を置いて助席のドアを開けながら彼女に言う。彼女は表情を変えることはなかったが、車の後ろを回って助席の来た。先に俺が乗り、その上に彼女を乗せる。シートベルトは彼女の前を通してからロックした。寂しく居場所がない腕を彼女の腰に回す。彼女も俺の手に重ねるように乗せた。
「じゃあ行くぞ」
彼はそう言うとアクセルを踏んだ。
長い一本道をひたすら軽トラで走る。変わらない景色に見飽きてしまう。しかし彼女はそうでもないようで、ずっと外の方を見つけている。
しばらくそうした無言の時間が続いていたが、それを純さんが破った。
「そういえば、柚《ゆず》さんは晴太が返って来ることを知っているのか?」
彼の言う柚さんとは俺の母さんのことだ。
「どうして?」
「いや、今朝あったんだけど、そういった話をしなかったから」
「そうなんだ・・・ふ~ん」
母さんはうれしいことがあるとすぐに人に話そうとする人だ。小学校で賞を取って帰ると次の日には村では周知の事実をなっているほど。
そんな母さんが3年ぶりに帰って来る息子のことを喜んでいないのだろうか?・・・3年も帰らなかった息子が言うのもなんだが。
前を見ていると見慣れた家々が見えてきた。赤い屋根に白い壁、横に長い一階建て。彼の実家だ。
その奥に二階建てのネズミ色の壁にソーラーパネルで片面が埋まった屋根、懐かしい我が家だ。
彼は自分の家の前に車を止め、バックで車庫に入れる。
「手伝おうか?」
車を入れ終えた彼に聞くと彼は首を左右に振った。
「いいよ、それより柚さんに早く顔を見せてやりな」
「わかった、そうする」
シートベルトを外し、彼女から先に降りてもらってから、俺も続いて降りる。
彼は気を使ってくれたのか、地面にはスーツケースと鞄が下ろされていた。
「よいしょっと」
彼はその横に置いていたダンボールから順に下ろしていく。俺たちは彼に背を向けて隣の家に向かった。
玄関の前に立つ。すごく久しぶりで扉を開けるのを躊躇してしまう。
大きく息を吸って、吐く。たったそれだけでなんだが体が少し軽くなった。俺は意を決して扉に手をかけることにした。
ガラガラ。
俺の手が扉に触れる前に扉が自動的に開いて行く。
「お父さん、晴太を迎えに行って来るね」
「ああ」
扉の向こうからはこちらに背を向けている母さんが現れた。母さんは父さんの返事を聞くと前を向き、玄関前に立っていた俺と目を合わせる。
「あら、晴太」
「・・・久しぶり、母さん」
母さんは俺の顔を見ると笑顔を見せた。
「おかえり」
久しぶりに見る何にも変わっていない母さんの顔を見て、安心した俺は同じように笑ってみせた。
「ただいま」
「ここまで歩いてきたの?今から迎えに行こうと思っていたんだけど」
「いや、純さんが通りかかったからついでに乗せてもらった」
「そうなのね、あとでお礼言っておこうかな」
会話がひと段落して、母さんは俺の後ろでスーツケースを持った彼女に気が付いた。
「あの・・・どちら様でしょうか?」
母さんは初めて見る彼女に首を傾げなから聞く。一方の彼女はスーツケースから手を放し姿勢を正す。
「初めまして、村上幸と申します。晴太くんとお付き合いさせていただいています」
年上だからだろうか、それとも大人だからだろうか、彼女の挨拶はとても上品で様になっていた。
「か、彼女・・・」
頭を下げている彼女を見ながら母さんは彼女ってなに?みたいな顔をした。まるでその言葉の意味を最初から知らないような困惑とした顔。
数秒の間が開いて我に返った母さんは慌てて挨拶を返した。
「は、初めまして、晴太の母の秋原柚希《あきはらゆずき》です。息子がお世話になってます」
「こちらこそ、晴太くんにはいろいろとお世話になってます」
母さんと彼女が顔を上げると母さんは一目散に玄関に振り向いた。
「お父さん!晴太が、晴太が!」
急に大きな声を出したので、さすがに気になったのだろう、リビングから父さんが頭をかきながら出てきた。
「どうした?晴太を迎えに行くんじゃなかったのか?」
父さんは玄関に立っている俺と目を合わせる。
「ただいま」
「おお、お帰り・・・それで母さんはどうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもないのよ!」
「何がだ?」
「晴太が彼女を連れて来たの!」
父さんは俺たちよりさらに外にいる彼女に目を向けた。
「・・・そうか、それより早く中に入れ。いつまでそこにいるつもりなんだ?」
「え!?・・・そ、そうよね」
冷静な父さんを見て、母さんも徐々に落ち着きを取り戻していった。
「どうぞ、何もない家だけど・・・」
「いえ、お構いなく」
母さんはささっとリビングにかけて行った。何をしに行ったか聞く前に母さんの姿が消えたのでわからない。父さんも遅れてリビングに戻って行った。
「スーツケース貸して、部屋まで案内するよ」
「うん」
彼女から再びスーツケースを受け取ると靴を脱ぎ、俺の部屋に向かった。
バスを降りて目の前に広がるのは田畑だけ。道路は整備されておらず所々亀裂が入っている。
「すごいね」
横に立って同じ景色を見ている彼女がそう呟いた。
向こうでは高層ビルや住宅地は嫌と言うほど目にするが、田畑をしている親戚などがいない限りこういった景色を見ることはほとんどないだろう。
初めて都会と言える場所に行った時の俺も同じような反応したなと思いながら彼女に手を差し伸べる。
「荷物貸して。今から少し歩くから」
「ありがとう」
俺は彼女が持っていたスーツケースを受け取る。
「家までかなりあるの?」
「まぁ、そこそこね」
バス停から見える近い家でも数十分はかかるから決して近いとは言えない。
返事をしてから俺たちは道路に沿って歩いていると後ろからクラクションが聞こえてきた。
「おーい!晴太」
クラクションを鳴らした軽トラの窓から顔を出して叫ぶ男性。その人は俺たちの真横にまで来ると車を停止させた。白い服に首にタオルを巻いている男性。俺はその人を良く知っている。
「純《じゅん》さん」
「久しいな、何年ぶりだ?」
「多分3年ぶり」
「もう3年か、早いな」
彼は俺と会話をしながらもちょくちょく後ろにいる彼女を目で捉えていた。気になるのだろう。
「こちら俺の彼女の幸」
紹介され、彼女は軽く頭を下げた。
「か、彼女だと!?クッソー、晴太に先越された」
彼は掌を額に当てながら本当に悔しそうな顔をする。
「で、こちらは幼馴染の純さん。俺より3つ上」
「純一《じゅんいち》だ、よろしく」
一通り紹介と挨拶を終えると純さんは親指を後ろに向けた。
「狭いけど乗ってくか?」
「ありがとう」
俺は礼を言って荷台に荷物を置く。荷台には段ボールに入った野菜が大量に積まれていた。土もついているので取りたてなのだろう。
どうすればいいかわからない彼女はその場で突っ立っていた。
「彼女さんも助席に乗りな」
彼の提案に彼女は不安の顔を見せた。軽トラは2人乗り。助席にどちらかが乗れば場所はなくなるのは当然だ。それに加え、荷台にスーツケースと鞄を置いたことでスペースがなくなった。
「晴太の膝の上にでも乗ればいいから」
「え!?それっていいんですか?」
「普通はだめだな。でもこの辺じゃよくやるから問題ない」
その言葉によりいっそ不安な顔を浮かべている。
「幸、大丈夫だから。近くの警察署まで軽く5キロはあるし、めったに来ないから」
荷物を置いて助席のドアを開けながら彼女に言う。彼女は表情を変えることはなかったが、車の後ろを回って助席の来た。先に俺が乗り、その上に彼女を乗せる。シートベルトは彼女の前を通してからロックした。寂しく居場所がない腕を彼女の腰に回す。彼女も俺の手に重ねるように乗せた。
「じゃあ行くぞ」
彼はそう言うとアクセルを踏んだ。
長い一本道をひたすら軽トラで走る。変わらない景色に見飽きてしまう。しかし彼女はそうでもないようで、ずっと外の方を見つけている。
しばらくそうした無言の時間が続いていたが、それを純さんが破った。
「そういえば、柚《ゆず》さんは晴太が返って来ることを知っているのか?」
彼の言う柚さんとは俺の母さんのことだ。
「どうして?」
「いや、今朝あったんだけど、そういった話をしなかったから」
「そうなんだ・・・ふ~ん」
母さんはうれしいことがあるとすぐに人に話そうとする人だ。小学校で賞を取って帰ると次の日には村では周知の事実をなっているほど。
そんな母さんが3年ぶりに帰って来る息子のことを喜んでいないのだろうか?・・・3年も帰らなかった息子が言うのもなんだが。
前を見ていると見慣れた家々が見えてきた。赤い屋根に白い壁、横に長い一階建て。彼の実家だ。
その奥に二階建てのネズミ色の壁にソーラーパネルで片面が埋まった屋根、懐かしい我が家だ。
彼は自分の家の前に車を止め、バックで車庫に入れる。
「手伝おうか?」
車を入れ終えた彼に聞くと彼は首を左右に振った。
「いいよ、それより柚さんに早く顔を見せてやりな」
「わかった、そうする」
シートベルトを外し、彼女から先に降りてもらってから、俺も続いて降りる。
彼は気を使ってくれたのか、地面にはスーツケースと鞄が下ろされていた。
「よいしょっと」
彼はその横に置いていたダンボールから順に下ろしていく。俺たちは彼に背を向けて隣の家に向かった。
玄関の前に立つ。すごく久しぶりで扉を開けるのを躊躇してしまう。
大きく息を吸って、吐く。たったそれだけでなんだが体が少し軽くなった。俺は意を決して扉に手をかけることにした。
ガラガラ。
俺の手が扉に触れる前に扉が自動的に開いて行く。
「お父さん、晴太を迎えに行って来るね」
「ああ」
扉の向こうからはこちらに背を向けている母さんが現れた。母さんは父さんの返事を聞くと前を向き、玄関前に立っていた俺と目を合わせる。
「あら、晴太」
「・・・久しぶり、母さん」
母さんは俺の顔を見ると笑顔を見せた。
「おかえり」
久しぶりに見る何にも変わっていない母さんの顔を見て、安心した俺は同じように笑ってみせた。
「ただいま」
「ここまで歩いてきたの?今から迎えに行こうと思っていたんだけど」
「いや、純さんが通りかかったからついでに乗せてもらった」
「そうなのね、あとでお礼言っておこうかな」
会話がひと段落して、母さんは俺の後ろでスーツケースを持った彼女に気が付いた。
「あの・・・どちら様でしょうか?」
母さんは初めて見る彼女に首を傾げなから聞く。一方の彼女はスーツケースから手を放し姿勢を正す。
「初めまして、村上幸と申します。晴太くんとお付き合いさせていただいています」
年上だからだろうか、それとも大人だからだろうか、彼女の挨拶はとても上品で様になっていた。
「か、彼女・・・」
頭を下げている彼女を見ながら母さんは彼女ってなに?みたいな顔をした。まるでその言葉の意味を最初から知らないような困惑とした顔。
数秒の間が開いて我に返った母さんは慌てて挨拶を返した。
「は、初めまして、晴太の母の秋原柚希《あきはらゆずき》です。息子がお世話になってます」
「こちらこそ、晴太くんにはいろいろとお世話になってます」
母さんと彼女が顔を上げると母さんは一目散に玄関に振り向いた。
「お父さん!晴太が、晴太が!」
急に大きな声を出したので、さすがに気になったのだろう、リビングから父さんが頭をかきながら出てきた。
「どうした?晴太を迎えに行くんじゃなかったのか?」
父さんは玄関に立っている俺と目を合わせる。
「ただいま」
「おお、お帰り・・・それで母さんはどうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもないのよ!」
「何がだ?」
「晴太が彼女を連れて来たの!」
父さんは俺たちよりさらに外にいる彼女に目を向けた。
「・・・そうか、それより早く中に入れ。いつまでそこにいるつもりなんだ?」
「え!?・・・そ、そうよね」
冷静な父さんを見て、母さんも徐々に落ち着きを取り戻していった。
「どうぞ、何もない家だけど・・・」
「いえ、お構いなく」
母さんはささっとリビングにかけて行った。何をしに行ったか聞く前に母さんの姿が消えたのでわからない。父さんも遅れてリビングに戻って行った。
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「うん」
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